暇人の感想日記

映画、アニメ、本などの感想をつらつらと書くブログです。更新は不定期です。

「非凡さ」を手に入れようとした末路【アメリカン・アニマルズ】感想

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89点

 

 

 2004年、ケンタッキー州トランシルヴァニア大学で起こった時価1200万ドルの画集窃盗事件を題材にした作品。私は新宿武蔵野館で『THE GUILTY/ギルティ』を観た時に予告を観て存在を知りました。ただ、最初はそこまで見るつもりはなく、スルーするつもりだったのですが、アトロクで特集が組まれていて、そこで三宅隆太監督と三角絞めさんが絶賛されていたので掌返しで鑑賞した次第です。

 

 題材とあらすじから、予想されるのは『オーシャンズ11』的なケイパーものでしょう。しかし、本作はただのケイパーものというよりは、誰しもが1度は考えたことのある、「特別になりたい」という欲求と、それに対する葛藤と焦りを描いた青春映画であり、その独特な手法も相まって、とても面白い作品でした。

 

オーシャンズ11 [Blu-ray]

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 「青春映画」とはいえ、本作の大筋は窃盗事件です。平凡な大学生、スペンサー(バリー・コーガン)が、悪友のウォーレン(エヴァン・ピーターズ)の誘いに乗って窃盗事件を計画するところから本作は始まります。

 

 これだけ聞けば「やっぱりケイパーもの?」と錯覚してしまいそうですが、問題なのは本作で計画を実行するのは口ばかり達者なトーシロであり、大学生なのです。だからダニー・オーシャンみたいに豊富な人脈を使ってプロフェッショナルを集めるでもなく、その場しのぎで無計画に仲間を集めますし、知識も皆無なのでネットのブログと映画で「勉強」をしていきます。

 

 こんなグズグズな計画が上手くいくはずもなく、案の定本番では妄想の中で描いていた犯罪は実行できず、見るに堪えない失笑レベルの、映画史上最低の犯行を見せてくれます。特に嘔吐のシーンは爆笑ものでした。現実は非情であり、映画みたいに上手くいかないのです。

 

 こんなグズグズな計画を立ててまで、何故彼らは画集を欲しがったのか。金のため?それは少し違います。彼らは確かに金も欲しがっていましたが、特段困っていたわけではありません。彼らがそれ以上に欲しかったのは、「非凡さ」だったと思います。彼らは、自身の下らない、平凡な人生にうんざりし、風穴を開けたいと強く願っていました。スペンサーは言います。「偉大な人間は、特別な人生を歩んでいる」と。確かに、偉人のwikipediaや自伝、評伝を読んでいると、事実は小説より奇なり、を地で行くような壮絶な人生を送っていることが分かります。彼らは、この「非凡さ」を窃盗事件を起こすことで手に入れようとしたのです。

 

ファン・ゴッホの生涯 上

ファン・ゴッホの生涯 上

 

 

 しかし、多くの人間は理解しているように、偉人と言われるような人間は、凡人には想像もつかない気力を以て、それ相応の努力をしており、その結果として壮絶な人生を歩んでいるにすぎないのです。ラストの司書さんの言葉にもありましたが、それを簡単に手に入れようとしたことが、彼らの最大の過ちだといえます。

 

 ただ、窃盗事件を起こしたことはどうしようもないのですが、この「特別になりたい」という、ボンヤリとした欲求は分かります。私だって評伝を読んで、その壮絶な人生に憧れたことはあります。この点を共有している時点で、私にとって、本作はただのケイパーものではありません。

 

 さて、本作の最大の特徴は、「ザ! 世界仰天ニュース」のような本人映像と再現ドラマを融合させた今までにない独特の手法です。これが本作に、実際の事件への距離感というか、客観性を持たせていると思います。

 

www.ntv.co.jp

 

 「実話の映画化」は昨今の流行りです。体感として、最近は3本に1本はそうなのではないかと錯覚するくらい毎年大量に制作されています。その多くは実際の事件をベースに多少の脚色を加え、俳優が演じるというものです。直近で鑑賞したものだと、『僕たちは希望という名の列車に乗った』が該当します。その対極にいるのが昨年公開されたクリント・イーストウッド監督作『15時17分、パリ行き』です。これは話は実話通り、俳優は皆当事者など、実話を本当に「そのまま」映画化した革新的作品でした。

