暇人の感想日記

映画、アニメ、本などの感想をつらつらと書くブログです。更新は不定期です。

エンタメに必要な全てが詰まった良質な作品!【初恋】感想

f:id:inosuken:20200308143544j:plain

 

91点

 

 

 私にとって三池崇史という映画監督は、熱心に追っている監督というわけではありません。直近で観たのは2017年の『ジョジョの奇妙な冒険』です。この監督は「仕事は来たもん順で受ける」というポリシーのもと、非常に多作なのですが、それが故に作品によって出来のムラが激しい監督でもあります。なので、本作に関しては、タイトルもあり、最初は観るつもりはありませんでした。しかし、先行試写で観た方から沸き起こる大絶賛と、予告から漂う往年の三池監督らしい雰囲気、そして本作が『孤狼の血』に続く東映の原点回帰シリーズの2作目(プロデューサーも同じ)ということもあり、鑑賞を決意しました。

 

 結論から言えば、本作は素晴らしい作品でした。冒頭から生首が飛ぶバイオレンス(ただし、『殺し屋1』よりはかなりマイルド)、そしてそれをギャグで撮る監督らしい悪趣味、濃すぎるキャラクター、『パルプ・フィクション』のような見事な脚本、ホラーといった、エンタメの全てがある作品で、これまで多岐にわたるジャンルの映画を撮り続けてきた監督だからこそ撮れる作品だと思いました。

 

パルプ・フィクション [Blu-ray]

パルプ・フィクション [Blu-ray]

  • 発売日: 2012/02/08
  • メディア: Blu-ray
 

 

 本作に関して、三池監督は直筆で「さらば、バイオレンス」と書いています。そしてタイトルは『初恋』。ここから連想されることは、映画が始まってものの数秒で裏切られます。具体的に言えばいきなり生首が飛びます。ポーンと、景気よく。そこで「血にまみれたバイオレンス映画なのか」と思いきや実際はそうでもなく、ここでは監督の悪趣味がいい方向に炸裂し、その全てをギャグとして処理しているのです。そのギャグを一手に引き受けるのが染谷将太演じる策士(笑)ヤクザの加瀬。劇中でいちばん人を殺し、事態を悪化させている元凶なのですが、その全てが杜撰でギャグなので観ていて憎めないというか、ちょっとかわいい。そしてコンビとなる大伴とのどこか噛み合わないグダグダバディ感も最高でした。余談ですが、本作のバイオレンスをギャグとして描くという点は、『仁義なき戦い』に通じるところがあります。監督は『レザボア・ドッグス』のようなフィルム・ノワール作品を目指していたそうで、確かに非常に似通った作りな作品であることは間違いないです。

 

 この加瀬&大伴コンビのせいで事態はどんどん悪化し、ヤクザと、チャイニーズマフィアの抗争、そしてレオとモニカの逃走劇が並行して描かれ、Unidyに流れ込みます。この流れが非常にスムーズで見事でした。

 

レザボア・ドッグス スペシャルエディション [DVD]
 

 

 そして出てくるキャラクターが皆濃い。中でも最も鮮烈な印象を残すのがベッキーでしょう。まず自分を誘拐した男をぶっ殺し、その後に恋人を殺されたことを知り、その怒りでバールを持って加瀬をつけ狙う彼女の姿は本当に素晴らしく、それはまさにターミネーター。その「キレ振り」はもう二次元のそれで、個人的には『ジョジョ』にいそうだなと思いました。また、彼女が車に乗っている加瀬を攻撃するくだりは完全にホラー。余談ですが、ここ以外にも本作にはホラー演出が観られます。そしてこの辺はさすが多くのホラーを撮っている三池監督。きちんとホラーで、ちゃんと怖かったです。

 

 そしてその次に濃いのが内野聖陽演じる権藤と、藤岡麻実演じるチャイニーズマフィアの構成員、チアチー。この2人は他の登場人物と比べるとかなり異質で、「仁義」を通しているのです。それはまるで『仁義なき戦い』以前の東映任侠映画のそれで、ちゃんと切った張ったの立ち回りをしてくれます。そしてこの2人には、本作が持つ東映の思いが投影されていると思います。権藤は出所仕立てで時代から取り残され、未だに仁義を大切にしている人物。仁義なんてもう1970年代に廃れ、東映は『仁義なき戦い』を作っています。権藤は「時代に乗り遅れた」人物なのです。

 

 そしてチアチーは「高倉健」の名を出し、日本の「仁」にちょっとした希望を抱いています。彼女も、「時代遅れのもの」に期待してる人間なのです。そしてこれはそのまま東映が持つ思いに繋がります。もはや自分たちはマジョリティではない。日本映画は(少なくとも大規模公開映画の多くは)当たり障りのない作品が多くなり、東映の往年の映画は過去のもの。でも、だからこそ、今蘇らせなければならない、という想いです。そしてそれを投影してか、「仁義」を通した2人は非常にきれいな死に様を見せます。仁義を失くした人間が無様な死に方をするのとは対照的にです。これは『仁義なき戦い』とは対照的です。

 

仁義なき戦い Blu-ray COLLECTION

仁義なき戦い Blu-ray COLLECTION

  • 発売日: 2018/05/09
  • メディア: Blu-ray
 

 

 このように多様な見方ができる作品ではあるのですが、根幹はラブストーリーだと思います。レオとモニカの初恋の物語です。レオとモニカは共通しているところがあって、2人とも孤独だということです。そして人生に意義を見出していない。だから冒頭でレオは実にやる気なくリングに上がり、「お前何のためにリングに上がってんだ!」と言われます。そんなレオが余命宣告されモニカと出会い、「死ぬ気で」彼女を守り抜くのです。まぁ途中でそれは誤診だったの判明するのですけど(この誤診の説明の下りが最高に笑える)、それ故にレオが本当に心の底から彼女を護りたいということが伝わってくるようになってもいます。この窪田正孝さんの表情の変化というか、心境の変化の演技は素晴らしかったです。

 

 そしてこの出来事を経た2人は新たな「戦い」に乗り出すのです。それは人生。モニカは麻薬の更生施設に入り治療をし、レオはまさしく「戦うため」に「リング」に上がります。ここで本作は、人生に意味を見出していなかった2人が意味を見出し、共に人生を戦い抜く決意をする話だと分かるわけです。

 

 以上のように本作は、『孤狼の血』に続く東映の原点回帰的作品として、本当に素晴らしいものだったと思います。あの作品で受け継がれた「血」は、今も生きているのです。しかも『孤狼の血』よりは肩肘張ってみる必要がないのもいい。とにかくエンタメとして本当に面白いので、観てほしいです。

 

 

東映作品。こちらも素晴らしかった。

inosuken.hatenablog.com

 

 三池作品前作。不評だけど私は好きです。

inosuken.hatenablog.com