暇人の感想日記

映画、アニメ、本などの感想をつらつらと書くブログです。更新は不定期です。

イーストウッドが、自分への「落とし前」をつけた映画【運び屋】感想

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80点

 

 

 現在、御歳88歳のクリント・イーストウッド。『グラン・トリノ』で俳優を引退したはずの彼の、まさかの監督・主演最新作。脚本は『グラン・トリノ』と同じく、ニック・シェンク。『グラン・トリノ』で映画人として自分自身に決着をつけてみせた彼が、同じ脚本家と組むことでどんな作品を生み出すのか、非常に気になったので鑑賞しました。

 

 鑑賞してみると、『グラン・トリノ』が映画人としてのイーストウッドの集大成だったのに対し、本作はクリント・イーストウッド個人に対する、一種の「救済」のような作品でした。

 

グラン・トリノ [Blu-ray]

 

 

 本作の主人公はアールという老人です。その姿を見て真っ先に思い出すのは『グラン・トリノ』のコワルスキー。アールも彼と同じく朝鮮戦争に行き、家族とは疎遠になっています。しかし、アールがコワルスキーと違うのは、そこまで頑固爺ではないこと。ユーモアを忘れず、女にもだらしない。また、注意されてちゃんと改善できる柔軟性も持ち合わせています。そんな彼の職業はデイリリーという花の栽培。しかも、その界隈ではおそらく権威の高い賞を何度も受賞している巨匠です。

 

 このように、仕事では最高の栄誉を受け、大成功を収めている彼ですが、家庭人としては最悪で、家庭をほったらかし、娘の誕生日にも行かず、娘からは上述のように疎まれています。

 

 この彼の姿は、演じているクリント・イーストウッド自身と重なります。イーストウッド自身も「ハリウッドの巨匠」などと言われ、アカデミー賞も2度受賞しています。しかし、アールと同じく家庭はほったらかしで、複数の女性と関係を持ち、子供も何人か生んでいます。

 

 ここまで人生も、そして年齢もほぼ同じ役をイーストウッド自身が演じるため、本作は単なる「実話の映画化」と思えない側面があります。

 

 それは、監督の前作『15時17分、パリ行き』のようなテイストを持った作品だということです。あの作品は『アメリカン・スナイパー』以降、実話を撮り続けてきたイーストウッドが放った、究極の「実話再現映画」でした。俳優は事件当事者本人を起用し、話も山らしい山が無いまま淡々と進みます(それでも映画として見せてしまえるのがイーストウッドの凄いところなのですが)。

 

 

 では、本作が誰の「実話」なのかと言えば、それはアールであり、イーストウッド自身のです。本作も『15時~』と同じように、話はかなり淡々と進んでいきます。盛り上がりそうなところもそこまで盛り上げず、実にさりげなく描いています。

 

 そして、内容自体も、ある意味で『15時~』のような「実話再現映画」なのです。それは上述のイーストウッドと、実在の運び屋アールとの共通点の多さにあると思います。あまりにも共通点が多いため、イーストウッドが配し、演じるだけで『15時~』のように映画として成立しているのです。

 

 本作で描かれるのは、アールの贖罪です。家庭を省みず、仕事にかまけていた男が、最後に家族に受け入れられる。これは要するにイーストウッドがこれまでやってきた「自分の罪に落とし前をつける」話です。ラストの法廷で、自分自身を「有罪」と言ったことからもそれは明らかでしょう。

 

 ただ、これが感動的なのは、本作がイーストウッド自身の「実話再現映画」であり、ラストのアールの救済が、そのままイーストウッドの救済になっているから。同じく家庭を省みず、それを悔いる映画ばかり作ってきた男が、(おそらく)最後の主演作で救済される。どんなに年老いても、人は反省し、変わることができる。そんなことを思った映画でした。

 

 

イーストウッドの集大成。こちらも素晴らしい作品でした。

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監督の前作。賛否あるようですが、私は好きです。

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美しい映像で紡がれる「そうなるしかない」2人【ビール・ストリートの恋人たち】感想

