暇人の感想日記

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サンタクロース伝説の見事な換骨奪胎【クロース】感想

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80点

 

 

 2019年のアニー賞を総なめにし、アカデミー賞にもノミネートされたNetflix作品。昨年は実写では『アイリッシュマン』や『マリッジ・ストーリー』が製作、公開されて非常に高い評価を獲得し、いよいよNetflixの存在感が大きくなってきたことを感じさせる年でした。とはいえ、私は本作については配信当初はそこまで観るつもりはなく、しばらく経って、観た人が絶賛しているということで興味を持ち、鑑賞した次第です。

 

 本作で目を見張るのは、その映像技術です。映像自体は手描きの2Dなのですが、新しい技術により、影の付け方で立体的、つまり3Dに見えるようになっているのです。初めて鑑賞したときは事前知識ゼロで観たので、本気で3Dだと思っていました。そのくらい良くできているのです。3DCG全盛期に敢えて手描きを選択するという姿勢だけでも本作を評価したくなります。

 

 タイトルの「クロース」から何となく分かるように、本作はサンタクロース伝説を元にした話です。このサンタ伝説の換骨奪胎が非常に上手い作品だなと思いました。例えば、サンタがプレゼントを渡す基準が「良い子」である点。本作では2つの村が特にこれといった理由もなくいがみ合っているのですが、このルールを適用させることで、子ども達に「良いこと」をさせるように促すのです。これだけだと利己的な行動ですが、本作の素晴らしい点はこの子どもの「良いこと」が次第に大人にも伝播し、村全体がお互いに助け合うようになることまで描いている点です。本作で繰り返し言われる「本当に欲のない行動は人を動かす」を地で行く内容で、ちょっとしたことから負の連鎖が起こりがちな世の中全体に対し、「こうすれば世の中は良くなる」というとてもシンプルな回答を示しています。

 

 後、ここで最初に行動を起こすのが「子ども」である点も素晴らしいと感じています。何故なら、大人のいがみ合いというのは、子どもには関係がないから。本作ではこうした純粋な子どもの姿が印象的に描かれています。

 

 本作は1人のダメ人間が1人前の人間になるまでの成長譚としてもオーソドックスで、よく出来ています。「早く帰りたい」という一心で、つまり己の欲のために行動していた人間が、初めて心からの「欲のない行い」をし、その結果として2つの村を仲直りさせるという話なのです。

 

 本作ではこの主人公を通し、我々「大人」が本当に必要なものは何か、を教えてくれる作品だと思います。主人公は何か特別な力を持っているわけではありません。最初は『ラマになった王様』の主人公みたいな、本当にただのぐーたらな人間でした。だからこそ、人とのふれあいで成長し、その果てに己の良心に従ったラストの行動は、我々「大人」にとっても大切なものは何かを思い起こさせます。そしてそれ故に、我々の胸をうつのだと思います。

 

 「本当に欲のない行いは、人の心を動かす」この言葉が意味するところを、本作は教えてくれます。とりあえず、私はこれからはサンタクロースの存在を信じて生きることにしました。

 

 

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