 

 本作は、この両者を合わせた作品と言えます。これにより、「映画の中のフィクション」と「実際の証言」の食い違いが強調され、客観性、批評性を生んでいると思います。

 

 『僕たちは希望という名の列車に乗った』は実話をベースにしていますが、脚色は加えています。『15時17分、パリ行き』は当事者の話を「そのまま」映画にしています。それぞれにはそれぞれの良さがありますし、これはこれで面白いです。しかし、映画の中に一種の「客観性」みたいなものはあまりないと思っています。本作は、当事者の証言を間に挟むことで、「映画」と「現実」の齟齬を鮮明にし、客観性を持たせ、「本当は違うかも」と考える余地を残しています。そしてその上で、彼らが間抜けな犯罪で犯したことの顛末を見せることで、1本の映画としてまとめているのです。これは、結構誠実な作りな気がしないでもないです。

 

 このように、本作は実験的ながら、かなり普遍的な内容を描いている、とても面白い作品でした。

 

 

イーストウッド監督作。賛否はありますが、私は好きです。

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 同じ学生でも、ここまで違うのか・・・。

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「男を手玉に取る女」峰不二子【LUPIN THE ⅢRD 峰不二子の嘘】感想

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78点

 

 『峰不二子という女』より続く『LUPIN THE ⅢRD』シリーズ最新作。今回焦点が当たるのは、ルパンファミリーの紅一点、峰不二子。正直、不二子に焦点を当てた作品なら、同じくアダルト路線を追求した「峰不二子という女」というTVシリーズがあるため、このシリーズでは作られないのかなと思っていました。ですが、そんな事は無かった。前2作と同じく、高いクオリティのアニメーションで、「峰不二子という女」とはまた違った魅力の不二子を描いてくれました。

 

 峰不二子というキャラは、非常に多面的な魅力を持った存在だと思っています。セクシーであり、とても強く、そして男を手玉にとる悪女でもある。およそ男が考えうる限りの「最強の女」かもしれません。

 

 翻って、この『LUPIN THE ⅢRD』シリーズは、ルパンファミリーそれぞれが持つ魅力を120%引き出した最高のキャラものシリーズです。『次元大介の墓標』は次元の持つ「カッコよさ」を120%押し出したものにしていたし、『血煙の石川五エ門』では、「強さ」をストイックに追い求める五エ門の姿をシリーズの醍醐味である超絶作画で見せてくれました。

 

 

 では、本作では、不二子のどの面を押し出して作ったのかというと、それはもう彼女の十八番「男を手玉にとる女」です。

 

 本作のストーリーは、巨大組織の金を横領した男の息子を成り行きで保護することになった不二子が、金を狙う組織に追われるという、完全に『グロリア』のそれ。そのストーリーを下敷きに、都合3人の男と不二子を交わらせ、彼女の魅力を描いていたと思います。

 

 1人目はジーン。横領した金のありかを知るキーパーソン。またこのガキが良い感じに頑固でムカつくんですよね。事態を理解してないくせに意地だけは一丁前で、「パパの仇をとるんだ」と言って不二子を困らせる下りは絵面だけなら『グロリア』と酷似しています。ただ、『グロリア』と違うのは、不二子の本心が分からないという事。金のために嫌々護っているように見えるけど、ちょっとした瞬間に本気で護っているのではないかと思わせます。この本心の読めなさが絶妙でした。ただ、どちらにせよ、本作の不二子には若干の母性的な側面を見た気がしました。

 

 

 本作には、少年の他にもう1人、「子ども」が出てきます。それが敵であるアイツです。不可思議な術を使い、相手を意のままに操る事ができる男ですが、その中身は戦う事しか知らないただの「子ども」でした。そんな奴に不二子が勝った方法は、「自分の虜にする」事でした。これはものすごく「峰不二子」な勝ち方だと思います。

 

 そして3人目はご存知、ルパン三世。本作では、彼との関係は「不~二子ちゃ~ん」な関係ではなく、一言では言い表せない関係でした。ルパンと話しているときは、ある意味、不二子が最も彼女らしく振る舞っていた気がしています。

 

 このように、本作は、2人の男を通して、不二子の母性的な側面と、男を手玉にとる姿を描いていました。そして最後にルパンとの関係を見せることで、「峰不二子」という多面的な魅力を持ったキャラをしっかりと見せていました。

