暇人の感想日記

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これが、完全燃焼アニメーションだ【プロメア】感想

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89点

 

 

 『天元突破グレンラガン』『キルラキル』を生み出した今石洋之×中島かずき×TRIGGERの最新作。私は上記の2作品は好きで、制作会社のTRIGGERについても、毎クール作品が放送されていればチェックするくらいにはファンです。そんなスタッフが再結集するという本作は、特報を聞いたときから楽しみにしており、今年最も楽しみにしていた映画の1本でした。

 

 鑑賞してみると、『天元突破グレンラガン』『キルラキル』といった、これまでの今石さんと中島さんが制作してきた作品の要素が約2時間の本編の中に全てぶち込まれている作品で、上映中はただただ楽しく、そして幸福な時間を過ごすことができました。

 

 

 今石×中島コンビの作品は、とにかく展開が早く、怒涛の勢いで進むことが特徴的です。実際、『天元突破グレンラガン』は27話で地底から宇宙にまで行ってますし、『キルラキル』では総集編をアバンの5分で終わらせ、鮮血に「展開が早いのが『キルラキル』」とまで言わせています。TVシリーズですらノン・ストップだった彼らですので、映画となれば上映中はもちろん「停滞」という2文字を全く知らない怒涛の展開を見せてくれます。というより、その内容は上記の2作品を設定を変えて2時間に収めたものであると言っても過言ではありません。本作には、そのくらい過去2作品との共通点が多いです。

 

 それは例えば、前半と後半で敵味方の構図が入れ替わる大転換、今石監督らしい、体制側は四角、バーニッシュ側は三角、そして最後の調和後の姿は丸といったように、「敵・味方」をガジェットや建物、ロボットなどで分けるグラフィカルな表現方法、そして登場人物紹介やバトルシーンになると出てくる文字や歌舞伎調のケレン味といった演出なものから、やっぱり最後は宇宙に行ったり、ガイナ立ちしたりドリルが出てきて天を衝いたりといったものまで、とにかくやりたい放題。しかし、この開き直り故に、本作はファン的には「見たいものが詰め込まれている」映画となっているため、観ていてただただ幸福だったのだと思います。

 

 また、本作を語るうえで欠かせないものとして、3DCGを駆使したバトルシーンがあると思います。それは冒頭の、バーニングレスキューが現場に到着し、諸々のガジェットを駆使して救出、消火活動を行うシークエンスでいきなり披露されます。ガジェットの変形や刻一刻と変わる現場、敵の立ち位置、視点の切り替わりに合わせて動き回る抜群のカメラワーク、そしてバーニングレスキューのガジェットの面白さで一気に作品世界の中に惹きこまれます。

 

 普通、手描きと3DCGを組み合わせるとその差が画面上に現れてしまい、視聴者に若干の違和感を与えてしまうのですが(昨年の『ドラゴンボール超 ブロリー』がそうだった)、映画秘宝の中島さんのインタビューによれば、本作ではその差異を徹底して無くしていく画面作りを心掛けたそうです。そしてそれの達成のために、あの独特の色彩にしたそうです。その甲斐あって、本作は見分けがつかず、それ故に手描きの印象のまま、3DCG特有の縦横無尽のバトルシーンを楽しむことができるという、『スパイダーマン スパイダーバース』と似たことをやっている作品となっています。

 

 

 「色」についてもう少し書くと、本作では中間色を用いず、その物体に対して既成の概念とは違う色を用いています。その最たる例が炎。普通は赤とオレンジだと思うのですが、本作ではまさかの蛍光色のようなイエローとピンクが用いられています。画面全体の色彩も非常にビビッドなカラーリングで、これだけでも刺激的な作品です。

 

 次に、バーニッシュについても書いていきます。バーニッシュはある日突然、発火ができるようになった突然変異種であり、それ故に人々から恐れられ、差別されています。これは私が思いつく限りでは完全に『X-MEN』のそれです。ここで、彼ら彼女らのバーニッシュ化の原因は冒頭から分かる通り、完全にストレスです。ストレスが溜まり、炎として発散できるようになったのがバーニッシュなわけです。ここから、このバーニッシュの現象に、人々が抱え込んでいる怒りのメタファーを読み取ることは容易だと思います。そしてそう考えてみると、本作の構図は、「怒りを溜め込む人間」を「体制側が支配する」という構図に見えないこともないわけです。しかもこの体制側は、ある目論見のために意図的にバーニッシュへの差別意識を煽っているため、ここに昨今の世界情勢とのリンクも感じました。

 

 そんな分断の中にあって、我々はどうすればいいのかというと、本作では最後のガロの「救ってやるよ、バーニッシュも、アンタもな」という台詞にそこが表れている気がします。つまり、同じ人間同士、分け隔てなく「救う」という精神が重要なんだと言っている気がしたわけです。そんなことないかな。

 

 

 最後に、本作の声優について。本作は専業の方と俳優の方が混在しているのですが、主に書きたいのは俳優陣です。ちなみに、声優さんは皆さん本当に素晴らしい演技でした。個人的なMVPは楠大典さんと新谷真弓さんです。

 

 俳優陣は、ケンドーコバヤシさんと古田新太さんについては以前、その実力を目の当たりにし、全く心配していませんでした。正直、1番心配していたのは松山ケンイチさんです。私の中では、彼には熱血漢というイメージが無く、見た目がもろカミナなガロを演じられるか心配していたのですが、杞憂でした。完璧な熱血漢を演じてくれていました。そして、リオ役の早乙女太一さんも、役に非常に合っている声で、違和感はあまりありません。

 

 しかし、何よりも話題にすべきなのは、堺雅人さんでしょう。本作は彼の独壇場と言ってもいい。彼特有の「腹の底が読めなさ」、そして本性を表してからは、「半沢直樹」でも見せてくれたシャウトを連発します。その存在感は群を抜いており、SNSの感想が堺雅人一色だったことも納得のレベルです。

 

 以上のように、本作は今石洋之さんと中島かずきさんのエッセンスを2時間に凝縮した映画であり、ファンにはたまらない作品でした。しかし、それだけに甘えず、先進的なことにも果敢にチャレンジしており、しかもそれが彼らの作風にプラスに働いていて、よりビビッドで素晴らしい作品になっているという、最高の映画でした。

 

 

同じくTRIGGER作品。こちらも面白かったです。

inosuken.hatenablog.com

 

 似たような印象を持つ作品。

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