暇人の感想日記

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想ってくれる人がいれば、「幸せ」は傍にある【幸福路のチー】感想

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93点

 

 

 台湾発の長編アニメーション映画。公開前から各方面で話題沸騰の作品でしたので、興味はありました。しかし、上映館と時間の折り合いがつかず、結局公開年の2019年のうちに鑑賞することはできませんでした。年が明け、ようやく観られるようになったので、1月に鑑賞してきました。

 

 本作は祖母の葬式のために帰省してきたチーが、自らの幼年期を思い出すという構成をとっています。そして、彼女の人生と並行して、台湾の激動の歴史が語られます。この点は2016年の日本の映画『この世界の片隅に』を彷彿とさせます。

 

 本作はこのチーが本当に、自分にとっての「幸せ」に気付くまでを描きます。小さい頃は色んな夢を持っていて、向こうの世界に憧れていた彼女でしたが(チーの少女時代がノスタルジーたっぷりに描かれているのが素晴らしい)、成長して働き始め、キャリアウーマンとしてアメリカに渡って働くうちに自分の幸せを見失ってしまいます。仕事に成功し、アメリカに渡り、現地の男性と結婚する。この如何にもな「成功した女性」の条件を満たした女性であるチーが「幸せ」を見失っているという描き方は、#MeToo以後の女性の生き方というか、社会的な立場の流れを汲んだものだと思います。この点で本作は、非常に現代的な物語でもあると思います。

 

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 この女性の自立的な側面から見ると、ベティの存在も大切だと思っていて、彼女は所謂、チーより先に「幸せ」を見つけた女性です。そんな彼女と交流することも、チーにとって気付きを得るきっかけになります。

 

 本作のアニメーションに関しては、白眉はやはりチーが子どもの頃に夢想する夢でしょう。子どもらしい自由奔放な妄想を同じく自由なアニメーションで表現しています。面白いのは、この夢想は子どもの頃にしか描かれず、大人になり、「小さい頃の自分が思い描いていた自分」になれていなくなると、途端になくなってしまう点。子どもから大人へ成長するとともに、「夢」がなくなっていくのが如実に分かります。この点は『おもひでぽろぽろ』的です。

 

 子どもの頃に描いていた「夢」は働いて、向こうの世界に行って、王子様と一緒になる事だった。でも、成長し、現実を知り、表面上はその通りになっても、「幸せ」からどんどん遠くなっていく。そこで彼女は家族と接し、ベティとの交流を通し、「幸せ」の在り処は「自分を想ってくれる人がいる場所にある」と気付くのです。型通りの「幸せ」ではなく、本当の意味での幸せに気付くまで、そしてそれを自分の子供に与えてやるまでの物語が、本作だったと思うのです。

 

 

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