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75点

 

 

 『ムーンライト』でアカデミー賞の作品賞を獲得したバリー・ジェンキンス監督。彼が次に放った作品は、アメリカの文豪、ジェームズ・ボールドウィン原作の小説でした。恥ずかしながら、私はこの作家さんは全く知らなかったのですが、『ムーンライト』のバリー・ジェンキンスの作品だと聞いて鑑賞しました。

 

 映画は路を歩く2人を上から捉えたショットから始まります。この時点から画面が美しく惚れ惚れするのですが、その上から捉えたカメラが下りてきて2人のキスを捉えます。ここで、2人は幸せなんだなと思うわけですが、そこから画面がパッと変わり、キスしたのと同じような構図で、刑務所のガラス越しに向き合っている2人が映されます。私はここで、幸せの絶頂だった彼らが一気に不幸に見舞われたのと同じ気持ちを味わいました。ここから、2人が幸せになっていく過去と、刑務所に逮捕されたファニーを釈放しようとする現在が交互に描かれていきます。

 

ビール・ストリートの恋人たち

ビール・ストリートの恋人たち

 

 

 本作では、やはり差別が描かれていますが、『グリーンブック』や『それでも夜は明ける』のように、声高には描きません。ただ淡々と、さりげなく描いていきます。何より、本作のメインは、「引き裂かれた恋人」だと思うのです。白人の黒人への差別意識により、「生きたいように生きられない」黒人の恋人たちを描いているのだと思います。

 

 こうして観ていくと、幸せに向かっていく過去は愛おしく感じられるし、その分、引き裂かれた現在は「早く何とかなってほしい」と思わずにはいられません。この状況は最後まで変わらないのですが、「結婚していないことを意識している」ファニーと、彼を想うティッシュが、ラストまで引き裂かれたままな状態を見て、本作が『ムーンライト』と同じく、「生きたいように生きられなかった人」の話なのだと思いました。

 

 バリー・ジェンキンスは『ムーンライト』で画面の美しさを我々に見せつけましたが、本作でもそれは健在で、観ていて終始美しさに圧倒されていました。美しい画面の中でも、辛い現実を生きる人々を映した映画だと思いました。

『トランスフォーマー』をジュブナイルモノとして上手く作った秀作【バンブルビー】感想

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78点 

 

 

 世界中でメガヒットを記録した『トランスフォーマー』シリーズ。興行的には大当たりしているものの、さすがはマイケル・ベイ。戦闘シーンは何をやってるのかさっぱり分からないグチョグチョぶりだし、ストーリーはアレだし、そもそもトランスフォームをちゃんとしないという欠点を抱えた作品でした。

 

 私は2作目はまでは観たのですが、やっぱりマイケル・ベイですから。そこで続きを観る気にならず、3作目以降は観ていません。そんな私が、何故本作を鑑賞したかといえば、監督が『クボ 二本の弦の秘密』のトラヴィス・ナイトだったから。私は『クボ』は本当に好きなので、どうやら『トランスフォーマー』らしくなく評価も高いらしいし鑑賞した次第です。

 

 

 本作のあらすじは、父の死を受け止められず、自分の居場所が見つけられない少女チャーリーが、記憶を無くしたバンブルビーと交流して成長し、自分を取り戻すというもの。要するに『ET』や『アイアン・ジャイアント』みたいな、ベタな話です。しかし、ベタだからこそ観やすいし、感動しました。

 

 まず感動したのは、アクションシーン。『トランスフォーマー』のシリーズなのに、戦闘中に「誰が、どこで、何をやっているか」がちゃんと分かるのです。つまり見やすくなっている。しかも、戦い方が武器だけではなく、ちゃんと体術らしきものを使ったり、地形を利用したりと、利にかなっているのです。

 

 また、マイケル・ベイ版とは違い、ちゃんとトランスフォームしているのも素晴らしい。あっちは「アレからこれになるか?」と疑問符がつくものでしたから。

 

