暇人の感想日記

映画、アニメ、本などの感想をつらつらと書くブログです。更新は不定期です。

現代のアメリカ映画【ノマドランド】感想

ノマドランド

 
78点
 
 
 「ノマド」と言えば、私の中ではPC片手にスタバで仕事をしている人間を思い浮かべるのですが、本作で言う「ノマド」は家を持たず、キャンピングカーなどで車上生活をしている人々のことを指しています。日本にもこのような生活をされている方々がいらっしゃるようです。まぁ、「ノマド」という言葉には遊牧民という意味があるので、「特定の場所に拘らない」という点では2つとも共通しているのですけど。本作はこの「ノマド」の姿を淡々と捉えます。監督はクロエ・ジャオ。前作『ザ・ライダー』で一躍脚光を浴びた新鋭で、本作で第93回アカデミー賞作品賞・監督賞を獲得しました。以前より本命視されており、それならば観ないわけにはいかず、公開初週に鑑賞した次第です。
 
 クロエ・ジャオ監督という人は明確な作家性を持つ方で、『ザ・ライダー』を観てみると、それがよく分かります。『ザ・ライダー』はロデオの男性の物語で(これも乗り物の話)、頭に大けがを負い、生きる目的を無くしかけた彼が、もう一度別の生き方を見つける話でした。そしてその様子を自然光を活かしたカメラで撮り、役者も実在のロデオを使ったりして、ドキュメンタリー・タッチで描いていました。本作でもこの姿勢は一貫していて、本業の役者さんは主演のフランシス・マクド―マンドとデヴィッド・ストラザーンを除き、全員本物のノマドで、撮影は『ザ・ライダー』と同じくジョシュア・ジェームズ・リチャーズでドキュメンタリー・タッチで描いています。

 

ノマド 漂流する高齢労働者たち
 

 

 本作には、具体的なストーリーはありません。この辺も『ザ・ライダー』と共通していますが、少し違う点があるとすれば、本作はロード・ムービーであるという点。アメリカ映画のロード・ムービーと言えばニュー・シネマの『俺たちに明日は無い』とか、『イージー・ライダー』、女性のロード・ムービーとしては『テルマ&ルイーズ』などがありますが、本作も、主演のマクド―マンドが乗っているものがキャンピング・カーになっているだけで、基本的な内容はアメリカ映画伝統のロード・ムービーです。ただ、そこで描かれているのは、劇的な事件でも、既存の社会への犯行から来る逃避行でもありません。ただ、淡々とノマドの人の生活を映していきます。そこには経済的な貧困の問題提起も、搾取構造の告発も、ことさら強調されてはいません。まして、哀れみも、何も無い。ただ、彼ら彼女らの生活を映し出していきます。先に挙げた作品の登場人物は、既存の社会からの逃避行をしていましたが、本作のノマドの人々は、「社会の一部」として定住せず、旅をしているのです。そしてそこには、紛れもない「今のアメリカ」があります。
 
 アメリカ映画とロード・ムービーは切っても切り離せない関係であり、たくさんの名作が作られています。その理由としては、アメリカという国が広大であり、開拓によって発展してきたという側面があるのかもしれません。そして、本作でも少し語られていましたが、ノマドという生き方は、アメリカの伝統に返ったものとしても見ることができます。本作では、そのようなノマドの生き方を淡々と描き、物語として紡いでいく。そこには人々の連帯があるし、人生があります。この、アメリカの伝統に沿った生き方を否定せずに描き出したという点で、本作は現代の、新しいアメリカ映画と言えるのかもしれません。
 

 

最近のロード・ムービー。

inosuken.hatenablog.com

 

 西部劇。

inosuken.hatenablog.com