 

 しかも、峰不二子は最後に全てを持っていく。ラストで明かされるネタから、やはり不二子は男を手玉にとる悪女であり、全てが彼女の掌の上であったことが分かり、ファン的には大変痛快で、満足できます。

 

 他にも、本作ではある事実が明らかになり、このシリーズに1本の線ができた回でもあります。おそらく次は銭形なのでしょうが、このシリーズがどのような結末を迎えるのか、非常に楽しみになってきました。

 

 

同じく『LUPIN THE ⅢRD』シリーズの作品。

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 最新TVシリーズ。こちらは非常に野心的な作品でした。

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好きという気持ちは「普通」である【カランコエの花】感想

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94点

 

 

 昨年一部で話題になった、LGBTを扱った作品。私の周りでも本作を強烈に推してくる人間がいたので、DVDがレンタルされたこのタイミングで鑑賞してみました。

 

 確かに素晴らしい作品でした。上映時間は39分と短いのですが、中身は濃密。LGBTを扱った作品はごまんとありますが、ここまで我々の無意識レベルの行いがいかに彼ら彼女らを傷つけているのか、そして自分自身の偽善性をまざまざと見せつけてくる作品で、観ている間は非常に居心地が悪かったです。しかし、だからこそ本当に素晴らしいと感じました。

 

 保健室の先生の「特別授業」により「クラス内にLGBTがいるかもしれない」と波紋が広がるところから映画は始まります。本作の舞台は学校であり、基本的に作中の世界はここのみです。この教室描写が非常に居心地の悪い、嫌な空間として撮られている点が本当に素晴らしい。そこでは生徒は、LGBTを遊び半分で見つけ出そうとするバカな男子や、世間的な常識にのっとって、止めようとする者、何となく親と会話する者など、様々な反応を見せます。学校という空間はしばしば「現実世界のメタファー」として扱われます。本作でもそうで、ここで出てくる反応は、世界中で起きている反応を置き換えているといえます。

 

 世界では、LGBTを受け入れようという風潮が強まっています。だからこそ、本作の生徒たちの大部分はLGBTを受け入れようとし、遊び半分であぶりだそうとするバカな男子を諌めたりします。主人公も、あの娘を守ろうとします。私もこちらに感情移入していました。本作を観た大部分の方はそうだと思います。そこには、確かに善意があります。もちろん、発端となった保健室の先生も「善意」でした。ただ、よく考えてみれば、この善意は、結局は「気を遣っている」わけでもあります。何故、気を遣うのか。それはLGBTを「普通ではない」と考えているから。異性を好きになるのが「普通」であり、それ以外は「普通ではない」と認識しているからです。たとえ善意であっても、こうした「普通ではない」ことからくる気遣いが、最終的にあの娘を絶望に追いやったのです。というのも、あの娘が望んでいたのは、自身がレズビアンだと分かっても、普段と変わりなく接してくれることだったと思うからです。

 

 確かに、保健室の先生は対応を間違えました。ですが、言っていたことは本質的には正しいと思います。「好きという気持ちは普通である」ってやつです。それを強調するのがエンディングです。あそこで話している内容は、ただの恋バナです。あそこから、この娘の、本当に好きなんだという気持ちが伝わってきて、もう胸が締め付けられて仕方がないのですが、同時に、その感情が特別なものでもなんでもなく、我々「普通の人」と全く変わらない感情であることが分かります。

 

 LGBTに関しては、私も偉そうなことは言えず、本作の登場人物と同じく、「気を遣って」いると思います。だから、LGBTを「特別なこと」ではなく我々と変わらない「普通のこと」として捉え直すべく進歩していかなければならない。そんなことを考えさせてくれた作品でした。あの娘が何の不安もない社会にしていかないとね。

 

 

LGBT作品。でも、こちらはとても美しい物語。

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究極の『ゴジラ』ファンムービー【ゴジラ キング・オブ・モンスターズ】感想

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80点

 

 