 また、上述のようにストーリーも良いです。序盤の、チャーリーの居場所が無い描写、そしてそんな彼女が記憶を無くしたバンブルビーと交流し、ラストで大切な存在のために「飛ぶ」チャーリーの姿には胸を打たれます。このシーンや、劇中のアイテム等、出てきた伏線はしっかり回収しており、脚本も良くできてると思います。この丁寧な積み重ねが、ラストの2人の別れに感動をもたらすのです。

 

 

 また、途中に出てくるボンクラオタクのメモも良い。彼は至る所に「最高」と思わせる要素があるキャラなのですが、彼とチャーリーの交流がとてもよく、本作はジュブナイルとしても面白いと思わせてくれます。

 

 本作をちゃんと観てみると、監督の前作『クボ 二本の弦の秘密』と通じるテーマだということが分かります。つまり、両作とも、同じく「1人である主人公が家族を得る」話なのです。2作共通しているところを見ると、これがトラヴィス・ナイトの作家性ということなのでしょうか。

 

 このように、本作は「ジュブナイルもの」としても素晴らしいですし、そこへ『ET』的な要素を『トランスフォーマー』に上手く置き換えて作られている作品でした。その意味で、本作はひょっとしたら、『トランスフォーマー』史上最もスピルバーグの精神を引き継いでいる作品なのかもしれません。

 

 

同じ監督の作品です。こっちも素晴らしい作品でした。

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同じような作品。こっちも素晴らしい作品でした。って2回目か。

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2019年冬アニメ感想②【ブギーポップは笑わない】

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 最近、電撃文庫が推し進めている、「過去の名作ラノベの再アニメ化プロジェクト(勝手に命名)」。2017年は「キノの旅」が再アニメ化され、次は同じく名作なのだけれど、メディアミックスがあまり上手くいかなかった「ブギーポップは笑わない」。この作品は今でこそ影が薄くなっていますが、発表当事はラノベ界に衝撃を与え、「ブギーポップ以前、以後」という境を作り出した作品で、後続の作家に多大な影響を与えました。代表的な人には西尾維新や、奈須きのこがいますが、彼らの活躍ぶりと与えた影響を考えれば、本作がどれほどの衝撃を持った作品だったのかが分かります。

 

 こんなにも多大な影響を与えた作品なもので、私も大変気になり、高校生の時に読みました。そして、その面白さに一時期はまり、「エンブリオ」2部作まで読んだ記憶があります。それ以降は他のラノベに興味が移っていたので、読んだのはそこで終わっています。

 

ブギーポップは笑わない (電撃文庫)
 

 

 そんな状態でも、アニメ化の発表があったときは驚きましたし、ちょっと嬉しくもありました。制作はマッドハウスだし、気になるスタッフも、「ワンパンマン」「ACCA13区監察課」のメンツだしで、KADOKAWAの気合いが伝わってきて、期待値は上がっていきました。まぁ、これで出来が良かったら「キノの旅」は何だったんだと言いたくなりますが、ここは堪えようと思い、視聴しました。

 

 視聴してみると、確かに原作に「忠実に」作ってあることはあるのですが、話をなぞっているだけのようにも思える作品で、私の懸念が現実になってしまうとともに、原作の良さを再確認してしまいました。

 

  本作は、原作のシリーズから、「ブギーポップは笑わない」「VSイマジネーター」「夜明けのブギーポップ」「歪曲王」篇をアニメ化したものです。ストーリーが進むにつれ、印象が変わっていったので、その印象を以下に書きたいと思います。

 

 まずは「笑わない」篇。ストーリーは原作と同じく、ブギーポップと竹田君の屋上での会話のみで進行するという、非常に斬新なもの。これはこのシリーズの根幹である「世界では、事件が気づかないうちに始まり、気づかないうちに終わる」事を端的に表した話です。なのでこれはこれで良いのですが、これを頭に持ってこれるのは小説という、気になったらすぐに読み進められる媒体だからこそできることであり、1話毎に時間が空く連続TVアニメとは相性が良くないです。スタッフもそこら辺は分かっていたようで、2話連続にしていました。

