暇人の感想日記

映画、アニメ、本などの感想をつらつらと書くブログです。更新は不定期です。

結局、キャラ紹介「だけ」で終わってしまった:2017年秋アニメ①【キノの旅-the Beautiful World- the Animated Series】感想

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 長年ファンである本作。アニメ化を聞いたときは嬉しかったので、不安もありつつ楽しみにしていました。そして1話が終わって、心の底から安堵しました。素晴らしい出来だったからです。感想を貼っときますね。

 

inosuken.hatenablog.com

 

 「これなら任せられる。大丈夫だ。・・・そう思ってた時期が、私にもありました。回を重ねるごとにどんどん微妙な出来になっていき、終盤ではイライラしながら見るハメになりました。

 

  ハッキリ私の意見を表明しておくと、本作は「失敗作」だと思います。というのも、本作には、「軸」がないと思うからです。

 

  その軸とは、「キノの旅」という作品の大部分を占める「傍観者キノ」の話のことです。本作はそこが薄ぼんやりしている。


 「キノの旅」では、キノとエルメス、シズと陸とティー、師匠と弟子、フォトとソウの、主に4つの話があります。そしてそれらにはキャラ毎に内容が異なり、それが世界の、人間の多面性を見せることに貢献していると思います。そしてこれらの話がこのような効果を生むのは、「傍観者キノ」の話がしっかりと軸として機能しているからです。


 ここで言う「傍観者キノ」の話とは、「星の王子様」ようなキノが訪れた国を傍観している話です。時雨沢先生によると、『キノの旅』の最大のモデルは『銀河鉄道999』だそうです*1。あれは鉄郎が様々な風習を持った星を旅するものです。 そしてそれに加え、上述の『星の王子様』や、星新一作品の要素もあると思います。これらに共通していることは、基本的に各話の主人公はその星や国の人々であることだと思います。原作もその要素は継いでいて、少なくともキノの話は、基本キノは傍観者であり、主役は国民です。前作のアニメはここら辺を徹底して描いていました。

 

旧作の感想はこちら。

inosuken.hatenablog.com

 

 今回のアニメ化のダメな点は、この軸をしっかりと視聴者に提示しないまま、他のキャラの話をやってしまっている点です。なるほど、全12話中、「キノの登場回数」は全キャラの中で断トツ1位です。しかし、その中でも作品の軸である「傍観者キノ」の話はいくつあるでしょうか。

 

 それは個人的には1,3,5話の3つだと思っています。2話は確かにキノが主人公ですが、特殊な回で、ラストで国に介入します。4、6、7話はキノが主人公ではありません。9話はネタ回でしたし、10話はイレギュラーな話。これはもっと「傍観者キノ」の話をやらないと効いてこないと思います(これについては後述)。11話は、まぁ、「キノ」の誕生の話ですからね・・・。12話は羊。何でこの話を最後にしたんだ。故に、1,3,5の3つです。しかも厳しめに見れば、3話はキノが「国に介入する」という色々なルールを破る話。多分フルートの紹介で出したかったのでしょうが、3話でやる話でもないような。だから実質2話です。2話しかないのです。少なすぎ。

 

 これによって、最後の演出も微妙な感じになっています。私は11話のあの演出は1話冒頭の補完になっていると思っていて、そこらへんは素晴らしいと思いました。でも、それは1話と11話だけで完結しているのです。間の「傍観者キノの話」が少なく、しかも他のキャラの話が内容的につながらないから、11話であのオチをやっても、「あぁ、なるほど」ぐらいにしか思えん。

 

 また、これによって、更なる問題が生じています。それは、主人公であるはずのキノのキャラクターがよく分からないことになっている点です。某掲示板でキノのことを「やれやれ系チート主人公」と例えていた人がいたことがショックでした。そして、このアニメだけを見れば、そう思えても仕方がないと思ってしまう自分にも。これは構成の問題です。1話で傍観者面していたキノですが、2話で「コロシアム」、3話で「迷惑な国」をやってしまったことで、いきなりこのスタンスをひっくり返してしまっているのです。これは原作ファンからすれば納得いくものではありますが、キノというキャラをよく分かっていない新規の視聴者は置いてけぼりをくらったとしても仕方ありません。しかもそこからしばらく他のキャラの話に移ることもここに拍車をかけています。本当は3話くらい「傍観者キノ」の話をやり、キノのキャラをしっかりと理解させた上で上記2話をやるべきなのですが・・・。

 

 何故、このような歪な構成になってしまったのか。それを考える視点として、「キャラと作品の紹介」について注目するとこの構成の意図が見えてきます。

 

 全12話をよく見てみると、ほとんどの話に「紹介」の意図があることが分かります。1話は「キノの旅」の基本的な紹介、2話はキノの強さ兼シズの紹介、3話はフルートの紹介、4話はティーの紹介、6話はフォトの紹介、7話は師匠の紹介、8話はシズ一行が真の意味で「仲間」になる話です。そして10、11話は作中トップクラスの人気話。そう、今回のアニメ化は、12話を使った「作品紹介」に止まってしまっているのです。なので、本作は、新規の人には「キャラや武器は分かるけど、肝心の軸が分からない」という上澄みをなぞっただけの本末転倒な作品になってしまうのです。

 

 この点は、作品の軸をしっかりと描き出そうとした2003年版とは対照的です。本作は、軸と共に、キャラ紹介をやろうとしていて、それが全く上手くいってない。キャラ紹介の話はそういう意図を持って書かれているので、やはりキャラの印象が強く残ります。故に、寓話的な要素が薄まってしまうのです。キャラ紹介をちゃんとやりたいなら、キチッとその分の尺を用意してくれよ。

 

 後は、作画も問題だと思っていて、素晴らしい回は本当に素晴らしいのですが、ひどいときはひどい省エネ作画でした。もっと頑張ってほしい・・・。

 

 

 ただ、いくつかの話は本当に素晴らしいです。1話は何度見ても良いし、5話も良い。こういうので良いんです。懸念の「優しい国」も悪くなかったです。そして何より、「大人の国」。凄かった。ずっと色褪せた世界だったのが、城壁を抜けたら色付く演出は素晴らしい。ここで、旧作とは違うアプローチで、同じ結論に辿り着いています。キノは、1話冒頭の通り、世界の美しさを知っていたのですね。しかも旧作最終話と対になるラストの台詞。これだけなら旧作超えてます。

 

 このように本作は、新規の視聴者には「よく分からない」内容になったと思います。作ってしまったので、やり直しも出来ない。この点で、キノの旅のアニメは、中々まずい状況になったと思います。もし続篇を作るなら、「涼宮ハルヒ」の2期のように、新作と本作をシャッフルして作ってほしいなぁと勝手なことを考えています。

*1:キノの旅XIII‐the Beautiful World‐」p.247 あとがきより