暇人の感想日記

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【女神の見えざる手】感想:女性版「ハウス・オブ・カード」

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94点

 

 凄腕ロビイストの女性が銃規制法案を可決させるサスペンス。監督は「恋に落ちたシェイクスピアアカデミー賞を受賞したジョン・マッデン「恋に落ちたシェイクスピア」は今ハリウッドを騒がせているハーヴェイ・ワインスタイン金でアカデミー賞をとらせたと言われていて、この騒動でひょっとしたらアカデミー賞を返上しなければならないと、監督は大変なとばっちりを受けています。しかし、そんな中公開された本作は、そんなことを吹き飛ばしてしまうくらい素晴らしい作品でした。

 経済用語に、「神の見えざる手」というものがあります。これはアダム・スミスが自著で「見えざる手」と著したものが基で、個々人が利益を追求すれば、まるで神が導いているかのように社会全体に利益が出る、という考え。本作の邦題はここから来ていると思います。そして、その「女神」こそが、主人公のエリザベス・スローンなのです。

 彼女は信念に従って行動する、「究極の仕事人間」として描かれます。目的を達成するためならば手段を選ばず、仲間すら道具として平気で利用する。仕事にのめり込み過ぎている為、食事も恰好に似合わず、安めの中華料理屋。そして自身の性欲もエスコートサービスで済まし、精神刺激剤を呑んで睡眠時間を削っている。もはや人間というより、機械です。

 そしてストーリーも彼女の頭の動きに対応しているかのように目まぐるしく動きます。彼女と敵対会社の策謀がノンストップで展開され、状況がどんどん変わるため、見るにはかなりの集中力を要します。

 前半は彼女のその仕事機械ぶりと、あまりにも目まぐるしい展開のために、スローンをただの完璧超人かのように見てしまいます。しかし、状況が悪くなるにつれて、だんだんと彼女は「素顔」を見せていきます。それはエスコート・サービスの男・ロバートの前だったり、エズメと別れる時だったりします。ここで見せる顔と演出によって、彼女の抱えている孤独を感じます。そう考えると、スローンさんは、人前に出るときはどことなく化粧が濃かった気がします。これは彼女の「素顔」を隠すためだったのではないかと思えば納得です。

 そして本作には、やたらと「理由付けしたがる人間」が出てきます。規制法の運動に参加している時も「過去に何かあったのか」と聞く人はいるし、推進派は女性を定型にはめて票を獲得しようとしている。そんな浅はかな考えを、スローンは笑っていなします。彼女を動かしているのは同情でも過去のしがらみでもなく、「信念」なのです。

 しかし、このスローンのやり方は、ともすれば民主主義の敵とも言えます。何故なら、政治を動かしているのが国民ではなく、政治家でもなく、ロビイストだからです。一部のロビイストが利益目的で政治家を操り、政治をコントロールする。これは民主主義にとって脅威です。しかも、スローンは手段を選びません。

 このスローンと対照的な存在として、エズメの存在があります。彼女は言わば「良心的なリベラル」で、正攻法を使い続けて負けてきました。しかし、根っこはスローンと同じく、「信念の人」です。な彼女を通してエズメを見ることで、作品に中立性がもたらされたと思います。

 そして本作は、ストーリーが巧みです。畳みかけるような展開もそうですが、最後のどんでん返しの伏線の張り方も凄く上手い。前知識なしで観たので、すっかり騙されました。あれ、本当にこういう構図なのかと思ってましたもの。ラストは震えました。本当に「女神の見えざる手」だったのですから。他にも、序盤の退社の下りとか、スローンのメモとか、熱くなれる要素も満載で、エンタメとしてもとても面白い作品でした。