 2014年に公開された『GODZILLA』の続篇にして、そこから始まったモンスター・バースの最新作。本作はゴジラと同じく東宝を代表する怪獣であるモスララドンが参戦し、ゴジラは最大の宿敵、キングギドラと対峙します。つまり『三大怪獣 地球最大の決戦』をハリウッドの巨大資本でやるわけで、そりゃ期待度はマックスですよ。最大の懸念だった「核」の扱いにしても『GODZILLA』で(問題はあるにせよ)一応の改善は見られたので、純粋に楽しみにしていました。

 

 しかし、鑑賞してみると非常に困ったことになってしまいました。私の本作に対する評価が、完全に二分されてしまったのです。「こりゃ最高じゃないか!」と体中の血が沸騰するような要素もある中で、「ダメだこりゃ」と沸騰した血が一気に冷え込むくらいどうしようもない点もあります。その落差が激しすぎるので、本作に対する評価は真っ二つに割れています。具体的に言えば、「怪獣プロレス映画」としては100点、「人間ドラマとか倫理的に」は30点くらいなのです。監督は怪獣の大ファンという事なので、その愛情が滲み出てきてしまい、怪獣を優先させた結果、人間ドラマがおざなりになっているのです。

 

GODZILLA ゴジラ[2014] Blu-ray2枚組
 

 

 まず、本作の最高な点は、ハリウッドの資本を投入しまくった大怪獣バトル。前作がどちらかと言えば第1作目のゴジラよろしく「ゴジラと人間」の物語であり、怪獣プロレス的要素が少なかったのに対し、本作ではこの点に振り切った構成にしています。これは「ゴジラがいる」という世界観を作った上でのことならば結構正しい選択肢だと思います。そしてこの怪獣バトルが凄まじい。日本のファンがぼんやりと考えていた「ハリウッドで怪獣プロレス映画を作ってくれたらなぁ」という夢を、本作は完璧に実現しています。CGをフルに使い、着ぐるみではできそうにない動き、スペクタクルを存分に見せてくれます。ラドンの空中戦とか、ゴジラキングギドラと対峙した時の街の破壊っぷりなど、それはさながら東宝の『ゴジラ』のアップデート版と言えると思います。

 

 また、本作では怪獣たちを神話と同一視しています。そしてそのために、怪獣たちのバトルシーンは終始神話的な絵画のような画面であり、本作そのものが「今そこで起きている神話」であるような感じを高めていました。

 

 そしてそれに輪をかけて私を興奮させてくれたのが本家東宝版へのオマージュ。まずは怪獣たちの造形。本作では、かなり東宝版に近いものになっています。ゴジラは前作よりも背びれが東宝版に近いものになりましたし、モスララドンキングギドラも若干のアレンジを加えつつ、オリジナルに大分近い造形になっています。ちょっと長くなりそうなので1体1体書いていきます。

 

 まずモスラ。出てきたときは幼虫状態でした。造形は王蟲。正直、幼虫には戦闘能力は無いのでどうするのかと思っていたら、まさか糸をあんな風に攻撃に利用するとは。東宝版よりもかなり攻撃力がありそうな糸でした。その後すぐに繭になるのですが、その後の成虫になってからのモスラは本当に素晴らしかった。孵化のシーンの神々しさは鳥肌ものでしたし(皆チャン・ツィイーと同じポーズをしていたはず)、モスラのうたがフルで流れるのも鳥肌もの、そして一番感心したのはモスラのバトルスタイル。東宝版(『ゴジラ』シリーズ限定)では鱗粉攻撃か風を出すかくらいしかなかったアイツが、何と足を使って攻撃をするとは。最期のエネルギーを分け与えるシーンは『ゴジラVSメカゴジラ』のラドン感あり。全体的に、モスラ周りの神がかりっぷりは素晴らしかった。

 

ゴジラ ムービーモンスターシリーズ モスラ2019

ゴジラ ムービーモンスターシリーズ モスラ2019

 

 

 そしてラドンですが、本作ではそのあまりに日和見主義な行動から、「ゴマすりクソバード」「メキシコのイキリ翼竜」「スネ夫」など、散々な言われ方をされている最大の被害者。俺もこればっかりはファンは怒っていいと思う。でも造形はカッコいいんです。しかも、空中戦をたっぷりと描いてくれるし、飛んでいる姿の影が映るというオマージュもしてくれたし、モスラとそういえば観たことがないなという組み合わせの戦いも素晴らしいと思いました。でも、ラドンは本当はこんな奴じゃないんです。

 

