暇人の感想日記

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映画人、イーストウッドの集大成【グラン・トリノ】感想

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98点

 

 

 クリント・イーストウッド監督が、自身最後の主演・監督作として制作した作品。本作はその意気込み通り、イーストウッドの監督として、そして役者としての集大成的な作品であり、同時の彼のアメリカへの遺言的なメッセージを持った作品でした。

 

 本作でイーストウッドが演じるコワルスキーは、典型的な保守系アメリカ人です。フォードの自動車工場に50年間勤めあげ、デトロイトに一軒家を買い、家族を持って、引退した後は家の芝生を日々芝刈り機で綺麗に整えるという、まさに50年代の「ザ・古き良きアメリカ人」な日々を送っています。また、途中みせる仕草が完全に『ダーティ・ハリー』のそれなのにはビックリしましたね。

 

 そんな彼の家の隣に引っ越してきたのがまさかの自分から仕事を、そしてアメリカの自動車産業をひっくり返した東洋系(コワルスキーにはアジア系はみんな同じに見えてる)のモン族の人々。コワルスキーにとっては憎き相手なわけですが、本作はこの保守系アメリカ人コワルスキーお爺ちゃんと移民であるタオ一家との交流を描きます。最初こそ「イエローは好かん」な態度だったコワルスキーがだんだんデレてきて、タオの「男修行」をするにまでの関係になってくるのは観ていて大変微笑ましいです。

 

 このように、本作は「ゴリゴリの保守系アメリカ人」と「東洋系の移民」の交流を描き、「アメリカは彼らと融和していくべきなのか」とイーストウッド自らが示していきます。

 

 そして、イーストウッド映画お馴染みの要素である「罪と罰」も健在です。本作のコワルスキーは、朝鮮戦争で数々の敵兵を殺してきたことに苦しんでいます。そして、タオにちょっかいを出すモン族のギャングたちを自らの暴力によって諫めていきます。しかし、その暴力が、さらなる暴力を生み、取り返しのつかない事態を引き起こしてしまいます。『許されざる者』ではここからマーニーが復讐に身を乗り出しますが、本作では復讐に身を乗り出すのはタオで、コワルスキーは彼を諫め、自ら「落とし前」をつけようとします。この「落とし前」のシーンは完全に西部劇のそれですし、だからこそ、イーストウッドの、過去の作品すべてを総括したかのようなあの終わり方が素晴らしく感じられます。

 

 イーストウッドの過去作で見せた「暴力への落とし前」を、『ミリオンダラー・ベイビー』のように「命を使い切る」話として描き、そのコワルスキーの魂であるグラン・トリノを移民であるタオに「継承」させることでアメリカという国への遺言にしてみせる。タオが乗ったグラン・トリノに続いて数々の車が「後を追う」エンディングはその意味が全て詰まったもので、何だか泣けてきました。