暇人の感想日記

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引き裂かれた者たちの友情【工作 黒金星と呼ばれた男】感想

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94点

 

 

 過去に韓国に実在したスパイ、黒金星を題材にしたスパイ映画。監督は『群盗』、『悪いやつら』のユン・ジョンビン。映画秘宝にて絶賛レビューが載っていたので興味が湧き、公開当初には間に合わなかったものの、セカンド上映にて鑑賞してきました。

 

 とても胸アツな映画でした。劇中で描かれていることが全て真実であるという保証はないので、ある程度はフィクションとして割り切る必要があります。しかし、そこに込められた南北の朝鮮半島統一への想いがビンビンに伝わってきて、しかもそれをエンタメとして面白く観せてしまえる手腕に感服しました。

 

 韓国映画と聞いて想像するのは、バイオレンスに満ちた鬼気迫る内容。しかし本作では、バイオレンスというか、アクションシーンすらほぼなく、役者の演技とカメラ、モノローグで見せていきます。スパイものの醍醐味である「バレる、バレない」のサスペンスの緊張感はさすがだし、目当ての対象に近づくための御膳立ても丁寧です。

 

 

 本作でメインになるのは2人の人間。主人公、黒金星ことパク・ソギョン(ファン・ジョンミン)とリ所長(イ・ソンミン)。本作は南北統一という政治的なものというよりも、より前面に出ているのはこの2人の絆とロマンスです。そしてそれが、引き裂かれた南と北の国民を代表している存在です。

 

 パクもリ所長も祖国のために尽力していました。特にリ所長に関しては、南北の統一を本気で考えていて、スパイであるパクの心を動かしていきます。しかし、中盤で、パクは韓国と北朝鮮の間の陰謀を知ります(この陰謀もどこまで本当かは不明のよう)。それは韓国の選挙で、保守派を勝たせるために北朝鮮に軍事威嚇をしてもらうというもの。自分が命を懸けて核兵器の調査をしているのに、国家はそんなことお構いなしに軍事的緊張を煽ることをしている。この裏切りを知ったパクは、リ所長と共に陰謀の阻止を図ります。

 

 こうして観ると、本作は超王道のスパイ映画であり、2人の男の絆の映画なのです。そしてそれが、本作の南北統一というメッセージにも被っている。それが一番端的かつ印象的に示されるのがラストの再会シーン。パクとリ所長の事業が完成し、そのイベントでのこと。半島の垂れ幕をバックに、南と北を代表する2人が、存在を確かめ合って歩み寄る。そしてそれを最後まで映さずに暗転するラスト。統一への希望が感じられ、完璧でした。

 

そうだったのか! 朝鮮半島

そうだったのか! 朝鮮半島

 

 

 加えて、本作はバランス感覚も素晴らしいです。北朝鮮と韓国、どちらか一方が悪い、という感じに描かず、問題なのは統一を望んでいる国民の意志に対して、一時の権力欲のためにその意思に反する権力なのだ、という内容にしています。そしてそれに対して、民主的な手続きが勝利する。この、本作のような歩みが昨年の「板門店宣言」に繋がったのかと思うと、非常に胸アツなのです。

 

 

本作の5年前。

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 本作の12年前。

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