暇人の感想日記

映画、アニメ、本などの感想をつらつらと書くブログです。更新は不定期です。

さすがの安定感【キノの旅XXⅡ-the Beautiful World-】感想

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著:時雨沢恵一

イラスト:黒星紅白

 

出版:株式会社KADOKAWA

 

 久々に本の感想記事です。調べてみたら前回は昨年の12月の「やはり俺の青春ラブコメはまちがっている⑬」でした。本は人並みには読んでるつもりなので、なるべく本の感想もアップしたいけど、やっぱアニメと映画の感想で手一杯です。無念。

 

 さぁそんな久しぶりの読書感想記事は、またまたラノベ。前巻から実に1年9ヶ月振りに新刊が発売された、「キノの旅XXⅡ」です。毎年1年1冊のペースで刊行されていた本作ですが、時雨沢先生が、本作のアニメ化や、それに伴うプロモーション、それ以外にも「ルパン三世」で脚本を執筆されていたりと大変多忙であったため、ここまで遅くなってしまったのだと思います。私は是非とも2期を作ってほしいと思っているため、時雨沢先生のアニメにおけるご活躍は嬉しい限りです。そう上手くいくものでもないけど、作ってほしいんだよなぁ。賀東招二先生みたいなってほしい。

 

7.62?のミラージュ

7.62?のミラージュ

 

 

 もう巻数にして22巻、年月にして20年続いているシリーズですので、内容はさすがの安定感。確かに、もう何度目も読んだタイプのオチがいまだに出てくるといったマンネリ感もないではないですが、ここまで続いて、しかもそれに付き合ってきた身としてはそんな風には思わず、寧ろ「お、またこのオチか」と逆にそのマンネリを楽しめるレベルにまで達しているので何の問題もありませんでしたね。

 

 収録されている話はどれも流石の安定の出来ばかり。例えば、「取り替える国」。これは貧困とか格差社会を盛り込んだ話です。師匠と相棒の話なので、「武器を持たずに入国」「少女と出会う」という展開から、途中までは2人が身の周りの物のみを使って襲ってくる人間たちと戦うという『イコライザー』的な作品になるのかとワクワクしました。まぁ実際はそんなことはなく、すんなり犯人は見つかってしまうのですが。ただ、最後に語られていたやり取りは、貧富の差を理由に、個人の人権をまるで無視したもの。それをさも正論のように言っており大変胸糞なのですが、現実でも似たようなことを言っている輩が多いのも実状です。だからこそ最後の1発は良かった。

 

 

 また、面白かったのは「来年の予定」。フォトの話なので、明るく、ハートフルな内容なのはもちろんですが、私は時雨沢先生の経歴と重ね合わせ、彼なりの考えを感じとりました。

 

 それは、「大切なのは運だ」ということ(もちろんこれには、そこに辿り着くための努力をしていることが大前提となっています)。2巻において同様のことをキノが言っていたり、フォトの生い立ちであったり、時雨沢先生は、しばしば運の強さを重要視しているかのような気がするのです。

 

 そこへきて今回のこの話。端的に言えば、自分に自信が持てない女性が自分を肯定して成長する話です。しかし、最後の展開は物凄いシンデレラ・ストーリーで、彼女が持っていた能力を発揮する機会を掴み取ったのは、運でした。ちょっとご都合主義すぎな気もしますが、フォトの話なのでギリセーフですね。

 

 そして、こういった展開は、時雨沢先生の経歴と似通っている気がします。時雨沢先生自身が語られている通り、彼が作家としてデビューするきっかけになったのは、大元が就活に苦戦したこと、そしてそれにムシャクシャしてたとき、「ブギーポップは笑わない」を読んだからでした。デビューしてからはご存知の通り、苦労の末に今の地位を得ました。時雨沢先生自身も、「運がよかった」のです。だから、ひょっとしてこの体験がもとで「運の重要性」を繰り返し書いてるのかもしれません。完全に憶測です。

 

ブギーポップは笑わない (電撃文庫)
 

 

 さて、今回の白眉は、何といっても、シズ様と陸のファーストコンタクトでしょう。陸は外伝やネタでは横柄なキャラになりますが、まさか、本当にそういう奴だったとは。また、シズに忠誠を誓う理由もきちんと描かれていたし、何より陸に手を焼くシズ様はポイント高い!まだ荒んでいた頃の彼なので、徐々に陸に気を許していくくだりはとても良かった。

 

 また、当時のシズのことを考えると、打倒された王族たちを見て、逃げ出したかつての自分にその姿を重ね合わせたのでしょうか。こう考えれば、シズと陸はお互いに「生き残ってしまった」存在であり、だからこそパートナーになれたのかもしれません。

 

 他にも、キノと超生物とのガチバトル「餌の国」とか(キノは人間以外には地味に苦戦するね)、若干無理がある感がありますが、マンガの演出を小説風に演出し直した「仮面の国」とか、亡国ものの「退いた国」とか、大変面白く、読み応えのある話ばかりでした。

 

 最後にさ、たださぁ、やっぱり、シズ様をネタにするのはそろそろ本気でやめて差し上げろ(笑)。

 

 

前巻。

inosuken.hatenablog.com

 

 漫画版。

inosuken.hatenablog.com

 

 新作アニメ版。しつこく言うが、俺は言いたいことたくさんあるぞ。

inosuken.hatenablog.com

 

 旧作。こっちは良作。

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