暇人の感想日記

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『未知との遭遇』の裏返し的作品【E.T.】感想

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95点

 

 

 実は観ていなかった名作映画。公開当時は空前の大ヒットを飛ばし、興行収入は当時の歴代最高記録を叩き出したそう。今でもポスターは超有名だし、指と指を合わせるあの仕草は観ていない私でも知っていました。「有名な箇所は知ってるけど、ちゃんと観たいなぁ」と思い始め、NETFLIXのマイリストに登録してはや幾月。この度、午前十時の映画祭で上映してくれるという事で、喜び勇んで鑑賞した次第です。

 

 スピルバーグの監督作に、『未知との遭遇』という作品があります。これは簡単に言うと宇宙船に取り憑かれた男が、周囲に気が変になったと思われながらも宇宙船を追い求め、最後には宇宙人に迎え入れられるという内容です。この作品も当時は大ヒットしたそうです。

 

 何故『未知との遭遇』のことを書いたかというと、本作は『未知との遭遇』の裏返しと言える作品だと思うからです。「未知との遭遇」を果たしたのが、もし子供だったならどうなったのだろうか?という視点で作られており、それ故に本作は、『未知との遭遇』を補完するような作品でした。

 

 どこが裏返しなのかと言えば、まずは視点です。『未知との遭遇』では、ロイ(リチャード・ドレイファス)という大人が宇宙人を追い求める話でした。しかし、翻って本作は、徹底して「子供視点」を貫いています。本作の主人公であるエリオットは、両親が別居中という現実に納得できず、そこにはいない父親を求めています。そんな彼はE.T.と出会い、心を通わせていくことで、その心の空白を埋めていきます。ちなみに、この「両親がいない」という点は、スピルバーグ作品には頻繁に出てくる要素です。これは恐らくスピルバーグ自身の経験がもとでしょう。彼の両親は離婚していますから。

 

 そしてこの「父親の不在」を考えると、『未知との遭遇』の補完的な意味が見えてきます。すなわち、エリオットの姿は、ロイが宇宙船に乗った後の、ロイの子供達の姿なのではないかと思えるのです。

 

 本作は、エリオットが父親の不在を埋めるために、E.T.と交流し、絆を深める様子が描かれます。これがメインですから、視点は当然子供。それを強調するように、本作の「大人」は母親以外はほとんど顔が見えず、不気味で、よくわからない存在として描かれています。これは『JAWS』でも使われていた、スピルバーグの十八番ですね。見せないことで恐怖を煽るという。そして、極めつけは終盤です。E.T.を追ってきた大人がエリオットの家に押し入ろうとするシーンで、宇宙服に身を包み、ダース・ベイダーみたいな音を出しながら出てきたときは、演出が完全にホラーで軽く笑ってしまいました。

 

 そして、この「大人」は「宇宙人を追い求める人」であり、『未知との遭遇』のロイみたいな人達と言えないこともないです。このように、本作は『未知との遭遇』と視点を完全にひっくり返しているのです。

 

 このように、私には本作が『未知との遭遇』の裏返しに思えたのですが、もちろんそれだけではこんなに評価され、ヒットするわけはない。少年の成長を描いたジュブナイルものとして、ちゃんと面白いのです。E.T.と交流し、互いに大切な存在となった2人ですが、最後には自分たちがいるべき場所に帰ります。その時に、中盤で出た「イタイ」という言葉が効いてくるのがとても上手い。そしてここで「イツモ ココニ イルヨ」とE.T.に言わせ、彼との別れがエリオットが両親の離婚を受け入れる事に重ねられて見せられていて、この瞬間でもう号泣ですよ。

 

 このようにテーマ的に良くできているのですが、それを補強するのが展開と音楽。終盤で、E.T.の存在を信じてなかった奴らがE.T.を見て、「丘に来い」と言われてからの「いっちょやってやっか」な感じや、やっぱり空を飛ぶシーンも異常なくらい良い。そしてそこからだめ押しとばかりに鳴り響くジョン・ウィリアムズの音楽。いやぁ、盛りすぎててちょっとムカついてくるな。

 

 このように、私には本作は、『未知との遭遇』の裏返し的要素をジュブナイルとして完璧な展開と音楽で作り上げた作品だと思えました。

 

 

E.T.』的な作品の中でも屈指の名作かと。

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 スピルバーグ最新監督作。こっちはこっちで面白かったです。

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