暇人の感想日記

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ファム・ファタールを語り直す【ストレイ・ドッグ】感想 ※ネタバレあり

 

ストレイ・ドッグ

 

91点

 

 

 カリン・クサマ監督、ニコール・キッドマン主演のノワール作品。評論家の真魚八重子さんが褒めてたし、時間もあるので鑑賞してきました。ちなみに観たのは昨年の10月31日でした。

 

 本作はまず、ニコール・キッドマンが凄い。ニコール・キッドマンといえば「美」の代名詞みたいな女優ですけど、本作ではその美を自らかなぐり捨てて、エリンという、長い苦難の人生を歩んできた人物を演じきっています。それは、彼女の立ち居振る舞いの全てから滲み出ているもので、強烈な印象を残します。本作は彼女の贖罪の物語としての側面もあるため、彼女の苦悩が全身から感じ取れるあの姿が彼女の「後悔と贖罪」をそのまま体現しているように思えました、

 

 本作はネオ・ノワールを謳っています。これはもちろん、『三つ数えろ』などに代表される、フィルム・ノワールの流れを汲む作品であることを示しています。しかし、本作は、過去に制作されたどのフィルム・ノワールとも違う点があります。それは、本作は従来の作品ならば、「ファム・ファタールとされていた女性」の物語である点です。「ファム・ファタール」というのは、フィルム・ノワールの代名詞的な要素の1つで、主人公の男性を堕落させる悪女の役割を担っています。大抵はこの点だけの存在ですが、本作は「ファム・ファタールのその後」まで描いた作品なのです。

 

 というのは、エリンという女性は、過去にずばりファム・ファタール的な役回りをしてしまい、1人の男性を死に追いやってしまうためです。本作は、このエリンの過去と現在がカットバックして描かれており、「何故彼女がこうなってしまったか」というミステリーとして進んでいきます。このミステリ的な部分をとっても面白いです。この「過去」だけとると、本作は要素だけ見れば立派な「フィルム・ノワール」的作品だと思います。しかし、本作は「その後」まで描く。従来の作品でないがしろにされていた「ファム・ファタール」という存在を1人の人間として描きます。

 

三つ数えろ(字幕版)

三つ数えろ(字幕版)

  • メディア: Prime Video
 

 

 本作が上手いのは、この構成の物語を、映画的な時間トリックで見せている点。始まりと終わりが同じと言う円環構造を取り、エリンが犯人を追い詰めるまでの下りと過去が、しっかりと中に入って閉じているのです。そしてその円環が終わったとき、彼女は最期に「昇天」するわけです。それはまるで、これまでの人生で全く救われなかった彼女が、この苦しみの円環から抜け出したようなラストでした。

 

 このような物語的な面でも面白かったのですが、思う点もありまして。それは、本作は「自分の人生と向き合う話」なのだろうなということ。エリンは、過去を清算するにあたって、これまでメチャクチャだった人生の全てに落とし前をつけようとします。反抗期の娘のことも気にかけ(ただ、やり方がちょっとアレだけど)、過去の過ちとも向き合おうとします。これは割といろんな人にも言えることで、誰もが持っている罪に対して向き合い、過ちを清算することを描いた作品だったと思うのです。この点でも好きな作品です。

 

 また、従来のフィルム・ノワールの逆を行く炎天下のL.Aも素晴らしかったですし、中盤のアクションも緊張感が凄くて良かったですとか、褒める点は多々あります。一応、2020年のベストに入れた作品です。

 

 

 超変なフィルム・ノワール(?)。

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 ニコール・キッドマンが母親役で出てましたよね。

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