ゴジラ ムービーモンスターシリーズ ラドン2019

ゴジラ ムービーモンスターシリーズ ラドン2019

 

 

 そしてキングギドラ。本作では地底に埋まっているとのことですが、きちんと宇宙からの侵略者という設定を活かしており、これによって中盤から対立構造が明確になるというのはとても良いです。「モンスター・ゼロ」の呼び方や、鳴き声、そして引力光線の感じとか、やっぱり「分かってんなぁ」感が凄い。さらに3つ首がそれぞれ性格が微妙に違うというのもこれまであまりなかった試みだと思います。

 

ゴジラ ムービーモンスターシリーズ キングギドラ2019

ゴジラ ムービーモンスターシリーズ キングギドラ2019

 

 

 怪獣の造形の他にも、あのテーマ曲や、固有名詞の流用(でもオキシジェン・デストロイヤーはやりすぎ。そのくせ全然違うし)、ゴジラのバーニング化、『怪獣総進撃』的な「怪獣をコントロールする機械」の登場など、ファンならば「あぁ、知ってる知ってる」となるシーン、小ネタがとても多い。これにはやはり気分は上がります。しかもこれらの凄い点は、監督が「ほら、これ凄いだろぉ?これ嬉しいんだろぉ?」な目配せとしてやっている感が全く無く、寧ろ「俺が作りたい怪獣映画作りました!バン!」みたいなノリでやっている気がしたので、不快感もない。何だか、超金のかかった同人映画を観ている気分になりました。

 

 日本の怪獣映画ファンが妄想していた超スペクタクルな大バトルを見せてくれたこと、そして映画全体にオリジナルのオマージュが満載なことが素晴らしいと思った点でした。これらは別に悪いわけではありません。しかし、それを除いても本作にはスルー出来ない瑕疵が多すぎです。結論から言えば、作り手たちはマジで怪獣以外はどうでもいいと思ってるんだなと思わせられました。

 

 まず、人間ドラマが酷すぎる。基本的に「怪獣を解放させたい」奴らばっかり出てくるので、共感できる人間が少ない。というかいない。対立する軸はオルカだと思うのですが、中盤以降それは割とどうでもいい感じになり、いよいよ対立する軸が分からなくなっていきます。

 

 一応、中心になるのはある家族の物語なのですが、これがまた心底どうでもいい上に雑。息子を殺されたマーク(カイル・チャンドラー)は割と簡単にゴジラの味方になるし、奥さんに至ってはこの人のせいで地球が危機に陥っているので感情移入ができません。しかも終盤で娘と出会うくだりも雑。観ていてイライラしてました。

 

 そして、その他にも芹沢博士(渡辺謙)の最期も中々。第1作『ゴジラ』の芹沢博士オマージュなんだろうけど、早く逃げろよと言いたくなります。別に死ぬ必要なくね?しかもゴジラを呼び覚ますために大量の核兵器を使うってどういうことだ。核兵器をエネルギードリンクか何かかと思ってんのか。「人類の責任を取る」という点で『ゴジラ』と対比させている感じが出ているけど、それでもどうなんだろ。

 

 しかもこの点でさらに問題なのがその後。復活したゴジラが侵略者であるキングギドラと対峙し、人間と協力するシーンはゴジラのテーマも相まって非常に燃えます。しかし、登場人物の発言を聞くと、これ核を巻き散らかしています。つまり、ゴジラが通った場所は汚染されているわけです。「核」とは切っても切り離せないゴジラにおいて、ここは見過ごしてはいけない箇所だと思います。『VSデストロイア』はその点しっかりやってたぞ。

 

 

 このように、人間側のドラマ、行いには心底同情はできないわけです。これはおそらく、「怪獣をメイン」に据えた結果だと思っています。そこから逆算して作ったから、ここまで歪な出来になったのかなと。このバランスが良ければ最高の作品だっただけに惜しい。

 

 しかし、冷静に考えてみれば、これは「人間など地球上にはいらない」と断言した本作のスタンスそのものと同一な感じがしないでもないです。しかも、エマ博士のような「怪獣に憑りつかれた人間」は第1作『ゴジラ』から存在している要素であり、これだけなら正当な作品と言えなくもない気はしますが、それにしてもこの酷さは無視できません。

 

