暇人の感想日記

映画、アニメ、本などの感想をつらつらと書くブログです。更新は不定期です。

【仁義なき戦い 代理戦争】感想

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98点

 

 シリーズ3作目。外伝的内容だった前作に対し、本作は広能を主人公に戻して広島抗争を描いています。

 今作では、関西を二分する勢力・神和会と明石会それぞれをバックとした広島のヤクザが、「代理戦争」の形で抗争する様子を描いています。これは冒頭の新聞記事から分かる通り、米ソの冷戦がモデルでしょう。米ソは第二次大戦後、直接戦争を起こしませんでしたが、各地で傘下の国同士で代理戦争をやっていました。今度はこれをヤクザの抗争として描いているのです。

 前2作は、ともにヤクザの抗争を「戦争」として描いていました。これはどう考えても先の世界大戦がモデルです。そして今度は冷戦。つまりこのシリーズは、ヤクザ抗争を通して、疑似的に世界の戦争の歴史を描いていることになります。ここにスタッフの恐ろしさを感じます。

 しかし前2作とは違って、アクションは控えめで、裏切りと策略の政治劇がメインです。でも、しっかりアクションはしています。下っ端が。ここは一向に変わりません。下っ端に殺しをさせておいて、自分たちは裏で工作をしています。彼ら下っ端の命はその過程で失われていくのです。

 「若者の命が呆気なく奪われる」これはこのシリーズで何度も描かれてきたことです。今作では、それが非常に即物的に描かれるシーンがあります。広能組の組員、倉の葬式です。彼はとある事情から広能組に入るのですが、工作が失敗し、追われる身となった広能のために槇原の命を取りにいき、返り討ちにあって死亡します。その死に方が本当にひどい。やっぱり何発もぶち込まれて死にます。遺体を焼き終えて、骨壺を持って出てきたとき、広能たちは敵対組織の襲撃にあいます。そこで、骨壺は無残にも車に引かれてしまいます。当然骨も粉々になります。骨壺というのは深作欣二作品では重要なもので、「死者の無念さが詰まっている」ものです。それが車に引かれる。まさに若者の命が踏みにじられた瞬間です。まだ熱を持っている骨を、広能が震える手で拾い上げ、立ち上がるのと同時にカットバックで原爆ドームを見せていくあの演出は素晴らしかったです。

 「戦いが始まるとき、まず失われるものは若者の命である。そしてその死はついに報われた例がない。」

 ラストのナレーションです。先の大戦はもちろんですが、この米ソ冷戦、そして今も各地で起こっている戦いで起こった、そしてこれからも起こるであろうことを見事に描いた、またまた素晴らしい傑作でした。