暇人の感想日記

映画、アニメ、本などの感想をつらつらと書くブログです。更新は不定期です。

2020年春アニメ感想①【BNA ビー・エヌ・エー】

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☆☆☆☆(☆4/5)

 

 

 「キルラキル」『プロメア』等で知られるTRIGGER制作で、NETFLIXと提携しているフジテレビの+Uitra枠で放送のアニメ作品。NETFLIXでは1~6話と、7~12話がまとめて配信されました。TRIGGER作品は基本的には見ることにしているし、しかも今回はNETFLIXと組んで全世界へ配信する作品ということで、今年最も期待していた作品の1つでした。

 

 本作は我々「人間」と、「獣人」という身体的に動物の特徴を色濃く残した存在との共生の物語です。これは世界的に見れば「差別、偏見からくる分断」のメタファーであることは明白です。この点で、本作は、昨年公開され、実は未だに公開されている『プロメア』の姉妹作品となっていることに気付かされます。どちらも「異人種との共生」をテーマにした作品でしたが、本作は、『プロメア』では尺の都合上描写不足だった「共生」の側面により焦点を当てた作品となっています。これは主人公が女性であるという点にも表れていると思います。

 

『プロメア』(通常版) [Blu-ray]

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  • 発売日: 2020/02/05
  • メディア: Blu-ray
 

 

 本作では「人間と獣人の問題」を「人間から獣人になった」存在であるみちるの視点を通し描いています。1話は、みちるがアニマシティに到着し、お祭りに遭遇するところから始まります。視聴者としては何が何だか分からないのですが、それはみちるも同じ。そこからみちるのアニマシティでの生活が始まっていきます。このみちるの視点はイコールで視聴者の視点であり、我々はみちるの成長を追っていくことになります。

 

 ここで描かれる問題というのは、獣人に対する差別や偏見。獣人というだけで差別され、ロクな職にも就けず、政府からの補償が出れば「不公平だ」とデモが起きる。要は現実の世界で起こっていることがほぼそのまま描かれているわけです。本作のミソは、このような「どの世界にも起こっている問題」に、ある日突然、みちるという普通の女子高生が差別される側の「当事者」となってしまう点。獣人であるから人間にも差別されますが、人間だとバレたら獣人に何をされるか分からないので、人間であることも隠さなくてはならない。「遠い世界の出来事」だと思っていたことの当事者となってしまったことで、問題に真剣に向き合って、経験を以て本当の意味で相手を知り、成長していく姿を描いているのです。つまりこれは、「みちるの物語」であると同時に、我々のような「普通の人間」の物語でもあるのです。

 

 さらに良い点としては、この主人公のみちるに関しても完璧ではない点。まぁ成長物語なのだから最初から完璧ではないのは当然なのですが、この主人公は自分の思い込みだけで突っ走ることがあります。それを指摘されたのがなずなのエピソードです。ここで、主人公のみちるですら他の人間と変わらない「偏見」を持っていて、それをもとに独善的になってしまうという点を描いています。こうした「普通の人間」であるところのみちるが成長する物語だからこそ、本作は『プロメア』とは違った意義があります。

 

 

 そんなみちると一緒に活躍するもう1人の主人公が大神士郎。彼は「人間絶対許さないマン」であり、人間側に対して(理由はあれど)憎悪を抱いている人物。「獣人の怒り」を代表している存在ですが、彼もみちると出会い、「アニマシティも変われるかもしれない」と成長していきます。

 

 翻って、本作の「敵」は純血であることを誇りとする存在。選民思想&差別主義者なわけですが、そんな存在に打ち克つのが「雑種」であるところの士郎。「単一ではなく、多様性こそが重要である」というそのままのメッセージです。これは敵が示した問題の「解決方法」に対するカウンターにもなっています。終盤で明かされる陰謀は「人種が別れているなら統合しちゃえばいいじゃない!」というマジョリティ側の独善的過ぎる提案であり(しかも、こういう提案はマジョリティ的には問題ないため、「良い事」として捉える人間も多いと思う)、みちるが望んだものです。しかし、みちるはそれを拒否し、自分たちからとれる血清を使って事態を収拾させます。マジョリティ側に都合のいい「解決」を望まず、自分たちの出自を明らかにし、共生していくことを選び取ったのです。

 

 ここから浮かび上がるメッセージは、やはり、「相互理解」の大切さなんですよね。相手のことを知らず、上辺だけの情報(獣人だとか女だとか男だとか)だけで判断するのではなく、お互いに互いの理解を深めること。この地道な積み重ねでしか真の意味での「共生」はやってこないという。極めて現代的なメッセージです。

 

 他にも、TRIGGERらしい勢いのある展開やアニメーションもありつつ、今石監督ほどぶっ飛んでない吉成監督の地に足ついた演出が良かったとか、アニメーションではそこまで描かれない「女性の生き辛さ」にも少しだけ斬り込んだ点も良かったとかですね。後、本作は基本的に一気見した方が良いと思います。

 

 

 TRIGGER作品。本作の姉妹作品でもある。

inosuken.hatenablog.com

 

 TRIGGER×特撮。

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