 さて、以上のことから、私の中では、本作は「怪獣プロレス映画」としては100点、「人間ドラマや設定とか」を見るとまぁ30点くらいの作品として落ち着きました。しかし、1回くらいならこれも悪くはないと思いますので、この点数とします。次作も観ますよ。

 

 

前作。全体的にはこっちの方が好き。

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 同じくレジェンダリー制作の作品。こっちも面白かったです。

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複数のジャンルを含んだ海洋アクション映画【ジョーズ】感想

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 スティーブン・スピルバーグが生み出した傑作サメ映画。上映当時はあまりにショッキングな内容だったため、本来なら「顎」の意味である「JAWS」がサメの代名詞になってしまったり、モデルのホオジロザメそのもののイメージすら塗り替えてしまいました。そんな名作である本作ですが、例によって私は観たことがなく、いつか観ようと思っていました。そして今回、遂に午前十時の映画祭で上映されるということで、喜び勇んで鑑賞しました。

 

 本作は様々なジャンルに分けることができます。「人間がサメに襲われる」というパニック映画として、「サメが襲ってくる」というスリラー映画として、そして3人の男達がサメと戦うアクション映画として、色んなジャンルで観ることができます。

 

 このように、ジャンルは多用ですが、構成は大きく2部構成になっています。「正体不明の何か」に人々が襲われる1部、「3人の男達」がジョーズと対峙する2部です。

 

 第1部は、パニック映画、スリラー映画にジャンル分けされます。まだ全貌を現していないジョーズが人々を1人、また1人と血祭りにあげていく様を恐怖感たっぷりに描いていきます。この恐怖の煽り方が本当に上手いのです。『激突!』の大型トラックよろしく有名な「姿を見せない」演出や、超有名なBGMはもちろんとても効果的に使われていますが、それ以外でも、中盤での、襲われる子どもの描写の積み重ねや、緊張感を持ったまま行うミスリードで観客の不安感を積み上げ、一気に炸裂させるという組み立てはベタなのですが本当に可哀想だし、スリラーとして素晴らしいものでした。

 

 

 これと並行して描かれるのがブロディ(ロイ・シャイダー)の物語。彼は過去のトラウマから水が怖いという、「何でこの地域の署長やってんだ」と思わずにはいられない存在です。また、彼は所謂「去勢された男」感がある存在でもあり、地元の警察署長ですが、地元の政治家に逆らえず、ジョーズの襲撃を許してしまいます。本作は、このブロディがクイント(ロバート・ショウ)、フーパー(リチャード・ドレイファス)と共にジョーズに立ち向かい、男性性というか、トラウマを乗り越える話なのです。

 

 意を決したブロディがジョーズと対峙するのを描いたのが、本作の第2部に当たります。この2部は完全に男達の海洋アクションものになっており、激闘を繰り広げる様は観ていて単純に燃えます。

 

 こうして考えると、本作はスリラーものとパニックものの前半、そして海洋アクションの後半とを通し、1人の男の成長すら描いてみせた文句なしのエンタメ作品であると捉えることができます。28歳でこれを撮ったスピルバーグ、やはり天才か・・・。

 

 

同じくスピルバーグの作品。こちらもやっぱ傑作だったよ。

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 パニック映画という事で。

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無名が可愛すぎて最高です。本当にありがとうございました【甲鉄城のカバネリ 海門決戦】感想

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72点

 

 

 2016年にノイタミナ枠で放送されたオリジナルアニメーション「甲鉄城のカバネリ」の劇場版。監督は荒木哲郎、制作会社はWIT STUDIOと、「進撃の巨人」のスタッフが揃っています。放送当時は「進撃の巨人」のノウハウをそのまま注ぎ込んだダイナミックな画作りに毎回楽しませてもらいました。また、ストーリー面に関しても(美馬様以外は)生駒の物語としてよくまとまっていたと思っています。確かに、それによってストーリー全体が矮小化されてしまった感はありますが、私は楽しませてもらいました。故に、少なくとも、2期があれば見ようくらいには思っていたので、今回の劇場版を鑑賞した次第です。ただしNetflixで。

 

 

