暇人の感想日記

映画、アニメ、本などの感想をつらつらと書くブログです。更新は不定期です。

女性の人生の物語【ストーリー・オブ・マイライフ わたしの若草物語】感想

ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語

 

87点

 

 

 ルイーザ・メイ・オルコット原作による、19世紀後半のアメリカを舞台に、ピューリタンである4姉妹の反省を綴った古典「若草物語」。これまでにも幾度となく映画化された古典を、『レディ・バード』のグレタ・ガーウィグが映画化。主演は同じく『レディ・バード』で主演を務めたシアーシャ・ローナン。2019年度のアカデミー賞では作品賞を始めとして、6部門にノミネートされ、衣装デザイン賞を受賞しました。アカデミー賞にノミネートされたとあってはそれは観ないわけにもいかず、鑑賞した次第です。

 
 映画は冒頭が大切であるとは常識ですけど、本作の冒頭は、扉の前に佇み、小説家として未来へ進もうとするジョーの後ろ姿です。これが象徴しているように、本作は未来へ進もうとする4姉妹の物語でした。グレタ・ガーウィグは、前作の『レディ・バード』でも半自伝的な内容として、1人の少女が自立した1人の人間になるまで(=半生)を描いていました。この点で本作は、『レディ・バード』と明確に繋がってる作品で、内容的には、レディ・バードが自己を獲得して、社会に出た後の物語とも言えます(演じてるのも̪シアーシャ・ローナンですし)。違う点があるとすれば、『レディ・バード』は1人の半生だったのに対し、本作は4姉妹の4者4様の人生を描いたという点です。

 

レディ・バード [Blu-ray]

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  • 発売日: 2019/07/03
  • メディア: Blu-ray
 

 

 本作は2つの時間軸を並行して描いています。1つは4姉妹が成人し、それぞれ別の人生を歩み始めた「現在」、そしてもう1つは4姉妹が一緒に過ごした「過去」です。基本的に4姉妹全員が揃って楽しくやっている過去は全体的に暖色系の色で撮られていて、ノスタルジーを掻き立てられるものになっています。実際、過去で4姉妹+ローリーがわちゃわちゃやっている姿は観ていてとても面白いですし、会話のリズムがよく、本当に楽しそうなんです。撮影では実際に監督がタクトを執って会話の演出をしたらしく、そのおかげもあると思います。
 
 翻って、「現在」は全体的に寒色系で撮られていて、人生の苦境に立たされ、苦労している姿が描かれています。これは楽しかった「過去」と並行して語られることで、「現在」の自分は「過去」に思い描いていたような自分になれているのか、思い通りに人生を生きているのか、という迷いや苦悩をより際立たせています。
 
 4姉妹の生き方というのは女性の多様な生き方を描いていると思っていて、長女のメグは結婚して、家庭を築きたいと思っていて、四女のエイミーはマーチおばさんに思考が近く、現実主義者。三女のエリザベスは体が弱いながらも姉妹を繋ぐ存在で、ジョーは小説家を夢見る女性です。このうち、エイミーとメグは彼女らなりの人生を歩んでいますけど、ジョーは迷走中。ローリーの求愛を蹴って、都会に出たけど上手くいかず、帰ってきたら三女が亡くなってローリーもエイミーと一緒になった。つまり、ジョーは才能はあるけれど、孤独になってしまうのです。「愛」が無いと。だから、ラストでそれを自分でつかみ取った姿が凄く良いわけです。

 

若草物語 1&2

若草物語 1&2

 

 

 本作は「女性の人生の物語」です。だから4姉妹それぞれの人生をフラットに見せたし、男性は脇役。そして、それ故に、ラストで「著作権を渡さない」のだと思います。あのシーンは凄く良くて、というのも、これまでの物語が収められているあの本を渡さないということは、「これは私たちの物語だから」と宣言しているような気がしたからです。しかもその時に編集長に向かって反論しているんですよね。当時は「女性の物語は売れない」と言われていた時代で、そんな時代に反論して、本を自分たちの物語として出版する。そしてこれが多くの女性に力を与えてきたわけで、そういう意味では、この結末は、非常に現代的なものだなと思いました。
 
 他にも、美術が素晴らしかったのはもちろんなのですけど、役者が皆素晴らしかったです。4姉妹はもちろんですけど、みんな会話が活き活きしていて、本当に輝いて観える。これは女優でもあるグレタ・ガーウィグの演出力の賜物でしょうね。しかし、中でも一番素晴らしかったのはティモシー・シャラメですよ。失恋してダメ人間になってる姿が本当に最高で、でもダメ人間なのに美しさが損なわれておらず、寧ろ耽美的ですらあるという・・・。本当に奴は俺と同じ人種なのか?いや、違うのだろう。総じて、「現代版の古典文学映画」として、これ以上は無い作品でした。
 
 

 ガーウィグ監督作。

inosuken.hatenablog.com

 

 これも人生の話だね。

inosuken.hatenablog.com