暇人の感想日記

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【仁義なき戦い 頂上作戦】感想:広能にとっての「終戦」

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98点

 

 「仁義なき戦い」事実上の完結編。広能と山守の長きにわたる因縁はここで1つの決着を見ます。本作では、広島ヤクザ抗争の決着を描くと同時に、様々なことを描いている作品でした

時代の変遷、戦後から成長へ

 本作では抗争の決着と同時に、様々なことを描いています。その1つは「時代の移り変わり」です。それは「戦争の時代」から「成長の時代」へと変質する時代の流れです。

 これまでこのシリーズは抗争を通して「戦争」を描いてきました。それは終戦直後であったため、戦争の生き残りである若者がぶつけようのないエネルギーを抗争にぶつけていたからでした。そして、ヤクザとして力を得なければ生き残れない、土地が管理できない、という混沌とした時代背景もあるでしょう。

 そのような中でヤクザたちは、生き残りをかけた凄惨な抗争をしていきます。最初こそは単純でしたが、徐々に抗争の内容が変化していきます。どんどん政治的駆け引きが強くなっていくのです。そして遂には西日本を代表するヤクザの代理戦争にまで発展しました。

 このように、前のシリーズまでは「過去の大戦」から「冷戦」を描いてきました。今回は「成長時代」の時代への移り変わりを描き、「戦後」という時代の終焉を描きます

 時代は1963年、東京オリンピックの前年。もはやこの時代まで来ると、経済白書の「もはや戦後ではない」に代表されるように、戦後復興が一通り終わり、世の中は成長の時代に向かっています。そして、時代の移り変わりから、それまで黙認されてきたヤクザにもとうとう警察という国家権力のメスが入ります。そして結果、広島ヤクザのほとんどの幹部が逮捕されてしまいます。戦後の行き場のないエネルギーをぶつけるだけのヤクザの時代は終わり、人々が豊かになってゆく時代がやってきていたのです。

 そんな中、ラストで広能と明が交わす会話が印象的です。そこで彼らの時代、つまり戦後は終了し、新しい「成長」の時代へと世の中は舵を切ったことを実感します。そしてここで驚くべき事実に気付きます。「仁義なき戦い」シリーズは、ヤクザ抗争をとおして、当時の世界の戦争の歴史だけではなく、日本の時代すら描いていたのです。

・広能たちにとっての「終戦

 広島抗争は、ラストのナレーションによれば、死者17人、負傷者26人、逮捕された組員1500人の犠牲を出し、終結しました。しかし、それで何が残ったのでしょうか。正直言って何も残ってません。出たのは犠牲者だけです。

 本シリーズで描かれていることとして、「上の人間によって、若者が犠牲になる。上の人間は全く手を下さない」ことがあります。その象徴が金子信雄ですが、彼らは逮捕されても悠々と生きています。刑期も広能たちよりも圧倒的に短い1年ちょっと。彼らは全く責任を果たしていません。菅原文太小林旭ですら、彼を倒せなかったのです。深作欣二監督はあの戦争と、戦争に賛成していた大人がコロッと態度を変えたことに憤りを感じていました。その怒りが入っている気がしてなりません。そうなると、これは広能たちにとっても終戦と言えます。

・最後に

 このように、このシリーズはヤクザの抗争を通して、世界の戦争・暴力の歴史、そして日本の歴史を疑似的に描き、暴力がどの時代でも存在することを示した作品だったと思います。