暇人の感想日記

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等身大の18歳を映し出した、とても愛おしい青春映画【レディ・バード】感想

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93点

 

・はじめに

 近年、やたら多くなっている印象の「イタい女の子」映画。昨年は、主だった作品では『スウィート17モンスター』や『勝手にふるえてろ』が公開されました。前者は恥ずかしながら未見なのですが、後者は素晴らしい作品でした。本作もその系譜の作品かと思い、鑑賞した次第です。

 

・普遍的な青春映画

 確かに、「イタい女の子」映画ではありました。ですが、本作の主人公レディ・バード七転八倒している様は何処か他人事とは思えません。というより、私の記憶と少し被るところがあります。もちろん、全部ではありません。その中にある精神的な部分に妙にシンパシーを抱いてしまいます。

 

 というのも、本作で彼女が行っていることは、モラトリアムを経験した人間ならば誰もが通る道だからです。誰しも、1回くらいは彼女のように自意識を爆発させて、「自分には他になれるものがある」「自分はもっと高いところに行ける」と思ったことがあると思います。実際はそんなことはないのに。それは冒頭から示されています。自動車から飛び降りるという奇行です。ここから、「行き先が決まっている乗り物」など興味が無いという彼女の意志を感じます。彼女は自分を表現するために様々なことに挑戦します。演劇だったり、恋人作ったり、「イケてる」友達作ったり、名前の放棄だったり。しかし、ことごとく失敗、若しくは彼女自身が放棄します。実現してるのは名前の放棄だけ。

 

 このような「飛び立てない自分」のジレンマに拍車をかけていると思われるのがTVなどで映される映像。世界では恐ろしいことが起こっているのに、描写されるのが彼女の半径数キロメートルの出来事でしかないため、その対比で彼女のジレンマが増大している気がします。

 

 また、時期も重要で、ここで描かれているのは高校3年生の1年間です。進路の分かれ道に立ち、一番「何者であるか」を意識する時期です。これにより、本作は等身大の18歳の姿を映し出します。未来が見えないその時に「何か」になろうともがく彼女の姿は、観ていて大変愛おしく感じます。

 

 このように、本作は、このような傍から見たら「イタい女の子」映画でありながら、モラトリアムにありがちな自意識とそれからの脱却を描くことで、普遍的な青春映画として素晴らしい作品となっていました。

 

・母と娘の物語

 本作は、母親と娘の映画でもあります。私は男なのでこの関係についてはよくわかりませんが、傍にいるといつも鬱陶しい存在ですが、実は誰よりも自分のことを心配していた母親の姿を見て涙。不器用すぎだろ。また、個人的に兄貴の境遇がとても刺さりました。

 

 また、ストーリー的にもかなり見事で、1年間の物語を90分に圧縮して見せています。だからテンポがめちゃくちゃいい。さらに、怒涛のように進む展開の中で散りばめられた要素がちゃんと1つにまとまって、自己肯定という結末に辿り着いているという点も素晴らしいですね。

 

・おわりに

 このように、本作は18歳という、進路に最も悩む少女の姿を等身大で映し出したという点で、普遍的な青春映画となったと思います。