暇人の感想日記

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見えざる敵との戦い【透明人間】感想

透明人間

 

92点

 

 

 H.G.ウェルズが19世紀に生み出した、ホラー界を代表するキャラクター。ユニバーサルは以前、MCUに着想を得た、「ダーク・ユニバース」を計画し、本作は確かジョニー・デップを主演に迎えて映画化が発表されたのを覚えています。

 

 しかし、周知のとおり、ダーク・ユニバース1作目である『ザ・マミー』がコケてユニバース計画は立ち消え、代わりにブラムハウスがエリザベス・モスを主演に、監督に『ソウ』シリーズの脚本家であるリー・ワネルを迎えて制作したのが本作です。とりあえず、ブラムハウス制作ということでしたら観ないわけにもいかず、鑑賞しました。

 

 素晴らしい作品でした。「透明人間」という、やや使い古されたテーマを、しっかりと現代的なものへと昇華させ、尚且つエンタメ作品として素晴らしいものにしていました。

 

 これまでの『透明人間』をテーマにした映画は、主人公は男性でした。しかし、本作の主演は女性。女性を軸にしたことで、透明人間という存在を、「加害する男性」に置き換えているのです。本作における透明人間は、所謂DV男で、エリザベス・モス演じる主人公に異常な執着を見せ、暴力を以て支配しようとしています。この加害男性から来る恐怖を、本作はホラーとして見せているのです。例えば、この手の作品では被害に遭っている主人公が中々信じてもらえないという展開がありますが、本作では、それを「男性からの被害を訴えても聞き入れてもらえない女性」の問題として描いてみせるのです。エリザベス・モスの疲弊ぶりは、DVなどで精神的に疲弊し、PTSDを患ってしまっている人を彷彿とさせます(実際、本当に患ってはいるけど)。彼女と「加害男性」である透明人間との戦いは、この世の全ての女性たちに起こっている、または起こり得る戦いのメタファーとして映ります。

 

透明人間(字幕版)

透明人間(字幕版)

  • メディア: Prime Video
 

 

 また、DVを行っている本人であるエイドリアンですが、彼がとても良かった。終盤で彼の姿が明らかになるのですが、パッと見は「普通」なのです。これはエイドリアンを演じたオリヴァー・ジャクソンがナイスガイという点があるのですけど、「DV夫をそれっぽく描かない」ことを意識しているそうです。これによって、この問題を「1部の人間の問題」ではなくて、全体が考えなければならない問題として提示できていると思います。地位が高い人間であるという点も重要かと。

 

 本作は画面構成が上手い作品でもあります。画面の中に、常に空白があり、「見えないが、どこかにいる」ことを意識させる作りになっているのです。そしてこれが恐怖につながっているのです。題材が『透明人間』であることを利用した、見事なものだと思います。後、透明人間の主観と思しきショットも何度かありました。これが男性の女性に対する性的な視点のように思えたりもしました。

 

 最後に、本作は「サプライズ」の映画でもあります。常に防戦一方であったセシリアが一発逆転をする展開があるのですが、それが冒頭から張られている伏線と、その回収が見事で、痛快な気持ちを味わえます。この点がエンタメ作品として素晴らしい点です。総じて、非常に楽しんで観ることができました。

 

 

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 そういえばこれも透明人間だよな。

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