暇人の感想日記

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老いの恐怖【オールド】感想

オールド

 
70点
 
 
 『シックス・センス』で広く知られる、M・ナイト・シャマラン監督の最新作。前作『ミスター・ガラス』で見事、自身の物語を世界に拡散させた彼が次に放ったのは、やっぱりスリラー。しかも、「とあるビーチに来た人たちが急速に老いていく」という、やっぱり「トワイライト・ゾーン」的な、ワンアイディア1点突破型映画。とりあえず、シャマランの大ファンというわけではないけども、公開されたら一応観る程度の人間なので、今回も鑑賞しました。
 
 本作の主な舞台となるビーチですが、これにはいくつかの重層的な意味合いがあると思いました。1つは、これが「人生」のメタファーとなっていること。登場人物達は急速に老いていくわけですが、そこで多くのことを体験します。劇中で描かれたことは、実人生でも起こることであり、老いていく中でそれを急激に経験していく登場人物(というより、主人公一家)の姿は、人生の縮図として見ることができると思います。そして、これは映画という、媒体にも繋がってくることです。映画は、人生を2時間に圧縮してみせることも可能な芸術です。劇中では1日半くらい経っているのですが、それを私たちはさらに約2時間に圧縮して観ているのです。それはさながらリアルタイム進行劇のようですし、一家の人生を覗き見ています。こう考えると、彼ら彼女らを案内したのが、シャマラン自身だったことにも大きな意味があるのだろうと思います。
 
 第2に、ビーチは、「世界の縮図」だということ。本作では多様な人種がビーチに集められるのですが、これによって、ビーチが世界の縮図として機能していると思いました。分かりやすい点では、黒人のラッパーに絡む白人はB.L.M運動の反映だろうと思いましたし、疑心暗鬼になってお互いを攻撃し合うこともそうだと思います。この「世界の縮図」の要素によって、上述の「人生」のメタファーとしての機能もよりはっきりと浮かび上がります。
 こうした舞台の中で、「老い」という絶対回避不可な「終わり」が襲ってくるスリラーを仕立て上げています。『ヴィジット』では、「老い」を不気味なものとして捉えていましたが、本作では、シャマラン自身が老いたためか、『ヴィジット』は傍から見た「老い」の不気味さを描いていたのに対し、本作では、「自身が老いていく」恐怖を描きます。「老い」による身体能力の変化がそのまま恐怖演出に繋がる作りはとても良かったです。中でも素晴らしかったのは、終盤の、視力が落ちて、視界がぼやけている中で、襲撃者が迫りくる恐怖演出でした。しかし、この「老い」への恐怖が、最終的に受け入れるものとして認識が変わっていったという点がとても面白い。これは、シャマラン自身の考えの変遷なのかもしれないと思いました。つまり本作は、シャマラン自身の人生観の側面もあると思います。
 
 後、面白かったのが、シャマラン映画にいつもある、「世界の真実を知った人間」が、最初からいて、その子どもが主人公を助ける点。本作は、いつものシャマラン映画とは違って、どんでん返し的な展開が完全にとってつけたような感じなのです。上述の人生観の変化らしきものとも合わせると、彼も、作家として、人としてネクストステージに立ったのかな、と思いました。
 
 まぁいくら何でも細部が緩すぎるとか言いたいことはありますけど、私は楽しみましたよ。
 

 

シャマラン永遠の代表作。

inosuken.hatenablog.com

 

「老い」を別方向から捉えた映画。

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