暇人の感想日記

映画、アニメ、本などの感想をつらつらと書くブログです。更新は不定期です。

「ようこそ実力至上主義の教室へ」1年生編を読んだので感想を書いた

 

 衣笠彰梧原作、トモセシュンサクがイラストを務め、MF文庫Jより刊行されている人気シリーズ。TVアニメは3期まで放送。売り上げは累計で900万部を突破している。主に10代~20代に圧倒的な人気を誇り、「このライトノベルがすごい!」の読者投票では、2020年から4年連続で2位以下を大きく引き離し1位を獲得し続け、2023年では文庫部門1位を獲得。その圧倒的な強さから、一発で殿堂入りになってしまった。名実ともに、現代最強のラノベの1つだろう。私はラノベからは一時期離れていたのだが、最近少しずつ読むようになっていて、そうなればこの圧倒的な人気を誇る作品が気にならないわけはなく、「1年生篇」だけとりあえず読んでみた。そしたら中々興味深い作品だったので、感想をしたためておこうと思った次第である。

 

 本作と舞台となるのは、高度育成高等学校。進学・就職率ともにほぼ100%と言われる名門校だが、完全実力主義を採用し、生徒は成績順にA~Dクラスに分けられ、希望の進路へ進めるのは最終的にAクラスで卒業した生徒のみ。生徒たちは普通の授業の他に、ゲーム的な特性を持つ「特別授業」を受けなければならず、その結果によって、クラスへポイントが振り分けられる。このポイントの数によってクラスが変動するシステムになっている。そしてこのクラスポイントがそのままクラスの生徒たちの生活資金に反映されるため、負け続ければ人間らしい生活すらできなくなってしまうのだ。

 

 作中でも登場人物によって言及されるが、この学校は、現実社会のメタファーである。正直、普通に考えればこの設定には矛盾点やツッコミどころが大量に出てくるのだが、そこは無視する必要がある。自己責任が叫ばれるこの時代、競争に勝てなければ誰も助けてはくれない。勝ち続けることこそが生き続ける唯一の道である、という現実社会の辛辣な部分を描き出すことこそがメインなのだから。ちなみに、設定もそうだが、教員連中のマウントの取り方も「この程度できなければ社会では通用しない」というもので、常にこの手のマウントにさらされている若者、特に学生にはリアルなものとして映るだろう。

 

 本作の肝はこの「社会の縮図」とも言える学園を舞台に繰り広げられる生徒たちの心理戦や駆け引きで、要は「賭博黙示録カイジ」を学園を舞台にした、というものである。これらは非常にスリリングに描写されるが、面白いのは、個人の超人的な力だけでは勝負に勝つことができない点である。メインとなるDクラスは問題児揃いということもあるのだが、如何にクラスとして連帯していくか、が非常に重視される。勉強だけが得意な人間がいても、スポーツだけが得意な人間がいても、彼ら彼女らが団結し、自ら集団のためにできることを模索していくことが勝利につながるように描かれている。「1年生篇」では、ヒロイン(というより主人公の1人か)の堀北鈴音をはじめ、クラスメイトが己の未熟さを実感し、「成長」していく姿が描かれており、ダメダメな序盤から読んでいると、11巻などは「よくぞここまで成長した」と感慨深くなってしまった。

 

 本作の魅力において重要なのは、主人公の綾小路清隆である。彼は作品と共に圧倒的な人気を得ており、「このライトノベルがすごい!」の男性キャラクター人気投票では、2020年~23年まで4年連続で1位(しかも2位以下に圧倒的な差をつけている)を獲得している。ちなみに、男性キャラで4年連続で1位を獲得したのは彼のみである。

 

 彼の人気の理由は、その圧倒的な「強さ」にある。彼は「ホワイトルーム」という施設にいた過去を持ち、そこで「天才」になるべくあらゆる教育を受けてきた。彼は権謀術数に長け、あらゆる障害を払いのけられるだけの「実力」を有しているものの、彼自身は「普通の高校生活」を送りたいと考えているため、目立つのを嫌っている。「実力主義」である空間において、他の生徒が相手を出し抜くために鎬を削っているのに対し、彼はそれらを完璧に読み切った上で利用し、最終的には自らの思い通りに事を運ぶ。他者を基本的に駒としてしか認識しておらず、友人や好意を寄せてくる女性すらも利用していくというサイコパスぶりは強烈なインパクトを残すが、これが本作において痛快さを生む。厳しい競争社会に曝される我々現代人の心をくすぐるのである。そして、彼のこの強さはシリーズを読み進める上での保険にもなっている。いくら辛い展開があったとしても、最終的には彼が何らかの形で一矢報いてくれる、という安心感につながり、我々は安心してDクラスの成長を見守ることができるのだ。加えて、上述のように、彼だけでは昇格することはできないというバランス。この構造は大変上手いなと思わせられた。

 

 この構造のため、本シリーズは彼がどのような策を講じているのかが最後に判明する一種のミステリ的な側面を持っている。これはこれで面白いが、個人的には、堀北がメインになる回の方がスリリングで面白い。「1年生篇」でいちばん好きな巻は6巻で、この巻は初めてDクラスがまとまり、堀北が司令塔となりCクラスと対決した巻だった。これは綾小路がメインで動かなかったため、最後まで展開が読めず、ラストのどんでん返しには素直に感心した。

 

 本作の総合的な評価に関しては、「1年生篇」しか読んでいない身としてはまだ分からない。しかし、本シリーズは、読み進めると、「成長」というものに対して結構真摯に描こうとしていると感じている。それは綾小路も例外ではない。彼は実力は十分だが、人間的な成長をしなければならない。この競争社会において、チームとして勝つこと、そして人間としての成長、これらをどのように描いていくのか、興味深い作品だと思う。続きは読もうと思っているが、他の本を読んだりしておりまだまだかかりそう。