 まず、TVシリーズの最大の売りであったアクションシーンは、本作でも健在。TVシリーズの頃から「映画レベル」と言われていただけに、TVシリーズそのままのアクションでも十分スクリーンに映えます。また、アクションの種類も豊富であり、銃撃、砲撃、殺陣、列車チェイス、格闘、様々なアクションが盛り込まれています。これに加え、画面のダイナミックな使い方も健在であり、大きく動き続けるカメラワークもスクリーンの大きさに堪える画作りに貢献しています。

 

 TVシリーズでは、「生駒の物語」が語られていました。翻って、本作は「無名の物語」です。無名は、生駒の活躍により、TVシリーズで美馬様から解き放たれました。本作では、無名の「その先」を描いています。戦う事が存在意義だった彼女が、それ以外の生き方を見つけた後どうなっていくのか。これはファンが最も気にしていた点だと思いますし、この点に絞って作られたこの続編は、それ故にファンムービーとして非常に正しいものだと思います。

 

 そして、さらに「正しい」点は、本作の無名が反則レベルに可愛いこと。TVシリーズの頃から可愛さはあったわけですが、本作ではそれに加えて生駒を意識しまくっており、その一挙一動が本当に可愛い。この「可愛さ」を全面に打ち出すことは、本当に「正しい」としか言えません。スタッフGJ。最後のアレはベタながら反則です。

 

Hdge technical statue No.17 甲鉄城のカバネリ 無名 美樹本晴彦完全監修Ver. ノンスケールPVC&ABS製塗装済みフィギュア
 

 

 無名以外にも、菖蒲と来栖、巣刈と侑那の関係もTVシリーズの先を描いていて、この点もポイント高いです。

 

 ストーリー的には、かつての無名と美馬様のような関係である2人を無名が清算させるというもので、無名の成長を描いたものになっていました。3年経っているため、設定とか色々忘れていたのですが、本作はその点がとても優しい作りになっており、一々TVシリーズの回想が入るため、その度に思い出し、ストレスなく楽しむことができます。

 

 このように、本作は、キャラたちのその後を描いたファンムービーとして、そしてダイナミックなアクションを楽しむアクション作品として、そして無名の殺人的な可愛さを全力で描いたキャラ作品として、中々面白かったです。

 

 「劇場レベル」のアクションを見せてくれた作品です。

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 こちらもTVアニメのボーナストラック的作品。三期待ってます。

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これが、完全燃焼アニメーションだ【プロメア】感想

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89点

 

 

 『天元突破グレンラガン』『キルラキル』を生み出した今石洋之×中島かずき×TRIGGERの最新作。私は上記の2作品は好きで、制作会社のTRIGGERについても、毎クール作品が放送されていればチェックするくらいにはファンです。そんなスタッフが再結集するという本作は、特報を聞いたときから楽しみにしており、今年最も楽しみにしていた映画の1本でした。

 

 鑑賞してみると、『天元突破グレンラガン』『キルラキル』といった、これまでの今石さんと中島さんが制作してきた作品の要素が約2時間の本編の中に全てぶち込まれている作品で、上映中はただただ楽しく、そして幸福な時間を過ごすことができました。

 

 

 今石×中島コンビの作品は、とにかく展開が早く、怒涛の勢いで進むことが特徴的です。実際、『天元突破グレンラガン』は27話で地底から宇宙にまで行ってますし、『キルラキル』では総集編をアバンの5分で終わらせ、鮮血に「展開が早いのが『キルラキル』」とまで言わせています。TVシリーズですらノン・ストップだった彼らですので、映画となれば上映中はもちろん「停滞」という2文字を全く知らない怒涛の展開を見せてくれます。というより、その内容は上記の2作品を設定を変えて2時間に収めたものであると言っても過言ではありません。本作には、そのくらい過去2作品との共通点が多いです。

 

 それは例えば、前半と後半で敵味方の構図が入れ替わる大転換、今石監督らしい、体制側は四角、バーニッシュ側は三角、そして最後の調和後の姿は丸といったように、「敵・味方」をガジェットや建物、ロボットなどで分けるグラフィカルな表現方法、そして登場人物紹介やバトルシーンになると出てくる文字や歌舞伎調のケレン味といった演出なものから、やっぱり最後は宇宙に行ったり、ガイナ立ちしたりドリルが出てきて天を衝いたりといったものまで、とにかくやりたい放題。しかし、この開き直り故に、本作はファン的には「見たいものが詰め込まれている」映画となっているため、観ていてただただ幸福だったのだと思います。

