暇人の感想日記

映画、アニメ、本などの感想をつらつらと書くブログです。更新は不定期です。

自滅していく男たち【ライトハウス】感想

ライトハウス

 
78点
 
 
 『ウィッチ』にて鮮烈なデビューを飾ったロバート・エガース監督の最新作。最初は観るつもりはそんなになかったのですけど、映画館でかかっていた予告が面白そうだったので鑑賞を決めました。ついでなのでNETFLIXにあった『ウィッチ』も予習として鑑賞しました。
 
 『ウィッチ』はかなりヤバい映画でした。16世紀を舞台にし、魔女伝説を元にして作り上げた作品で、家という限定空間に閉じ込められた家族が1人、また1人と消えていき、家族が精神的に追い詰められていく様を描いたホラーでした。撮影が素晴らしく、バシッと決まりまくっているショットの連続であり、終始不気味な雰囲気を出していて、それが作品全体のホラー感を倍増させていました。ただ、最終的には「家」という閉鎖空間からの、アニャ・テイラー=ジョイ演じる長女が脱出する物語になっていたと思います。つまりは、家父長的な環境からの脱出の物語だったわけです。
 
 『ライトハウス』は、『ウィッチ』と幾つか共通点があります。本作の舞台は灯台。ここに赴任してきたウィンスローとトーマスが主人公です。ここで、①限定空間、②限られた登場人物が見つけられます。そして、この登場人物のうち、トーマスは非常に高圧的な態度をウィンスローにとります。『ウィッチ』でも、父親や母親は長女を抑圧する存在でした。これが共通点③。また、パンフレットや監督インタビューによれば、本作には実際に起きた事件や、人魚の民話もモチーフになっているそう。この点が共通点④です。ザッと観ただけでも、これだけの共通点が見受けられます。また、音の使い方も健在。劇中、何度も鳴るフォグホーンの「五月蠅さ」、そして、大自然の大音量など、映画館で観ると、灯台守2人と同じく、気が狂いそうになるサウンドデザインがなされています。

 

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 しかし、本作には『ウィッチ』とは違う点も見受けられます。それは結末です。『ウィッチ』は前述の通り、抑圧されてきた長女の解放の物語だったと思っているのですが、本作では、2人は悲劇的な結末を迎えてしまいます。その違いは何故起こったのかというと、舞台に問題があると思います。監督は、舞台である灯台を「男根」のメタファーだとしています。そして、こうも語っています。「巨大な男根の中に2人の男が囚われたとき、ろくなことが起こらない」と。本作では、ウィンスローとトーマスの2人は限定空間の中で、自身の立ち位置を巡るパワー・ゲームを繰り広げ、それが悲劇に繋がります。つまりは本作は、「巨大なマチズモ感情に囚われ、それ故に脱出できなかった哀れな男たち」の物語であると解釈できると思います。私はそう思いました。そしてその感情を呼び起こしたのが、「灯台」という不気味な限定空間だったのです。
 
 本作は、『ウィッチ』のパワー・アップ版としての側面も持っています。『ウィッチ』は「限定空間にいる家族が1人、また1人と消えていく」という分かりやすい展開があったので良かったのですが、本作は基本的に2人の男のパワー・ゲームと抽象的なシーンの連続。ただ、パワー・アップだと言えるのは、それらには、膨大な引用元があるということです。分かりやすい点で言うと、『シャイニング』だとか、ベルイマン。映画以外にも、クトルゥフ神話や、絵画、メルヴィルの「白鯨」、ギリシャ神話(プロメテウス)など、それらは膨大な数にのぼると思います。思いますと書いたのは、私にはよく分からなかったから。そもそも、本作のアスペクト比は1.19:1という、フリッツ・ラングとか、映画の初期時代で採用されていた比率です。監督はこの比率で窮屈な感じを出したかったと言っていて、実際それは成功しているのですが、それ以上に、本作そのものを「古典映画を観ているような」錯覚に陥らせることにも成功していると思います。ちなみに、音楽も監督曰く「バーナード・ハーマン風」だそう。つまり、本作は基本的な設定は同じながら、監督の趣味趣向が露骨に反映された、闇鍋のような映画になっているのです。
 
 余談になりますが、以上の点から私が思い出したのは、アリ・アスターでした。同じくホラー映画の監督で、1作目がまだ普通のホラー映画だったのに、2作目からカルトっぽくなって、シネフィル的な引用をしている、という点、そして、マチズモに対する痛烈な嫌味、という点が共通しているなと思います。というか、最近の映画監督は、古典映画からの引用を隠そうとしませんよね。アスターベルイマン信者だし、その他に作られている作品も、古典映画のサンプリング的な内容が濃いものが多くなっている気がします。
 
 以上のように、本作は『ウィッチ』と共通点はありながら、結末は真逆でした。そしてそこには、有害な男性性への痛烈な嫌味があるように私には思えます。アリ・アスターと並んで、次作が楽しみです。
 
 

 同じくパワー・アップ版。

inosuken.hatenablog.com

 

 A24作品。

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