 

 ただ、これ以降の話はどうかというと、原作の内容を消化するだけに終わっていて、原作の良さをもて余している感が否めませんでした。原作は話毎にキャラの視点が変わり、パズルのピースがはまるように徐々に事件の全貌が分かるという構成をとっていて、その妙がとても面白いのです。しかし、このアニメ版にはその快感はあまりなく、ただ時系列をごちゃごちゃにしただけで、よく分からなくなっているという印象を受けました。これは次の「VSイマジネーター」篇でも言えることです。

 

 

 また、もう1つ大きな問題点として、この2つのパートには、原作の魅力の1つである「普通の世界に異物が入り、途端に日常が非日常になる」という要素があまり感じられなかったことが挙げられます。登場人物がいる世界と、統和機構やMPLS等の異質な存在が地続きのものに感じられてしまったのです。

 

 パズルのピースがはまる快感もなく、「非日常の侵入」的な世界観の再限度も微妙という印象でしたが、「夜明けのブギーポップ」篇でこの印象が変わります。「夜明け」は素晴らしい出来で、上記の私の不満点全てを払拭したものだったのです。

 

 これには理由があると思っていて、時系列が「笑わない」「VSイマジネーター」ほど入り組んでいないことが大きいと思います。後、4話一挙放送したことも大きいかと。また、「日常」が侵食されていく話になっているため、ブギーポップの「日常が侵食されていく感じ」が上手く出たのかなぁと。

 

 さらに、ここで「夜明け」を挿入したことで、ここまで出てきたキャラや組織、用語が次々に明らかにされ、これまで無かった「パズルのピースがはまる快感」があり、同時に情報の整理にもなっているという作りになっています。この点でも、ここで「夜明け」を入れたスタッフには賛辞を送りたいです。

 

夜明けのブギーポップ (DENGEKI)

夜明けのブギーポップ (DENGEKI)

 

 

 さて、ここまでやったうえで最後を飾るのは「歪曲王」篇。これは刊行当初、「ブギーポップ」最終巻とされていたこともあり、内容も心の歪みを正し、人間の「進化」についての話になっており、まとまりは良いです。また、肝心の時系列的にも、これはそこまで複雑なものではないものなので、混乱はなく、スッキリと観られます。さらに、ラストの「ニュルンベルクのマイスタージンガー」は結構良い感じに使われていたし(ただ、ここで使うなら何故「笑わない」篇で使わなかったのかな?)、ラストの「日常」に人々が戻っていく様子や、最後を1話と対比させる演出も良かったです。最終話のエンディングで「日常」を見せたのも中々良い。最後の笑顔も、こっちの方が原作より自然だと思います。

 

 また、全編に亘って、原作が持つ抽象的な内容を映像化しようと、かなり苦慮した後も見受けられます。光と影や、キャラの立ち位置の変化で力関係を変化を描写したりしています。こういった画面演出がかなり計算して作られている作品でもあると思います。

 

 このように、かなり頑張ってアニメ化した本作ですが、正直言って、私の懸念が現実のものとなってしまった感があります。それは、「作品が時代と合っていなのでは」というものです。「ブギーポップ」シリーズは1998年に刊行されました。当時は世紀末で、「新世紀エヴァンゲリオン」などに端を発するセカイ系作品が時代とマッチしており、その中で本作は生まれました。この時代性と完璧にマッチしていたからこそ、「ブギーポップ」は当時の読者を心を直撃し、多大な影響を与えました。

 

 しかし、時代は移っています。「ブギーポップ」がもたらした影響で今は西尾維新が生まれ、奈須きのこが生まれ、そして彼らの作品は大ヒットし、ライトノベル、アニメ作品は次のステージへと移り、今流行っているのは異世界転生モノとかです。そんな中、本作は原作の90年代末的な内容を「忠実に」なぞっているのです。これでは若干の時代錯誤感は拭えません。この作品と視聴者(新規さん)の距離が、本作がそこまで話題に上がらなかった原因なのかなと思います。こう考えると、作品のメディアミックスを成功させるタイミングって、本当に大切ですね。

