暇人の感想日記

映画、アニメ、本などの感想をつらつらと書くブログです。更新は不定期です。

【わたしたち】感想:必要なのはその一言

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88点

 

 韓国映画です。本作は学校という大変窮屈な空間の中で繰り広げられる、小学生にとってのサバイバル劇です。と同時に、綺麗な友情の話でもありました。

  小学4年生のソンはクラスで孤立している。ドッヂボールのときは「線を踏んだ」と言いがかりをつけられ即効外野。中心人物・ボアの誕生日には呼んでもらえず、それどころか彼女らに掃除を押し付けられ、やっと終わってそいつの家に行ってみても違う住所を教えられていることが判明。そんな彼女ですが、夏休み前の最後の日、転校してきたジアに会う。彼女は転校してきたばかりで友達がいないため、夏休みを通してソンと遊び倒す。

 2学期も仲良くやれる。そう思って2学期を迎えたソンだが、ジアはソンが呼びかけても、無視を決め込む。その一方、いじめっ子グループ・ボアと仲良くし始めたのだ。何と彼女は塾で一緒の教室だったらしく、ジアはクラス内で生き残るためにソンを捨てたのである。このように順調にクラスデビューを飾ったジアだったが、テストで満点を取り、ボアを抜いてしまったことから事態は急変。今度はジアがいじめの標的にされる。しかし、ジアはいじめの視点をずらすため、ソンのある秘密を暴露する。それに激怒したソンは彼女の秘密をも盛大にばらして・・・。といった話

 本作は映画秘宝真魚八重子さんが書かれていた通り、顔で「どちら側か」が分かるところが素晴らしい。故に、休み中のソンとジアの関係にも、冷や冷やして観てました。だって本来、絶対カーストが違うし。面白いのは、彼女たちの力関係が、家の経済的事情と直結している点です。ジアは金持ちで、ソンは中流です。韓国の経済格差を感じます。

 他にも一発でソンがいじめられていることが分かる描写が、冒頭のドッヂボールの組み分けです。そう、経験したことがある方もいるでしょう。「クラスの中心人物が分かれてジャンケンし、勝った方が好きな方を取る」ってやつです。あれ本当に害悪だからやめてほしい。ソンは、あれで「最後まで残る娘」なんです。あの晒し者感は本当に困るわ。

 そして周囲の描写もめちゃくちゃリアルでした。把握しているようで把握しきれていない先生とか、親のウザさ加減とかです。特に親ですね。これは子供が何も言わないからという問題もありますが、ソンとジアの関係が気まずいのに「一緒に食べな」とか言って無駄に気を利かせて2人分の弁当を作ったり、ソンが追い詰められているときに無神経なこと言っちゃったり、親本人の知らぬところで子どもをからかう材料に使われたりと、「あるある」感が凄い。母親が悪い人ではなく、むしろいい母親だけに、余計にもどかしいです。

 本作は全体的に、登場人物たちのさりげないしぐさが素晴らしいです。子どもが不意にイラついたときの表情とか、親といるときのあの気まずい感じとかですね。後、いじめている奴が近くに寄ってきたときのあの「あー・・・あっち行こっか」的な雰囲気とか、ソンがジアにプレゼント持って行ったときのボアとの「何でコイツここにいんの?」感とか、同調圧力の描写も真に迫っています。そして、ソンがちょっと空気読めない子で、「純粋な故のウザさ」も真に迫っていました。

 ただ、この同調圧力による「友情」がどれだけ希薄なものか、というのはソンが爪にした装飾で描かれています。ジアとしたものはなかなか消えませんが、「上書き」したボアとの「友情」の証であるマニキュアは簡単に消え去ります。しかもジアはソンがくれたブレスレットをずっと付けているんですね。ここらへん泣かせますよ。

 本作で重要なのは「弟」です。彼は仲が良い子と遊んでは怪我をさせられています。しかし、やられたら、やりかえして終わりです。「やられたら、やりかえす」この精神でジアと喧嘩していたソンに、弟は聞きます。「だったらいつ遊ぶの?」と。

 ラスト、またドッヂボール。いつものごとく余るソン。今度はジアも一緒。冒頭のソンと同じ理由で退場させられそうになるジア。ですが、そこで彼女が言った一言。彼女たちに必要なのはこの言葉だったのです。ここで、本作は見事な友情の話になったと思います。