87点
現在、絶賛公開中の『バイス』を監督したアダム・マッケイ。彼が制作し、アカデミー賞で脚色賞を受賞した本作。『バイス』が似たような感じの映画だと聞いたので、予習の意味で鑑賞しました。
タイトルは「華麗なる大逆転」です。これだけで連想できるのは、きっと『オーシャンズ』シリーズのような、チームで金持ちから金を盗んでイェーイ!みたいな娯楽作品です。しかし、実際に観てみると全くそんなことはなく、寧ろこの「大逆転」そのものを極めて批判的に描いた作品でした。
本作は作品の性質上、経済用語が大量に出てきます。感想を読んでいると、これのせいで「よく分からなかった」という意見が多々見受けられました。私は大学時代に得た知識をフルに活用して観ることで、何となく理解することができました。ただ、観終わった今思うこととしては、本作は経済の知識があまり無くても、本作は「リーマン・ショックで世界の経済がメチャクチャになった」くらいのことを知っていれば楽しめるということです(まぁ、知識が無くても、入浴中のマーゴット・ロビーとか、実在の経済学者が最低限の事は説明してくれるし)。何故ならば、この大逆転はあくまでも表面上の要素だからです。
というより、本作に関して言えば、この「難解な言葉で分からない」事こそが肝と言えます。劇中でライアン・ゴズリングが第4の壁を破って我々にこう語りかけています。「アイツらは難解な言葉を使って素人を煙に巻く」と。この言葉に代表されるように、本作には難解な言葉を用いて、善良な人々を騙くらかして金を巻き上げている連中ばかり出てきますし、映画そのものもこういう構成をとっています。
本作では、金融機関とそこの人間は、一般人が何も分からないのを良いことに、粗悪な株を乱発し、やがては金融バブルを作り出していきます。しかも、ここからが恐ろしい点で、彼らは金融バブルが起こっている事実に気づいていながらそれに対して何らかの対策も取ろうとしないのです。つまり、問題を徹底的に先送りしているのです。これは何もリーマン・ブラザーズに限った話ではなく、今の日本にだって十分通じる内容だと思いますよ。国債とかね。
そして、それらの事なかれ主義が生んだ結果については、我々が知っている通りです。世界経済は破綻し、大混乱になりました。日本だけでも相当の影響がありましたね。その皺寄せを食うのは誰か?普通に考えれば、この事態を引き起こした奴らです。しかし、現実はそう上手くはいかない。1番の皺寄せを食うのは、我々のような「一般人」です。本作はこの点をまざまざと見せつけてくるため、タイトルから連想されるような娯楽作のカタルシスは一切なく、寧ろやるせなさしか残りません。
金融業界の「複雑な」点に対する知識がない事を良いことに、金を儲けようとした一部の奴らがいる。そして、それらの積み重ねで金融バブルが起こり、弾け、大勢の人間が不幸になった。本作は、作りは自由でコメディっぽいですが、こういった問題を抉り出した立派な社会派作品だと思います。
こっちは華麗でした。
こっちも「経済的に弱い人」が割を食う映画。