暇人の感想日記

映画、アニメ、本などの感想をつらつらと書くブログです。更新は不定期です。

だって映画があるじゃない!な映画【チャンシルさんには福が多いね】感想

チャンシルさんには福が多いね

 

82点

 

 

 長年コンビを組んで仕事をしてきた監督が亡くなったことで無職になった女性プロデューサーが、もう一度再起するまでの物語。監督であるキム・チョヒさんは実際にホン・サンス監督のプロデューサーを務められていた方だそうです。ということは、冒頭に死んだあの監督は・・・。最初は観るつもりはなかったのですが、妙に評判が良いので、時間もあるので鑑賞した次第です。

 

 本作は、チャンシルさんという、結婚もせず、ひたすら映画が好きでパートナーである監督と共に仕事をしてきた女性が、映画という仕事を奪われ、アイデンティティ・クライシスに陥ってしまいます。そこで彼女は新しい仕事を始めようとしたり恋をしたりするのですが、結局行き着く場所は、「映画が好き」だということなのです。これは、近年増えてきた「女性の自立」の物語であると思います。で、行き着く先は男性ではなく、映画なのだと、好きなものなのだと示しているのです。そして、ラストの懐中電灯は、彼女の未来に射す希望を表しているようです。

 

 「1人の女性にフォーカスを当てる」という作劇だと、日本の大九明子さんが該当すると思います。ただ、大九監督と違うのは、彼女の作品は、徹底して主演の女優の内面に寄り添い、それをポップに描き出しているのですけど、本作はチャンシルさんに距離をとっている点。客観的なんですよね、全体的に。

 

それから(字幕版)

それから(字幕版)

  • 発売日: 2019/04/17
  • メディア: Prime Video
 

 

 本作の監督はホン・サンス監督のプロデューサーを務めていたそうですが、本作にも、彼の影響が見受けられます。ホン監督の印象的なディープ・フォーカスや、「劇的なことが何も起こらない」作劇、そして唐突に表れる自称レスリー・チャンの幽霊などです。ただ、ホン監督の作品と決定的に違う点は、本作のキャラには、ホン監督のような、臭みがないというか、皆サッパリしてるんですよね。チャンシルさんにはホン監督にありがちな男の影みたいなのは無いし、男性も女性の尻ばっかり追いかけているわけではない。後、変なズームもしない。作中でも言及、オマージュされていますが、小津安二郎の作品のような、「日常」を描くことに焦点が置かれています。

 

 非常に端正なショットの連続で観ていて面白かったとか、クリストファー・ノーランへの言及は爆笑したとか、色々素晴らしい点はありますが、一番効いたのは「映画が無くても生きていけますか?」というチャンシルさんの問いかけ。コロナ禍の今、我々が最も問いかけられている問題で、それを映画館という空間で、映画愛溢れる女性の口から問われることは、今しかない特別な経験でした。

 

 

日常を描く映画。

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 女性の自立の話。

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