暇人の感想日記

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「好奇心」VS「好奇心」【劇場版「メイドインアビス」 深き魂の黎明】感想

 

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87点

 

 

 WEBコミックガンマで不定期連載中の漫画「メイドインアビス」を原作とする劇場アニメーション作品。2017年にTVアニメが放送され、本作はその直接的な続篇です。私はTVアニメは視聴していまして、そのクオリティの高さとあまりに陰惨な展開に驚愕した記憶があります。しかし大変面白かったのは事実なので、更なる地獄が待っているであろうこの劇場版も「装甲騎兵ボトムズ」よろしくリコたちと一緒に地獄に付き合う気持ちで鑑賞してきました。

 

 本作でまず素晴らしいのはアクションシーンの迫力もそうなのですが、やはり背景美術です。スタジオジブリ出身の増山修さんが最高の仕事をされていて、「アビス」という世界観そのものを完璧に作り上げています。これはTVアニメ版からもそうでしたけど、世界観がしっかりと作り込んであることはとても大切だと思います。

 

 この「メイドインアビス」という作品はそのグロさや陰惨さが注目されますが、その中身は立派なファンタジーであり、アドベンチャーです。「アビス」という大穴に入り、遺物を回収する単窟家達の物語で、初心者単窟家であるリコが偶然拾ったレグと共に母親がいるであろう最深部へ旅をします。この「アビス」という穴が設定上の肝で、アドベンチャーゲームよろしく下へ潜れば潜るほど貴重かつ強力な遺物が手に入る仕組みになっています。しかし、この「アビス」には「上昇負荷」というルールがあり、下へ行けば行くほど、帰るとき、つまり出口へ上がるときに負荷がかかり、軽い場合では嘔吐、眩暈レベルですが、次第に自傷行為、意識混濁、そして人間性の喪失(ミーティ)へと至ります。

 

 この設定が何を指しているのかと言えば、「好奇心を追求していくためには、それ相応の代償を払わなければならない」ということだと思います。この「好奇心の追求」についての物語がこの劇場版なのです。「グロさ」はこのテーマの残酷さを際立たせるためのものに過ぎません。後は作者の性癖。

 

 

 本作の敵はアニメ史上に残る鬼畜キャラ、ボンドルド。自らの好奇心を満たすために人体実験を平気で行い、その結果としての「子どもを重要な部分以外を削ぎ落して箱詰めにした」カートリッジを用い、上昇負荷を肩代わりさせていたりします。作中でも言及されるように正に外道なキャラですが、彼に悪意はなく、全ては「好奇心」故の行動なのです。だから質が悪い。

 

 しかし、この「好奇心」はリコも持っています。そしてボンドルドからは「似ている」と評されます。彼女とボンドルドの違いは何でしょうか。それはベクトル違いの純粋さだと思います。ボンドルドは狂った純粋さで他の物を犠牲にして「アビス」の謎を追い求め、リコはそうではない、本当の意味で「知りたい」という好奇心だけで動いているのです。そして本作はその2つの「純粋さ」が真っ向からぶつかり合い、リコたちの「好奇心」が勝つ物語なのです。この意味で、本作は実に「メイドインアビス」という「好奇心」の物語であると言えるのです。

 

 

同じく世界観が凄い作品。美術はStudio4℃木村真二さん。

inosuken.hatenablog.com

 

 こっちも「純粋な異常性」を持った映画。

inosuken.hatenablog.com