 

 また、本作を語るうえで欠かせないものとして、3DCGを駆使したバトルシーンがあると思います。それは冒頭の、バーニングレスキューが現場に到着し、諸々のガジェットを駆使して救出、消火活動を行うシークエンスでいきなり披露されます。ガジェットの変形や刻一刻と変わる現場、敵の立ち位置、視点の切り替わりに合わせて動き回る抜群のカメラワーク、そしてバーニングレスキューのガジェットの面白さで一気に作品世界の中に惹きこまれます。

 

 普通、手描きと3DCGを組み合わせるとその差が画面上に現れてしまい、視聴者に若干の違和感を与えてしまうのですが(昨年の『ドラゴンボール超 ブロリー』がそうだった)、映画秘宝の中島さんのインタビューによれば、本作ではその差異を徹底して無くしていく画面作りを心掛けたそうです。そしてそれの達成のために、あの独特の色彩にしたそうです。その甲斐あって、本作は見分けがつかず、それ故に手描きの印象のまま、3DCG特有の縦横無尽のバトルシーンを楽しむことができるという、『スパイダーマン スパイダーバース』と似たことをやっている作品となっています。

 

 

 「色」についてもう少し書くと、本作では中間色を用いず、その物体に対して既成の概念とは違う色を用いています。その最たる例が炎。普通は赤とオレンジだと思うのですが、本作ではまさかの蛍光色のようなイエローとピンクが用いられています。画面全体の色彩も非常にビビッドなカラーリングで、これだけでも刺激的な作品です。

 

 次に、バーニッシュについても書いていきます。バーニッシュはある日突然、発火ができるようになった突然変異種であり、それ故に人々から恐れられ、差別されています。これは私が思いつく限りでは完全に『X-MEN』のそれです。ここで、彼ら彼女らのバーニッシュ化の原因は冒頭から分かる通り、完全にストレスです。ストレスが溜まり、炎として発散できるようになったのがバーニッシュなわけです。ここから、このバーニッシュの現象に、人々が抱え込んでいる怒りのメタファーを読み取ることは容易だと思います。そしてそう考えてみると、本作の構図は、「怒りを溜め込む人間」を「体制側が支配する」という構図に見えないこともないわけです。しかもこの体制側は、ある目論見のために意図的にバーニッシュへの差別意識を煽っているため、ここに昨今の世界情勢とのリンクも感じました。

 

 そんな分断の中にあって、我々はどうすればいいのかというと、本作では最後のガロの「救ってやるよ、バーニッシュも、アンタもな」という台詞にそこが表れている気がします。つまり、同じ人間同士、分け隔てなく「救う」という精神が重要なんだと言っている気がしたわけです。そんなことないかな。

 

 

 最後に、本作の声優について。本作は専業の方と俳優の方が混在しているのですが、主に書きたいのは俳優陣です。ちなみに、声優さんは皆さん本当に素晴らしい演技でした。個人的なMVPは楠大典さんと新谷真弓さんです。

 

 俳優陣は、ケンドーコバヤシさんと古田新太さんについては以前、その実力を目の当たりにし、全く心配していませんでした。正直、1番心配していたのは松山ケンイチさんです。私の中では、彼には熱血漢というイメージが無く、見た目がもろカミナなガロを演じられるか心配していたのですが、杞憂でした。完璧な熱血漢を演じてくれていました。そして、リオ役の早乙女太一さんも、役に非常に合っている声で、違和感はあまりありません。

 

 しかし、何よりも話題にすべきなのは、堺雅人さんでしょう。本作は彼の独壇場と言ってもいい。彼特有の「腹の底が読めなさ」、そして本性を表してからは、「半沢直樹」でも見せてくれたシャウトを連発します。その存在感は群を抜いており、SNSの感想が堺雅人一色だったことも納得のレベルです。

 

 以上のように、本作は今石洋之さんと中島かずきさんのエッセンスを2時間に凝縮した映画であり、ファンにはたまらない作品でした。しかし、それだけに甘えず、先進的なことにも果敢にチャレンジしており、しかもそれが彼らの作風にプラスに働いていて、よりビビッドで素晴らしい作品になっているという、最高の映画でした。

 

 

同じくTRIGGER作品。こちらも面白かったです。

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 似たような印象を持つ作品。

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