暇人の感想日記

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これは現代の『ロッキー』だ【宮本から君へ】感想

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95点

 

 

 新井英樹先生原作の漫画、「宮本から君へ」の映画化作品。監督は『ディストラクション・ベイビーズ』の真利子哲也。2018年には同監督でTVドラマ化もされており、本作はTVドラマの続篇になります。だからこそ、最初は観るのを躊躇しました。鑑賞前は、私はTVドラマを1話も見ていなかったからです。「TVドラマを見ていなければ、十分に楽しめないのでは?」そう思っていました。しかし、よくよく考えてみれば、あの真利子哲也監督が「TVドラマを見ていなければ楽しめないボーナストラック作品」を作るはずもなく、仮にもしそうだとしても、動画配信サービスで見ることができるしと思い、鑑賞する日までにTVドラマを4話まで見て鑑賞した次第です。

 

 本作はTVドラマとは大きく趣が異なり、靖子と宮本の2人に焦点が当てられ、2人が結婚するまでを描いています。そのため、TVドラマ版のようなマルキタ文具の仕事描写は基本的になく、TVドラマ版の登場人物もほとんど本筋に絡んできません。なので、TVドラマを見ていなくても結構問題なく楽しめます。他にTVドラマ版との違いとしては、ドラマ版にはあった宮本のモノローグの排除ですかね。

 

ディストラクション・ベイビーズ 特別版(2枚組)[Blu-ray]

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 現実世界では、ほとんどの人間が「負け組」です。就活で苦労して入社したとしてもそこからは苦労の連続ですし、自分の努力が報われることは少ない。でもそのくせ、たとえ尊敬していなくても、上の人間には頭を下げなければならない。理不尽なことをされても倍返ししてくれる半沢直樹はいないのです。TVドラマ版はこの点をかなりしっかりとやっていて、宮本は恋愛ではふられるし取引先とのコンペでは自分の自己満足を押し通して周りに迷惑をかけまくり、相手の不正を暴くもそれはスルーされ憎きライバルに負けるしで散々で、最終的には「負けて」終わってしまいます。

 

 本作でもそれは同じで、宮本にしても靖子にしても、徹底して「自己満足」のために動きます。宮本の「戦い」は確かに観ていてスッキリするものでした。しかし、靖子からすればそれは頼んだわけでもないのに勝手に喧嘩してボロボロで帰ってきて「さぁどうだ」ですからね。そりゃ「ふざけるな」って思います。私も思いました。でも、靖子も靖子で、自分の意志を貫き通します。本作は、宮本と靖子の「自己満足」のぶつかり合いなのです。

 

 それは演技に表れていると思っていて、本作ではとにかく主演の池松壮亮蒼井優が凄まじい演技を見せています。唾、ご飯粒、鼻水をこれでもかと垂らし、自分たちの意志をぶつけ合うのです。この絶叫に次ぐ絶叫の応酬は、2人の意志の強さの表れですし、彼らがスクリーンの中で「生きている」ことを実感させる大きな要因になっています。

 

定本 宮本から君へ 全4巻 完結セット [コミックセット]

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 そして、こうした激しい意志と意志のぶつかり合いの果てに2人は結婚へと至るのです。それは互いの意志と意志、そして人生を全部受け入れるということで、結婚して2人で人生を共にするというのは、こういうことなのか?と思ったりしました。少なくとも、私は本作を観て以降、街中の夫婦を見る目が変わりました。「背負ってんだなぁ」って。

 

 また、こうした「自己満足」を完遂することは、「生きる」事と繋がってくると思います。TVドラマでもそうでしたが、宮本が何故これだけ自己満足としか思えないことをするのかというと、「自分が納得したいから」なのです。これはつまり、「自分に恥じないように生きたい」ということであり、ここで私はある映画を思い出しました。『ロッキー』です。あの作品も、場末で燻ぶっていたボクサー、ロッキーが勝ち負けではなく、「自分に恥じないため」リングに上がり、全力を以てアポロと戦うのです。これと宮本は同じだと思います。

 

 ラスト、寄り添って歩く宮本と靖子を観て、彼らなら、共に荒波を乗り越えていけるだろうと思いました。タイトルの通り、私も宮本から何か大切なものを受け取れたと思います。

 

 

池松壮亮蒼井優主演作。

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