92点
杉谷庄吾先生がpixivにて無料公開していた漫画が原作のアニメーション映画作品。ジャンルとしては「映画内幕もの」に該当します。アニメーション作品の内幕ものだと、昨年の公開の『劇場版SHIROBAKO』があるのですが、アニメーション作品で実写映画の内幕ものをやったのは本作が初なのではないでしょうか。監督は『魔女っこ姉妹のヨヨとネネ』の平尾隆之さん。原作既読の身としては、あの平尾監督が本作を撮る、ということで、大変楽しみにしていた次第です。
本作は非常に変わった作品だと思います。ジャンル的には先述の通り「内幕もの」なのですが、その実写映画の内容をアニメーション映画でやる、というのです。なので、作品のビジュアルは非常に「アニメ的」。最たる例はポンポさんで、10代の少女が映画業界でプロデューサーをやっているなんて、本当はありえないですよ。しかし、話の内容は至って「実写的」だと思っていて、結構真面目に「内幕もの」に徹しています。キャラの芝居付けに関しても、アニメ的なものと実写的なものが混在していて、この点に、「アニメと実写のすり合わせ」が見えます。
また、演出に関してもスプリットスクリーンや逆再生、ワイプを使った場面転換など、「実写的」なものが見受けられる、かと思ったら、後半の編集のような、アニメ的な大胆なアクション描写もあります。これは私見なんですけど、本作において、芝居付けにしても演出面についても、アニメ的な演出になると、非常に感情的な盛り上がりが大きくなっていたと思います。最たる例はラストの編集作業ですね。「映像を切る」こととポンポさんの「幸福は創造の敵」の言葉を重ね、「何かを切る」ことで傑作を生みだすという、本作におけるクリエイターの狂気を体現してみせた名シーンですが、「切る」という編集作業をBGMや演出をめちゃくちゃアクションに振っていて、クライマックスらしい、感情が爆発したシーンになっていました。
本作は、以上の「編集」のように、作中の思想を映画そのもので体現した作品になっています。上映時間が90分というのが分かりやすい点ですけど、一番特徴的なのが、この「編集」という作業に焦点を当てた点です。編集とは、映画作業において重要な点であるにもかかわらず、このような内幕ものではあまりフィーチャーされてはこなかったかと思います。本作ではそこに焦点を当て、「90分の語り口」を完璧に再現してみせます。特に凄いのが前半30分で、原作の2/3くらいの内容を一気にやってしまいます。しかもそのシーンの繋ぎ方が前述のような凝り方。平尾監督は「好きな映画」で『グッドフェローズ』を挙げていたのですが、アレを彷彿とさせるスピード感でした。原作は「創作の狂気」を描いてみせた作品でしたが、そのような作品の映画化にあたって、その思想ごと映画で語ってみせるというこの作り方は、本作の「映画化」という意味で100点だと思いました。
最後に、割と賛否両論の銀行員アランについて書こうと思います。正直、アランの下りが入ってしまったことで作品のテンポそのものが阻害されてしまった感があります。後半に山場が連続して2回来るため、展開的にダレるとか、そもそもあの展開はコンプラ的にヤバいだろとか、言いたいことはあるんです。ただ、アレが挿入されたことで、本作が「クリエイターの狂気の物語」から、「1歩を踏み出せない人への応援歌」へ、作品そのものの射程が広がった気がします。なので一長一短ですね。トータルでは本当に素晴らしい作品だと思います。