暇人の感想日記

映画、アニメ、本などの感想をつらつらと書くブログです。更新は不定期です。

エンタメは、イデオロギーを超える【スウィング・キッズ】感想

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93点

 

 

 朝鮮戦争時、巨済島捕虜収容所で、所のイメージアップのために結成されたダンスチームの物語。最近の韓国映画によくある実話ベースの作品です。最初はノーマークだったのですが、評判が良く、時間もあったので、上映終了ギリギリにグランドシネマサンシャインにて鑑賞してきました。

 

 本作は「分断と繋がり」の物語だと思っています。本作におけるダンスチームは5人います。しかし、皆それぞれ出自がバラバラなのです。チームの講師はブロードウェイのタップダンサーだった黒人米兵で、対立する所内のトラブルメーカーである主人公は「戦争の英雄の弟」で、4つの言語を話せる女性(おそらく、売春婦)、韓国の避難民、中国軍兵士と言った具合に。そんな、本来ならば絶対に交わらず、寧ろ敵対してもおかしくない5人が、タップダンスによって繋がるのです。しかも差別的な白人まで出てきて、中盤までは彼ら彼女らがチームとしてまとまってゆく過程が見事で、刑務所の中であるにもかかわらず、爽やかな感じが出ていました。

 

サニー 永遠の仲間たち(字幕版)
 

 

 また、「捕虜収容所」という自由が奪われている場所でダンスをすることで、身体的に解放されたいという想いを描いてみせた中盤も素晴らしかった。あの素晴らしいダンスの後に、どこにも行けない現実が突き付けられ、彼ら彼女らが置かれている閉塞感がよく出ています。ちなみに、ここでもそうなのですが、本作は基本的にダンスのクオリティが高いです。


 しかし、手足を欠損したグァングが出てきてからキナ臭くなってきます。彼は非常に排他的な男で、「鬼畜米兵!許すまじ!」を地で行く男。彼の登場で、収容所と米兵の間の戦闘が過激になっていき、双方の策謀によって、無意味な血が流されていきます。

 

 彼らをバラバラにしているものは何か。それは、「イデオロギー」です。そして、それをもとに、相対する存在を認めようとしない存在です。このような存在のせいで、本作の登場人物達は流さなくてもいい血を流し、殺し合っているのです。本作の舞台である、朝鮮半島は特にそうです。だからこそ、最後のダンスの前に「Fuckin’Ideology」にはグッときます。「イデオロギーなんて関係ない。自分たちのためにダンスをする」と言うのです。そしてそれを踊るのはバラバラで、イデオロギーなど超越して結びついている5人という。ここには、エンタメや芸術は、イデオロギーよりもよっぽど人を結びつけるのだ、というメッセージを感じました。

 

 あのダンスで終わっていれば「良い話」だったと思うのですが、本作は歴史から逃げませんでした。あまりにも残酷なラストを用意することで、無慈悲さを浮き彫りにしました。この点は賛否両論でしょうが、私は肯定派です。そして年老いたジャクソンが元捕虜収容所で確かに繋がっていたことを思い出したラスト。あそこでは、役者のダンスをしっかりと画面の中で長回しでおさめていて、ダンスの上手さと共に、「心が通っていた」ことが思い起こされ、何か感動的なシーンでしたよ。

 

 

 アカデミー賞を獲得した傑作映画。

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 分断の映画。

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