暇人の感想日記

映画、アニメ、本などの感想をつらつらと書くブログです。更新は不定期です。

2023年7月に見た新作映画の感想①

 7月に見た映画の感想です。1回目は『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』、『Pearl パール』、『君たちはどう生きるか』、『ヴァチカンのエクソシスト』、『カード・カウンター』の感想です。

No.63『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』 70点

 見て思ったのは、『インディ・ジョーンズ』というシリーズは、スピルバーグのシリーズだったんだな、ということだった。本作でもシリーズのお約束や、ジェットコースターのように連続するアクションをやってはいるが、スピルバーグじゃないので妙に固いというか、生真面目さが先に立ってしまっている印象だった。

 本作のテーマは「老い」。かつてヒーローであったインディは、もはや時代に取り残され、子どもも、妻も失ってしまった枯れ果てた老人となってしまった。冒頭の若いインディのアクションから一転、「現在」のインディの老いた体を見せつけたところから、そこは明快だと思う。そして、彼の十八番の鞭も大して役に立たないし、当時最先端の武器を使ってくる敵に対し、インディは西部劇よろしく馬を駆り、過去のものを使う。ハリソン・フォードの年齢を考えると、この路線変更は悪くないと思った。とはいえ、わざわざインディの終活を映画にする必要はあったのだろうか・・・とは思ったけど。

 この「老い」というか、「黄昏時のヒーロー」というテーマは、実にマンゴールド的。『LOGAN』とか思いっきりそういう話だったし。撮影なども基本的にマンゴールド組で固めていて、ルックとかがマンゴールドなんですよね。そんな中で「インディっぽい」ことをやろうとしているため、余計に差異が目立ったのだと思う。ただ、ラストはちょっと感動してしまった。それはシリーズの積み重ねというよりは、マンゴールドの堅実な演出がもたらしたものだと思ってます。

 最後の超展開については、さすがに驚きましたが、それ以上に疑問だったのが、インディってあの時代にそこまで関心があったっけ・・・?って話で、過去作見てもそこまで関心があったとは思えず、そこにまず疑問を感じました。あの時代に留まったらどうしよう、と割と本気で考えていたので、ヘレナがぶん殴ってくれてよかったです。正直、本作には見過ごせない点がたくさんあり、ダメな点も多いのですけど、なんか嫌いにはなれない作品でした。

 

No.64『Pearl パール』 83点

 前作の『X』同様、ミア・ゴス無双映画。本作では、前作で主人公一行を襲ったパールが何故あのようなシリアル・キラーになったのかが描かれる。前作で示されたとおり、本作のパールは前作主人公の映し鏡であり、同じく女優になりたいと願っている。しかし、その結末は正反対で、「ここではないどこか」を願いつつも、最終的には彼女はその田舎に縛られてしまう。それ以外にも、前作からのレファレンスに満ちている。

 本作最大のホラーはパール自身。抑圧的な母親と閉鎖的なコミュニティのせいで徐々に狂っていく・・・と見せかけて、実はこの女、最初からかなりおかしい。自己中心的で、卑屈で、生物を殺害することに快楽を覚え始めているという、本編が始まった時点ですでにシリアル・キラー1歩手前。つまり本作は夢見るシリアル・キラーの少女の話であり、それが爆発してから映画が加速度的に狂っていくのが最高だった。

 前作同様、スプラッターはかなり頑張っているし、往年の映画へのレファレンスも十分。特に本作は画面作りが全体的に70年代テイストだった前作よりもミュージカルっぽく、色がはっきりしたものになっていて、監督曰く『オズの魔法使い』を意識したそう。全然ポップじゃないけど。私はとても楽しんで見ました。3作目も楽しみ。

 

No.65『君たちはどう生きるか』 85点

感想はこちら(↓)からどうぞ。

inosuken.hatenablog.com

 

No.66『ヴァチカンのエクソシスト』 67点

 監督が『オーヴァーロード』の人なので気になったから鑑賞。大変景気のいいホラーアクション映画でした。

 実在のエクソシスト、ガブリエーレ・アモルト神父の回顧録を原作にしている本作ですが、多分だいぶ話を盛り、彼を『007』のように描き、見事にエンタメにしています。これに貢献しているのがアモルト神父役のラッセル・クロウ。彼の貫禄のおかげで、「確かにコイツなら悪魔祓いできるのでは・・・」と思わせる謎の説得力がありますし、そのでかい図体から繰り出されるユーモアやどう考えてもサイズ感があってない原チャリに乗ってたりなど、ギャップ萌えも完備しています。これはキャラクターとしてかなり上手い。

 話的にも、オーソドックスな『エクソシスト』の系譜にある内容で、ちゃんと「とり憑いてたやつがヤバい霊だった・・・」展開もあるし、人間ドラマも程よく描かれていて非常に見やすい。後、血の量が異常に多かったり、派手な爆発も起こったりして、いちいち景気がいいのもポイントが高い。傑作というわけではないけど、ジャンル映画的な楽しみが詰まっている、いい作品でした。シリーズ化しそうなので続編作られたら見るかな。

 ただ、唯一不満があるとしたら、過去にキリスト教が犯した愚行を「悪霊のせい」にしていたことかな。そこは人間の罪として向き合った方がいいよ、と思った。

 

No.67『カード・カウンター』 82点

 ポール・シュレイダー脚本・監督作。1人罪を背負い、苦悩の中、ただカードカウンティングをして生きている男が、その罪を償うため、最後にカチコミをかけ、少しだけ救済を得る物語。『タクシー・ドライバー』はもちろん、これまで彼が手掛けてきた作品と同じ内容。このブレ無さは本当に敬服します。

 本作でオスカー・アイザックが背負う罪は、アメリカの闇、アブグレイブ刑務所。これは実際にあったことで、イラク戦争の際、イラクを占領したアメリカ軍が核兵器の場所を聞き出すべく捕虜を拷問した。もちろんこれは人道的に許されることではなく、この事実が暴かれ、関与した何人かは刑務所送りとなった。本作のアイザックはその1人というわけです。しかし、そこで幹部が裁かれることはなかった。本作でアイザックが背負う罪はアメリカの欺瞞でもあります。本作ではここにアイザックが個人として落とし前をつける話です。

 話はいつものポール・シュレイダーですが、特筆すべき点としては、落とし前を付けた後、少しだけ救済がある点。ラスト、刑務所にいる彼の前に、ティファニー・ハディッシュが現れる。そして、ガラス越しに指をつける。あのシーンに、アイザックの未来への希望が見えた気がして、少し感動しました。後は撮影が素晴らしい。全ショットが決まってる。そこにオスカー・アイザックの魅力上乗せで画面がさらに凄いことになってる。本作のアイザックはキャリアベストだと思う。これ、次回作で『魂の行方』から始まる三部作になるらしいので、今から楽しみ。