 

 以上のように、アニメ作品としては、原作の魅力を十分に再現できているとは思えませんでした。それは時代が変わったことと、やはりこのシリーズは「小説」という媒体をフルに使っていたからであり、アニメには置き換え辛かったのかなと思います。ただ、「夜明け」は良かったと思います。

 

 

 「名作復活プロジェクト」第1作。こっちも言いたいことがたくさんありました。

inosuken.hatenablog.com

 

 同じく電撃文庫の作品。最新の作品なので、こちらは面白かったです。

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2019年冬アニメ感想①【revisions リヴィジョンズ】

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 フジテレビが推し進めている「+Ultra」枠で制作されたTVアニメ。監督は『コードギアス 反逆のルルーシュ』『スクライド』等の谷口悟朗さん。私は谷口さんの作品は可能な限り追おうと思っているし、「+Ultra」枠というフジテレビが気合を入れている枠の作品なので視聴しました。

 

 視聴してみると、最近のアニメのトレンドと過去の名作の設定を上手く脱構築し、谷口監督流の「王道でありながら捻くれた作品」になっていました。

 

 本作は、まず渋谷の一部が未来に転送されるという驚愕の展開から始まります。これを見て真っ先に思い出すであろう作品は楳図かずお先生原作の名作「漂流教室」でしょう。また、「隔絶された空間で大勢の人が生きる」という展開は谷口監督のつながりで、『無限のリヴァイアス』を思い出させます。ただ、私としてはこの展開に別の意図を感じました。それは、異世界転生モノを谷口監督流に脱構築するという意図です。

 

 

 異世界転生モノとは、『Re;ゼロから始める異世界生活』や『ナイツ&マジック』、『転生したらスライムだった件』等に代表される、「現実世界にいた主人公が、何らかの方法(大体不慮の事故による死亡)で、異世界に転生し、その時に授かった能力と現実世界で得た知識を使って無双する」というもの。『リゼロ』等、一部例外もありますが、基本的にはこの内容です。基本的にこれらの作品は、「現実世界ではイケてない俺らでも、異世界ならワンチャン活躍できんじゃね?」という妄想から生み出されているのですが、これらの作品では、主人公は何故か異世界に転生し、そこで何故か重要な役割を果たします。まるで、そういう運命だったかのように。

 

 

 本作の主人公、大介(どことなく碇シンジ似)はこうした妄想を取り入れ、異世界転生主人公を批評的に描いたキャラクターだと思います。幼い日のミロとの約束を守るべく1人で「危機」に備えているのですが、周りからは変人扱いで、良いことなど全くない。そんな彼ですが、「運命」通りの危機(=渋谷転送)が訪れたことで自らの行動が間違いでないことが証明されました。設定だけ見れば、彼は完全なる異世界転生モノの主人公で、普通の異世界転生モノならば、ここで大介が超能力を発揮して無双を始めるのですが、本作ではそうはならない。1話だけならば大介は大いに活躍しますが、その後は、彼のアイデンティティを壊していく展開が続きます。「自分にだけ動かせる」と思っていたストリング・パペットは他のルゥやガイ、愛鈴や慶作にも動かせることが判明し、「護る」と誓った人々は救世主たる自分にぞんざいな扱いをする、「運命の人」であるはずの自分は自己中な行動をとがめられ、リーダーはガイになるなど、徹底して、「自分は運命の救世主だ」という思い込みを壊していきます。

 

 そんな彼がそれまでの行いを反省し、少しだけ成長するのが第7話なわけですが、その後、大介は単なる「バックアップ」でしかなかったことが判明し、慶作が死んだことで自らが信じてきた運命が完全に否定されます。

 

 そこからの復活劇が泣かせるわけです。彼は全てを失いましたが、失ったことで、もう一度自分自身と向き合い、再度「皆を護る」事を誓います。これは「運命」に従った結果ではなく、自らが選択した結果です。ここに、「皆を護る」事を決意した堂島大介というキャラクターが誕生したのです。このように、本作は大介という「主人公」が真の意味で「主人公」になる話なのだと思います。

