暇人の感想日記

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アニメーション制作と、人生への讃歌【劇場版 SHIROBAKO】感想

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94点

 

 

 2014年の10月から2015年の3月まで放送されたTVアニメ、「SHIROBAKO」。P.A.WORKSの「働く女の子シリーズ」の第2弾であり、商業的にも内容的にも大成功を収めた作品。私もTVアニメは放送当時見ていて、素晴らしい作品だと思っていましたので、劇場版である本作も大変楽しみにしていました。

 

 本作は「TVアニメの劇場版」としての役割をきちんと果たした作品です。TVアニメ版は業界あるあるとフィクションを混ぜた群像劇で、アニメーション制作を「お仕事もの」として、厳しい面とのバランスを取りつつエンタメとして作り上げていました。だから作品のトーンは全体的に前向きで、彼女たちのその後に希望が持てる内容でした。

 

 

 翻って、劇場版である本作は、TVアニメ版の最後に見せた希望をひっくり返し、より現実的で、ダークな内容になっています。それは冒頭から現れています。本作はTVアニメ版と同じく、道路に並んだ他社の社用車と、武蔵野アニメーション(以降、ムサニ)の社用車が走り出す、というところから始まるのですが、勢いよく走りだしたTVアニメ版とは違い、本作では動きが鈍重。そして社用車が辿り着いたムサニにはかつての面影はなく、かつてのスタッフはいなくなり、宮森を含めた残った数人のみで、すっかり落ちぶれてしまっています。つまり、冒頭の社用車の下りの通り、ムサニには、かつての勢いが全く無くなってしまっているのです。この落ち目っぷりが凄くて、TVアニメ版を見ていた人間ならば愕然とすることでしょう。覇気のない朝礼、寂れた社屋(余談ですが、外見がジブリっぽいし、スタッフが抜け、抜け殻同然という点では、ガイナックスっぽい)など、「もう私たちが知っているムサニはないのだ」と突き付けてきます。しかも仕事で無理難題を押し付けられ、その憂さを晴らすために何件も梯子して飲み歩いているってのが何とも共感してしまうという。

 

 本作はこの落ち目のムサニが、捨て企画であるクソ案件を引き受け、それを一念発起して成功させる復活劇なのです。前半の落ち目描写があるから、ここで再起し、かつての仲間をもう一度集め、在りし日のムサニを取り戻していく展開は素直に燃えます。そして最後の「カチコミ」描写は24話の木下監督のカチコミと同じくアニメ的に誇張した演出で見せ、アニメーション作りの情熱を炸裂させます。

 

 「何故アニメーションを作るのか」という問いも、本作の重要なテーマです。奇しくも同時期に放送されていた「映像研には手を出すな!」でも同じテーマが語られていましたが、そこには共通する想いがあります。それは「きっと分かってくれる誰かに届けたい」というもの。しかし、「映像研」はアニメーションへの初期衝動を語っていたのに対し、本作は「お仕事もの」として語っています。情熱と現実というのは中々折り合わないものだけれど、その情熱を持たなければ仕事なんてできないのです。

 

 

 そして、そういう思い描いた本作を観ている我々は、本作を、そしてアニメが好きなのです。つまり、本作そのものが、彼女たちの想い、そして、アニメーションの作り手たちの想いを伝える作品になっているのです。だからエンディングで、完成作品が上映されたシーンが流され、それが我々とシンクロしたときは感動ものでした。「届いた」瞬間だから。この点も「映像研」と同じです。

 

 また、本作は日本のアニメーション業界の「現在」と向き合い、描いています。それが一番出ているのがラストの劇中劇で、沈みゆく船から脱出するというもの。この沈みゆく船をアニメ業界、脱出し、新天地を求めて、絶体絶命の中でも諦めずに抗い続けるのが業界の人々と見ると、納得できます。近年、TVアニメは毎クール50本近くが制作され、飽和状態。そして人材の奪い合いが起こっているそうです。しかし賃金は低く、未だに業界全体が超ブラックな環境だそうで、「情熱」を盾にしたやりがい搾取が横行しているそうです(つい最近でも、studio4℃の件がありましたね)。こんな状況では、確実にアニメーション業界は潰れる。それを暗に示したのがラストの劇中劇だったと思います。

 

 でも、それでも、やるしかないのだ。とまで本作は言い切ります。泥船であっても、抗うしかない、人生は続くのだから、と。ここで、本作は「人生」の讃歌になります。本作で描かれたことは1つの案件でしかなく、この先も人生は続いていく。辛いことも、悲しいこともたくさんあるけれど、それでも「戦いはこれから」なのだ、と、本作は謳います。この点で、本作はアニメーション制作だけではなく、より普遍的な要素を持った作品だったと言えます。

 

 以上のように、本作はアニメーション制作をエンタメとして描き、そしてTVアニメの劇場版として、きちんと「その後」を、さらに業界の未来をも描き出してみせました。それだけでも素晴らしいのですが、本作はさらに人生讃歌を盛り込み、普遍的な内容に仕上げてみせるという内容で、素晴らしい作品でした。

 

 

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