85点
かつて福岡で発生し、家族全員に死刑判決が下った連続強盗殺人遺棄事件。それを追ったルポを原作とした実録映画。事件が事件だけに、どれだけ陰惨な話なのかと思って観てみましたが・・・・完全にコメディでした。確かに、劇中には暴力が吹き荒れます。主人公はどんどん人を殺しますし。ですが、映画全体は、これをギャグとして撮っていました。
ここで真っ先に思い出したのが深作欣二監督の「仁義なき戦い」。あれはヤクザ抗争という暴力を「コメディ」として撮っていました。脚本家の笠原和夫は、こう述べています。
「《実録もの》はデフォルメ(変形)に力点をおき、素材の《毒性》を意図的に誇張することで、現実の隠れた貌を摘出しよう、というのが私の考えだった。したがって作品の形態は喜劇〈コメディ〉になる」*1
本作は全く同じことをしていると思います。つまり、現実に起きた事件を徹底的にギャグとして描くことで、その連続殺人がもつ馬鹿馬鹿しさ、おかしさを浮き彫りにしていると感じました。まぁ小林監督は「バトルロワイヤル」を観て人生が決まったと仰っているくらいですからね。当然ですね。
それを象徴しているのが、ラストの台詞です。散々馬鹿な行為を見せつけられた後にあれですから、「その通り!」としか思えないわけです。しかも、それがTV越しというのいいですね。まさに我々観客の目線ですから。そしてこれは、序盤のユーチューバーの台詞にも表れていています。彼はこう言いました。「人間って、自分より馬鹿な奴ら観ると安心するじゃないですか」と。本作は映っているのは馬鹿ばっかです。つまり、正に本作は、ユーチューバーの彼が言った台詞をそのまま体現していると思います。我々を安心させるための映画なんです。これ。
また、「仁義なき戦い」との共通点として、「なかなか死なない被害者」が挙げられます。本作の人はなかなか死にません。殺したと思っても、ずっと生きてるんです。そして何回か首絞めたり、撃ったりすると、ようやく死にます。「仁義なき戦い」でも何発も撃ち込まないと死にませんでした。ここも似ていて面白かったですね。
そして、最大の共通点は、主人公タカノリがいいように利用されることですね。人を殺しまくってますが、それは家族に唆されただけです。彼は「家族のために」人を殺すわけです。いや、これは山守親分と広能まんまでしたね。共同体もヤクザから家族に代わっただけですし。しかし、使役されているからこそ、怒りが伝わってくるのも素晴らしいですね。
役者も素晴らしかったです。特に毎熊さんですね。本物感が半端じゃない。コンビニ店員との下りとか、中学時代、不良に絡まれたことを思い出しましたよ。でもだからこそ、間宮さんとの力関係の逆転が映えます。
このように、本作は、深作欣二の作家性を色濃く受け継いだものだったかなぁと思います。何より、見ていて何故か楽しかった。描いているのは殺人事件なのに。何という不謹慎な映画だ(褒めてます)。まさにけしからん映画。
最後に。これは私の勝手な考えですが、どことなく漫画家の松本大洋的なノリも感じました。サトシの「・・・青春」とか、突然現れる文字とその文体とか、登場人物の会話とかにです。まぁ松本大洋先生は短編で「ソナチネ」に似せた話とか書いてますから、似たところから影響を受けているのかな。