 

revisions リヴィジョンズ 1 (ハヤカワ文庫JA)

revisions リヴィジョンズ 1 (ハヤカワ文庫JA)

 

 

 自らの運命を切り開いた大介ですが、これは本作全体に通底するテーマでもあると思います。一応の「敵」であるリヴィジョンズも、一応の「味方」であるアーヴも、手段は違えど、自らの「運命」を何とかしようとしていた組織でした。この2者に板挟みになるのが現代人なわけですが、彼らは右も左も分からない状況下で、とにかく自分たちに味方するアーヴと協力していきます。ここでリヴィジョンズと協力しようとする人物も出てきますが、最終的に双方のリーダー的人物が命を落としてしまい、味方だと思っていたアーヴも、自分たちを実験材料程度にしか思っていなかったことが判明します。ここで、現代の人々もまた、頼るべきものを失ったのです。

 

 しかし、そんな中で、「現代に帰る」事を目的に、自分たちで一致団結し、「自分たちの力で」道を切り開くことを決意します。ここに、「運命なんてあるわけないだろ。それは自分たちで切り開くものだ。アニメみたいに最初から都合よくいくわけないだろ」という谷口監督の捻くれた考えが伺えました。こんな考えをしたのは私だけかもしれませんが。

 

 「運命」というレールに従うのではなく、自分たちで道を切り開くことを軸に、大介というキャラを通して一種の「主人公論」までやってのけた本作。やっぱり谷口監督って、捻くれてんなぁ。

 

 

同じく谷口監督作品。

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同じく、「運命を切り開く」話。

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2019年春アニメ視聴予定作品一覧

 皆様、こんにちは。月末恒例の、来期の視聴予定アニメの一覧をアップしたいと思います。

 

4月1日

ULTRAMAN


Ultraman | Official Trailer [HD] | Netflix

 発表されたときから楽しみにしていました。ネットフリックスで見たいと思います。

 

 

4月2日

ワンパンマン


TVアニメ『ワンパンマン』第2期 PV第2弾

 2015年に制作された作品の続篇。スタッフが一新されたので、過度な期待はせず、楽しみたいと思います。

 

 

4月6日

鬼滅の刃


TV動畫「鬼滅之刃」第2彈PV 2019年4月6日放送開始

 週刊少年ジャンプで連載されている作品。原作は未読なのですが、ジャンプで推されているし、制作もufotableなので見ます。

 

 

4月7日

『群青のマグメル』 1話で終了。設定は良いんだけどね。


TVアニメ「群青のマグメル」公式PV

 原作未読。中国の漫画家さんが原作という事で、どういう内容なのか気になり視聴。

 

『Fairy gone フェアリーゴーン』 3話で終了。キャラに魅力がない。


TVアニメ『Fairy gone フェアリーゴーン』PV

 P.A.WORKS制作、『ジョジョ』の鈴木健一さんが監督という事で視聴。

 

ぼくたちは勉強ができない


TVアニメ「ぼくたちは勉強ができない」第三弾PV

  ジャンプのラブコメ。ラブコメは久しぶりなのでテンションについていけるか心配ですが、まぁ癒されたいし。

 

 

4月8日

『RobiHachi』 4話で終了。なんかもういいかなと思ってしまった。


TVアニメ「RobiHachi」PV

 監督が高松信司さんなので視聴。やりたい放題のギャグを期待します。

 

 

4月10日

『世話焼きキツネの仙狐さん』 甘やかされる理由が分からず、入り込めず。


TVアニメ「世話やきキツネの仙狐さん」PV

 こんなもん見るしかないやん。

 

『キャロル&チューズデイ』


TVアニメ「キャロル&チューズデイ」PV

 渡辺信一郎の新作なので脊髄反射的に視聴決定。

 

 

4月11日

『さらざんまい』


さらざんまい本PV

 幾原邦夫の新作なので、リアルタイムで追わない理由はないです。どんなものを見せてくれるか楽しみ。

 

