暇人の感想日記

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イーストウッドが、自分への「落とし前」をつけた映画【運び屋】感想

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80点

 

 

 現在、御歳88歳のクリント・イーストウッド。『グラン・トリノ』で俳優を引退したはずの彼の、まさかの監督・主演最新作。脚本は『グラン・トリノ』と同じく、ニック・シェンク。『グラン・トリノ』で映画人として自分自身に決着をつけてみせた彼が、同じ脚本家と組むことでどんな作品を生み出すのか、非常に気になったので鑑賞しました。

 

 鑑賞してみると、『グラン・トリノ』が映画人としてのイーストウッドの集大成だったのに対し、本作はクリント・イーストウッド個人に対する、一種の「救済」のような作品でした。

 

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 本作の主人公はアールという老人です。その姿を見て真っ先に思い出すのは『グラン・トリノ』のコワルスキー。アールも彼と同じく朝鮮戦争に行き、家族とは疎遠になっています。しかし、アールがコワルスキーと違うのは、そこまで頑固爺ではないこと。ユーモアを忘れず、女にもだらしない。また、注意されてちゃんと改善できる柔軟性も持ち合わせています。そんな彼の職業はデイリリーという花の栽培。しかも、その界隈ではおそらく権威の高い賞を何度も受賞している巨匠です。

 

 このように、仕事では最高の栄誉を受け、大成功を収めている彼ですが、家庭人としては最悪で、家庭をほったらかし、娘の誕生日にも行かず、娘からは上述のように疎まれています。

 

 この彼の姿は、演じているクリント・イーストウッド自身と重なります。イーストウッド自身も「ハリウッドの巨匠」などと言われ、アカデミー賞も2度受賞しています。しかし、アールと同じく家庭はほったらかしで、複数の女性と関係を持ち、子供も何人か生んでいます。

 

 ここまで人生も、そして年齢もほぼ同じ役をイーストウッド自身が演じるため、本作は単なる「実話の映画化」と思えない側面があります。

 

 それは、監督の前作『15時17分、パリ行き』のようなテイストを持った作品だということです。あの作品は『アメリカン・スナイパー』以降、実話を撮り続けてきたイーストウッドが放った、究極の「実話再現映画」でした。俳優は事件当事者本人を起用し、話も山らしい山が無いまま淡々と進みます(それでも映画として見せてしまえるのがイーストウッドの凄いところなのですが)。

 

 

 では、本作が誰の「実話」なのかと言えば、それはアールであり、イーストウッド自身のです。本作も『15時~』と同じように、話はかなり淡々と進んでいきます。盛り上がりそうなところもそこまで盛り上げず、実にさりげなく描いています。

 

 そして、内容自体も、ある意味で『15時~』のような「実話再現映画」なのです。それは上述のイーストウッドと、実在の運び屋アールとの共通点の多さにあると思います。あまりにも共通点が多いため、イーストウッドが配し、演じるだけで『15時~』のように映画として成立しているのです。

 

 本作で描かれるのは、アールの贖罪です。家庭を省みず、仕事にかまけていた男が、最後に家族に受け入れられる。これは要するにイーストウッドがこれまでやってきた「自分の罪に落とし前をつける」話です。ラストの法廷で、自分自身を「有罪」と言ったことからもそれは明らかでしょう。

 

 ただ、これが感動的なのは、本作がイーストウッド自身の「実話再現映画」であり、ラストのアールの救済が、そのままイーストウッドの救済になっているから。同じく家庭を省みず、それを悔いる映画ばかり作ってきた男が、(おそらく)最後の主演作で救済される。どんなに年老いても、人は反省し、変わることができる。そんなことを思った映画でした。

 

 

イーストウッドの集大成。こちらも素晴らしい作品でした。

inosuken.hatenablog.com

 

監督の前作。賛否あるようですが、私は好きです。

inosuken.hatenablog.com