暇人の感想日記

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2020年冬アニメ感想⑨【ID:INVADED イド:インヴェイデッド】

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☆☆☆☆(4.3/5)

 

 

 「Fate/Zero」「放浪息子」などで卓越した演出力を見せつけた、あおきえいによる最新作。今回は「ディスコ探偵水曜日」などを代表作に持つ舞城王太郎。とりあえず、あおきえい監督にはハズレがあまりないこと、そして脚本は舞城王太郎さんを加えてのミステリということで、気になって視聴しました。

 

 本作はジャンルとしてはSF込みのミステリに分類されるかと思われます。基本的には事件の現場に赴いて捜査をし、犯人を割り出します。特異なのは、ミヅハノメという犯罪者の殺意を感知するシステムです。本作はこの点が凄く面白い。ワクムスビという機器で殺意を検知・採集して、それを元に犯罪者のイドを形成します。このイドというのは犯罪者の潜在意識をより具体的な世界にしたようなもので、中には必ず「カエル」が死んでいます。この「カエル」の死の原因には犯罪者の謎を解くカギが隠されており、それを解くのが「名探偵」です。名探偵がイドの中で解いた謎を元にミヅハノメの課員たちが推理をし、現場の刑事に犯人についての情報を伝え、確保してもらう、というのが基本的な流れです。つまり、本作の「ミステリ」部分は「カエル」の死因を推理する、という部分となります。

 

 以上のように、本作の構造は非常にややこしいのですが、導入となる1話ではこの3重構造を「イド」からミヅハノメ、そして現場と、「縦」の構造で視覚的に理解させるよう演出していました。この辺はさすがだなと思った次第です。

 

 

 「潜在意識の中で推理をする」ということは、非常に面白い設定です。名探偵たちが主に推理するのは「カエル」の死因ですが、他にも、イドの世界そのものがヒントになっています。例えば、第6話の「円環の世界」では、何故円環なのか、が大きなヒントですし、「バラバラの世界」ではバラバラの住人がおり、世界そのものがバラバラです。その世界の構造を解くということと、犯罪者を理解するということはイコールなのです。

 

 他のエピソードについても、そのイド毎に毎回シチュエーションが違うため、その時々でどのように攻略していくのか、という点でも楽しむことができます。つまり、本作はミステリ的な側面と同時に、与えられたシチュエーションをどのように乗り越えていくか、という側面もあるわけです。これによって、画的に地味になりがちなミステリ作品にも関わらず、しっかりとアクションも盛り込むことに成功しています。この「潜在意識の中で活躍する」作品は『パプリカ』や『インセプション』、『マイノリティ・リポート』を彷彿とさせます。

 

 また、謎と同時に鳴瓢の過去も明かされていきます。彼が何故殺人を犯したのか、を追った9~10話は本当に素晴らしく、同時に感情移入してしまうものでした。つまりは少しだけ危険ということ。この話以外にも、本作は基本的に各話のクオリティが高く、見応えがあります。

 

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 本作の注目すべきポイントとして、「名探偵は連続殺人犯しかなれない」という点があります。主人公の鳴瓢も過去に強い恨みから殺人を犯し、現在は拘束され、名探偵として活躍しています。この「犯罪者が警察と協力して犯罪者を捕まえる」という設定自体は面白い。そして、本作では本堂町という刑事が「連続殺人犯」としての異常性を指摘され、途中から名探偵として活躍していきます。私はこの点と鳴瓢の過去で、「普通の人間が犯罪というダークサイドに落ちる」ということを描こうとしているのかなと思っていました。だとすれば「殺人犯の潜在意識に潜れる」という、ともすれば「殺人犯の深淵に触れられる」設定にも納得ですし、「マインドハンター」のような、アニメーションではあまり描かれないかなり深淵なテーマを描くことができたと思います。

 

 しかし、話は最初から示されていた、敵である犯罪者製造人間ジョン・ウォーカーを倒すという点に集中していきます。この人は全ての元凶であり、最終話では彼を封じ込めて万事解決、というエンディングです。この点には、私は独自の解釈を持ちました。つまり、このジョン・ウォーカーというのは、人間の中に潜む、殺意のメタファーなのではないか、という点です。つまり本作は、最終的にジョン・ウォーカーを封じる=殺意を封じ込めるということで、鳴瓢の復讐の終わりであり、同時に過去を清算する話でもあったということです。これはこれでいいのですけど、私はこれによって、上述のようなサイコスリラー的な側面が薄れてしまった感があります。この辺は惜しい。

 

 ただ、問題点としては、これは私の理解不足もあると思うのですが、最終話に至るまでの終盤の畳みかける展開にちょっと無理があったということです。一応理屈としては理解できるのですけど、「終わらせるべきこと」が多すぎ、スタッフもかなり苦慮して詰め込んだ感があります。だからテーマをもっと深掘りできるという意味も込めて、2クール欲しかったなというのが正直なところです。1話ごとのクオリティが高いだけに、この辺は本当に惜しい。

 

 

変則的ミステリ。

inosuken.hatenablog.com

 

 同じくミステリ。

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