 

 以上になります。今期はちょっと少なめのスタートになります。例のごとく、放送中の評価と人気で見るものをプラスしていきたいと思います。

向き合えば、人は分かりあえる【グリーンブック】感想

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87点

 

 

 第91回アカデミー賞、作品賞を受賞した本作。監督は『メリーに首ったけ』等に代表されるコメディ映画ばかり作っていたピーター・ファレリー。しかも内容は1960年代のアメリカ南部を舞台にし、そこでの差別が主題であるという超真面目なもの。「一体どうしたんだ?」とやや困惑しつつも、どういうものが出来上がったのか気になるし、やっぱりオスカー獲ったわけだし、鑑賞しました。

 

 

 鑑賞してみると、差別という思いテーマを扱っているにも関わらず、どことなく軽妙な感じで、脚本も役者も音楽も良いという、非常にウェルメイドな作品だと思いました。

 

  本作の主人公は2人。ヴィゴ・モーテンセン演じるトニー・ヴァレロンガと、マハーシャラ・アリ演じる天才黒人ピアニスト、ドン・シャーリーです。本作はこの2人が心を通わせ、互いに理解し合うロードムービーとなっています。

 

 中でも、本作の核とも言えるのは、ドン・シャーリーだと思います。彼はピアニストとして天才的な腕を持っているのですが、矛盾と孤独を抱えている存在です。黒人でありながら、育ちの関係で黒人の文化に馴染んでおらず、白人のためにピアノを弾き、愛想笑いを振りまきます。かといって、白人社会に溶け込めているわけではなく、彼はきちんと「黒人」として扱われ、トイレも泊まれるところも白人とは違います。シャーリーは、白人にも黒人にもなれない人間なのです。

 

グリーンブック~オリジナル・サウンドトラック

グリーンブック~オリジナル・サウンドトラック

 

 

 そんな彼の心に風穴を開けるのが、シャーリーとは全く違う世界にいるトニー・ヴァレロンガ。彼はイタリア系で、家族に囲まれ、楽しく暮らしています。しかし、黒人に対してはやはり無意識下で差別意識、偏見を持っています。そんな彼ですが、シャーリーとの旅を通し、彼を理解し、受け入れていくのです。

 

 この互いに信頼していく過程が本当に面白い。やり取り1つ取っても、良い台詞の応酬なんです。ドンとトニーは互いに偏見や差別について話しますが、それは車の中で行われていることもあり、彼らは向き合っていません。しかもシャーリーは、トニーに言いくるめられそうになると、「前を見ろ」とすぐ話をそらします。そんな中、車から降りたシャーリーが、トニーと向かい合って自分の気持ちを吐露するシーンは、彼が初めて自分自身をトニーに晒したもので、大変泣けるシーンでした。

 

 そして更なる白眉のシーンは、白人の高級料理店を断り、黒人の安酒場でピアノを弾くシーンです。あそこで演奏されていたのは、ジャズだったと思います。ジャズは公民権運動が盛り上がるなか、黒人文化の象徴となっていきました。そんな音楽と共に自らのピアノを弾く。これは自らあの世界に入っていき、そして黒人の中に受け入れられたように思えました。また、ラストでトニーの家族にも自ら入っていって受け入れられます。ここで、シャーリーは1人の人間として、殻を破ることで偏見というものを乗り越えられたのだと思いました。そして同時に、トニーは偏見を捨て、1人の人間として向き合うことでシャーリーと友になれたのです。

 

 劇中でシャーリーは言います。「勇気が人を変える」と。シャーリーとトニーは、旅の中でお互いの事を理解し、偏見を乗り越え、友になりました。差別や偏見は相手と真摯に向き合えば乗り越えることもできる。シャーリーとトニーは、そんな事を身を以て証明したと思います。思いテーマをこんなにも軽妙に、しかしちゃんと考えさせ、泣かせてしまうピーター・ファレリー、ちょっと舐めてたわ。