暇人の感想日記

映画、アニメ、本などの感想をつらつらと書くブログです。更新は不定期です。

2023年7月に見た新作映画の感想②

 7月に見た新作映画の感想です。2つ目は『ソフト/クワイエット』、『CLOSE/クロース』、『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PARTⅠ』、『イノセンツ』の4作です。

 

No.68『ソフト/クワイエット』 78点

 

 映画は現実の社会問題や個人の悩みに対し、1つの回答をくれる。そこには個人にとって癒しだったり、救いがあります。しかし、映画は、その逆、「最悪」を描くこともできます。本作はまさしく、「最悪」を描く映画です。

 本作は、おぞましいヘイトクライムを92分の長回しで一気に描きます。この長回しというのが実に効果的で、感情の流れが観客に伝わるし、何よりずっとシーンが続くので、観客に精神的に休む暇を与えない。そのため、他の映画ならば「悪」として他人事として見れる差別主義者たち(そしてそれらはだいたい戯画化されている)を半強制的に「自分事」にさせられる。つまり観客は差別主義者たちと一体化させられるという最悪の鑑賞体験をすることとなる。

 そしてこれは監督の意図通りで、こういう差別主義者たちは「悪」としてではなく、「普通の人」として存在しているのだと突き付けてくる。ちなみに、あそこで彼女たちが話していた内容は、日本でも日々SNSでよく見る内容と類似しているものも多く、白人至上主義者ではなく、形を変えて存在しているという事実に空恐ろしくなった。

 

No.69『CLOSE/クロース』 79点

 思春期のときにずっと友達だった人に辛く当たってしまうことがあります。本作のレオのように、ずっとレミと一緒であることをクラスメイトにからかわれ、嫌だから距離を置く。しかし、レミはそこを理解してくれなくてずっとかまってくる。それがウザい。だから突き放す。普通なら後でレオが謝れば全て解決するはず。しかし、本作ではある悲劇が起こってしまい、レオは罪の意識を背負い生きることとなります。

 本作は思春期の少年が学校という集団で過ごす描写がとてもリアル。レミとは別の友達の影響でアイスホッケーをはじめ、そのコミュニティに属したことで若干マッチョなノリになっていくところとか正にそうで、あの時代は、それまで普通に仲良くしていた存在が全く違うコミュニティに属することで疎遠になっていく、みたいな点をちゃんと描いていた。普通ならば、ここで適切な距離を学び、あの2人は元のような大親友ではないかもしれないけど、顔見知りくらいにはなれたはず。しかし、不意の永遠の別れにより、それすら叶わなくなった。

 レオ役のエデン・ダンブリンが素晴らしい。レミが亡くなり、罪の意識と喪失を抱えつつ、それをため込んでいるのが演技で伝わる。だから途中から、見てて本当にいたたまれなくなってくる。特にアイスホッケーに打ち込んでいるくだりは、自分を痛めつけているようにも見えた。また、最後、本当の意味でレミと別れ、こちら側を見る姿を見たとき、大人になった瞬間が捉えられていたと思う。ようやく前に進むんだな、と思ったし、こういう傷を経て前に進むのが人生だよなとも思った。

 本作は撮影も素晴らしかった。画面の配置や撮り方でレオとレミの関係性に微妙に変化が起きていることが分かるようになっていたし、天候すら味方につけて彼らの心情を表現していたと思う。

 

No.70『ミッション:インポッシブル/デッドレコニングPART ONE』 87点

 「映画はアクションやってなんぼ!ストーリー?知らん!!」を前作以上に突き詰めた快(怪?)作。本作において、ストーリーはほとんど無いに等しい。いや、一応、AIが敵ということで、今ハリウッドで起こっているストライキと重ね合わせてタイムリーな内容ではあるし、これはシリーズを通して相手を欺きミッションを達成してきたIMFの最後の敵としてうってつけという点でもちゃんと中身はある。しかし、それでも、やってることはいい年した大人がオモチャみたいな鍵2つを真剣に追いかけ、すった!すられた!奪われた!奪い返した!の繰り返し。そこにトム・クルーズが体をはりまくった大アクションが挟まれる。いや逆か。アクションの合間にストーリーがあるのか。とにかく、相当に狂った映画です。

 しかし、これは「映画」の先祖返りとも言えます。というのは、本作が目指したと思われるものは、バスター・キートンであることは明白なためです。キートンの映画も体をはったアクションと、そこに挟まれるコメディがメインの映画でした。本作は過去作と比べ、コミカルなシーンが多めで、それを台詞ではなくて、アクションの中でやっている。しかもそのアクションは荒唐無稽(でも実写)。つまり本作は、予告で何回も見せられた崖から飛び降りるのをはじめ、「いや、そんなんあるかい!!」という観客のツッコミ込みで抱腹絶倒する映画なのです。しかもちゃんと最後に列車でアクションした上で橋爆破して川に落としてるし・・・。完全にキートン。だから真面目にストーリーを追ってると頭がおかしくなると思います。ただ、トム・クルーズの「これが映画だよね!」というメッセージが伝わってくるため、悪い気分はしないし、寧ろ親指立てながら見てた。

 私は結構序盤からこれに気付けたため、真面目に見るのをやめました。おかげで終始大笑いして映画観ることができ、大変楽しむことができました。後編も今から楽しみです。

 

No.71『イノセンツ』 86点

 大友克洋の『童夢』にインスピレーションを受けたという映画。監督は『テルマ』『わたしは最悪』で脚本を務めたエスキル・フォクト。団地が舞台、少年少女が超能力に目覚める、悪意ある存在が執拗に主人公を付け狙う、など類似する点は多いものの、中盤までは「確かに似てるけど、そんな言うほどでもないよな・・・」と思って見ていましたが、終盤のサイキックバトルがまんま「童夢」でビックリした。だからトータルではめっちゃ「童夢」。これは原案クレジット必要では?

 本作は結構厭な映画ですが、同時に、少年少女の物語でもあります。子どもが持っている無垢な加虐性が描かれます。これが結構きつく、大なり小なり身に覚えがある(さすがに猫は殺さないけどアリの巣穴に水突っ込んだりはしてたし)のが辛いところ。そして、超能力を得たことでそれが加速していくのがベンです。彼が執拗に「邪魔」と判定した人間を排除していく下りは、正に「童夢」のチョウさん。アナを付け狙っているところなどはかなりホラー演出が上手い。反対に、序盤で結構えげつない加虐性を見せつけたイーダは、中盤以降、アナを護るために奮闘します。本作はここに至るまでの描写が丁寧で、「童夢」より少年少女のジュブナイルSFとしての側面が強いと思います。

 最後のサイキックバトルは最高でした。言ってしまえばまんま「童夢」のエッちゃんとチョウさんなんですけど、あの漫画にもあった「そこで凄まじい戦いが行われているのに誰もそれに気づいていない」描写が上手すぎる。派手なCGは使わず、必要最低限の描写と、役者の演技力でそれを描き切ってて、そこは凄いと思った。また、始まる前も、アナがベンの存在を感知して1人決戦に向かうところがカッコよくて上がるし、しかもそれが団地にある「池」を挟んで行われている、というロケーションもいいし、何より、最終的にイーダとアナの姉妹が協力して打ち倒すという決着も素晴らしかった。