暇人の感想日記

映画、アニメ、本などの感想をつらつらと書くブログです。更新は不定期です。

八幡の成長と決意【やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。⑬】感想

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著:渡航

イラスト:ぽんかん⑧

出版社:株式会社 小学館

 

 曖昧模糊とした「偽物」の関係よりも、何かが決定的に変わってしまう「本物」を求める奉仕部3人の物語。2011年から現在まで7年続いたこのシリーズも、本書から最終章とのこと。このシリーズは前半と後半で明らかにギアが変わったと思える点があります。この記事でそこを書こうかと思ったのですが、原作者も最終巻が近いと仰っているので、最後まで行ったらそこのところを書こうと思います。なので、この記事では純粋に13巻の感想を書こうと思います。書けると良いなー。

 

 13巻で描かれるのは12巻で問題になったプロム中止を阻止すべく動く雪ノ下雪乃比企谷八幡です。最終巻手前(?)なこともあって、本書ではこれまで八幡が培ってきた人脈や経験、そして関係が総動員された展開でした。その意味で、フィナーレを盛り上げる壮大な「溜め」にもなっていたと思います。

 

 総動員された中で一番注目したのは「関係」でした。1章から最終章まで八幡は個別のキャラクターと向き合うのですが(一部例外あり)、そこから彼が捻りだした言葉と行動が、彼と、そのキャラと積み上げてきた関係に対する彼なりの結論のように思え、さらに、その章の後に「そのキャラ視点」の挿話を入れることで、双方にとっての「関係」の結論を描いていたように思えました。だからこそ、「もうこのままではいられない」という「終焉」が見えてきて、キャラによっては胸が締め付けられる思いでした。

 

 さらに、これまで培ってきた「人脈」も総動員されている点も良い。といっても、協力してくれるのが由比ヶ浜を除けば材木座さんと戸塚しかいないのがさすがの八幡さん。ただ、材木座さんに関してはここ数巻、出ても一瞬だったり、しかも出てるくせに登場人物紹介に名前が載らないという謎の不遇っぷりだったので、本書での活躍(?)はちょっと嬉しい。それでも連れてくるのが2人というのもさすが材木座さん。期待を裏切らない。

 

 さて、つい材木座さんのことばかり書いてしまったけど、この人脈を使う中で、八幡の成長も垣間見れているのも良い点です。前までは誰にも頼らず、自分だけで事を進め、しかも「理由」が無ければ動けなかった彼が、初めて自らの意志で行動し、そして自ら頭を下げて協力を求めるあの姿勢は人間的な「成長」を感じてとても感慨深かったです。

 

 また、内容から離れて、文章についても。12巻では文章がラノベっぽくなく、むしろ表現がどんどん「一般小説」に近づいていると思いましたが、その反面、八幡さんお得意のパロディの入れ方が浮いてしまっていて、何だか無理しておちゃらけている感が出てしまい、パロディの方に気恥ずかしさを感じてしまいました。しかし、本書ではその浮いている感じもなく、自然と文章にパロディが馴染んでいて、かなり良いバランスになっていました。だからすいすい読めました。

 

 本書では、これまでとは明らかに違う点があります。それは舞台が学校なのにもかかわらず、奉仕部の部室がほとんど出てこない点。彼らの「曖昧な関係」の象徴であるあの部室を出さないことで、「もうあの頃に戻れない」点が強調されていたと思うし、ラストに出てきたときも、八幡と雪ノ下の「変わらない距離」を示し、そしてそこを後にするという「決別」の場所として使われていました。

 

 この「ずっと続くと思っていた」関係が終わるということは、モラトリアムの終わりです。青春モノを描く点において、この「モラトリアムの終焉」は最重要テーマです。青春とは、モラトリアム的な関係が終わり、決別することで成長するものだと思うからです。私は、本シリーズはここに真正面から挑んでいると思っていて、それ故にこのシリーズは「青春モノ」として素晴らしいと思うのです。まぁ、心の底からそう思えるのは、良い終わり方をしたらなのでしょうけど。だから頼むぞ、わたりん!