72点
「good!アフタヌーン」にて連載されていた、珈琲先生原作のちょっと変わったスポーツ青春漫画が原作の青春映画。監督は『ロボコン』などの古厩智之さんで、脚本は『リズと青い鳥』や『劇場版ヴァイオレット・エヴァーガーデン』等、アニメ作品を多く執筆している吉田玲子さん。私は例によって直前まで存在は知らず、公開前からSNSを中心にして話題になっていたことで知り、今年は日本映画をなるべく観たいと思っているため、鑑賞しました。
本作は「小寺さん」というボルダリングを懸命に頑張っている女子生徒を中心にして、彼女に感化された人たちが「何かに一生懸命になる」作品です。そこに結果を伴うことは重要ではありません。小寺さんのように、目の前の「壁」に向かって頑張る姿こそ素晴らしいと、本作は、「何かに夢中になる」ことを全力で肯定してくれる作品なのです。だから、本作が絶賛される理由は納得です。
この点で、本作とは好対照をなす作品があります。それは同じく青春映画であり、個人的には傑作だと思っている『桐島、部活やめるってよ』です。この作品と本作は、いくつかの点で相似点があり、同時に決定的に違う点があります。まず、同じ点では、「誰か1人に周囲の人間が影響を受ける」こと、「何かに夢中になれる」ことこそが最も大切なであり、そこに意味や結果はないのだというテーマです。しかし、この相似点は、『桐島』とは表裏一体の関係です。
『桐島』では、「桐島」という「イケてる奴」の究極みたいな存在にすがることで自身の存在意義を見出していた奴らが、桐島が部活を辞めたことで存在意義を見出せなくなり、右往左往することで、桐島など関係なく、「好きなこと」をやっている前田君を始めとする映画部の尊さが出てくる作品でした。しかし、本作では、「中心」にいる小寺さんはどちらかと言えば前田君よりの人間で、ボルダリングに夢中になっています。そんな彼女を中心となって周りが照射され、一生懸命になる姿を全肯定して描き、「一生懸命になる事は素晴らしい」と謳っているのです。これは、『桐島』でそこまで描かれていなかった存在である、「頑張っても駄目な人もいるんだよ」と言った、バドミントン部の彼女や、バレー部の彼とかを救済する話なのです。つまり、本作は『桐島』の逆パターン映画であり、同時に同種の映画でもあるのです。
本作がこのような作品であるため、小寺さんを「見る」シーンが印象的でもあります。そしてそれは映画内の登場人物だけではなく、我々観客にも言えることです。本作は、登場人物が小寺さんを見ているであろう主観ショットが頻発し、観客にも、「頑張っている」小寺さんの姿を見て、影響を受ける登場人物たちと同じ気持ちを抱かせているのです。この点で、本作は観客巻き込み型映画でもあります。劇中の台詞でもありましたが、「一生懸命」になれば、結果はついてこないかもしれないけど、何かは変わるんです。それらは無駄にはならないのです。そんなことを、本作は我々観客にも伝えようとしています。
ただ、内容的にはとても良い事を描いている作品だと思ったのですけど、イマイチ乗り切れなかったのも事実です。それは単純に比較対象が『桐島』だったからってのもあるのですけど、それ以上に私の学生時代に関係しています。私は学生時代は帰宅部で、「頑張らなかった」奴なんですよね。そんな俺が「頑張っている」ことが素晴らしいと謳う本作を観てしまうと、どうにも申し訳ない気持ちになるんです。「あぁ、俺、頑張らなかったなぁ」って。まぁ、頑張るほど好きなこともなかったってのもあるんですけど、それにしても、頑張ってる人間を横で見ているくらいだったので。「頑張ってることは素晴らしい」って、そりゃそうだけど、じゃあ頑張らなかった俺の学生時代って、何なんだろうなって思ってしまいました。すいませんね、何か。