暇人の感想日記

映画、アニメ、本などの感想をつらつらと書くブログです。更新は不定期です。

4月に見た新作映画の感想①

 4月に見た新作映画の感想です。4月は本数が多いので、記事を2つに分けたいと思います。まずは最初の7本です。では、行ってみよう!

 

No.30『生きる LIVING』 77点

 1952年の黒澤明監督による傑作『生きる』のリメイク。脚本はノーベル文学賞作家のカズオ・イシグロ。「なぜ今?」と思いつつ鑑賞しましたが、これがとても良いリメイクでした。

 本作はもちろん、オリジナルへのリスペクトに溢れています。画角はオリジナルのスタンダードサイズに近く、タイトルなどに使われているフォントは50年代の映画を思わせます。カラーでありながら、黒がメインカラーになっているのもそうだと思う。脚本もかなり忠実で、メッセージも同じ。それでいて尺がオリジナルより40分近く短くなっている。

 昔の映画で、昔が舞台であるからと言って、本作が持つテーマは色褪せない。要は「尊厳ある生」とでも言うか、「賞賛などされなくても、自らがなすべきことをなした人の話」。真面目に、死人のように生きていた主人公が、他者のために為すべきことを為す。最後には手柄も取られてしまうが、そこは問題ではない。黒澤明繋がりで言えば、『七人の侍』だってそういう話と見えなくもないし。そこが黒澤明ヒューマニズムだったと思うし、だから胸を打つ。大人になった自分は、「生きているか」と言われているようで。

 しかし、本作ではオリジナルにはなかった点が追加されている。それはエイミー・ルーウッドなどの若者にフィーチャーした点。オリジナルでは志村喬のみの話になっていて、「彼のみの話」になっていたけど、本作では若者に焦点を当て、ビル・ナイの行動が次世代にもつながっていく、という構造にしていた。これでかなり前向きな話になったし、全世代的な話になったと思う。

 余談だけど、ビル・ナイのエイミー・ルーウッドの誘い方が、完全に友人と遊び慣れていない人間のやり方で、見ててきつかった。

 

No.31『ダンジョンズ&ドラゴンズ アウトローたちの誇り』 91点

 予告を見たときは完全スルー案件だと思ったんだけど、前評判が大変良かったので見た。原作のTRPGはサッパリで、『E.T』や「ストレンジャー・シングス」でやってたなぁってくらいの距離感だったのですが、これが大変面白い作品で、安心して身を任せて見ることができました。こんなにストレートな面白さを持った作品は久しぶりに見た気がします。

 話そのものは、仲間に裏切られ、娘を奪われた主人公が、娘を仲間と共に奪還する、という単純なもので、目的のために仲間集めに奔走したり、クエストをクリアしたりするという、王道ファンタジー(まぁ原作がTRPGの元祖なんで当然なんだけど)。しかし、アクションとギャグのバランスが絶妙で、見ててとても楽しいし、さらにそれらの1つ1つの質が高い。例えば、アクションで言えばミシェル・ロドリゲスの殺陣。動きが非常に論理的で感心した。また、ソフィア・リリスの多彩な変化を疑似ワンショットで見せたり、途中の作戦ではケイパーものの様相を見せたり、最後のチームプレイが見事だったり、本当に見所が多い。ギャグも全く滑っておらず、全部笑えるのもいいし、大仰でないのもいい。

 役者が皆良かった。どいつもこいつも妙に頭のねじが緩い連中で、愛すべき馬鹿なんだけど、特によかったのは主演2人。クリス・パインは過去最高レベルで良かったし、ミシェル・ロドリゲスのやや脳筋キャラかと思いきや妙に男の趣味にうるさかったりするのもいい。そして何よりこの2人の関係性がよかった。2人ともパートナーがいるため、恋愛関係にならず、固い絆で結ばれている相棒って感じで、「スレイヤーズ!」のリナとガウリィを思い出した。後はヒュー・グラントはやっぱ最高。本当に楽しそうに演技するな。

 

No32『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』 70点

 2021年に公開された映画の続編。前作は殺し屋コンビの日常と殺しを描いた日常系殺し屋映画とも言える作品でしたが、本作では少し視点を変えて、殺し屋業界における格差を描いた作品になってました。

 ちさととまひろはいつもの感じですが、本作でもう1組の主役といえるのが丞威さんと浜田龍臣さん演じる正式な殺し屋になれないコンビ。本作は彼らが成り上がろうとして儚く散っていく物語としての側面があります。この2人組によって、前作で描かれた殺し屋業界がさらに深く描かれたと思いますし、彼らが割と青春もののノリであるため、この世界に流れる冷酷さがより強調されたと思います。ラストの無情っぷりとか凄かったし。

 アクションは相変わらず素晴らしい。冒頭の乱闘から始まり、銀行強盗を倒すジャッキー映画みたいなアクション、そしてラストの体術バトル、全てがハイレベル。終盤のガンアクションには「リコリス・リコイル」感があった。

 本作に難があったとすれば、前作より格段に増えたオフビートな会話。役者が楽しそうにしているのはいいんだけど、長くて少しくどかった。言い方は悪いけど、福田雄一の映画を思い出してしまった。まぁ、彼の映画と段違いなのは、オンオフの入れ替えが完璧で、シリアスなシーンへの入れ替わりがとても上手いってのがあるけど。

 

No33『マッシブ・タレント』 80点

 ニコラス・ケイジが本人役で出演し、国際的な犯罪組織のボスにして大富豪であり、自身の熱狂的なファンであるハビをスパイする、という愉快な設定の映画。ニコラス・ケイジが自身のイメージを存分に生かして生き生きと演技をしていて(目をむいてガーッと圧をかけるアレ)、見てるこっちまで楽しい気持ちになる。

 本作はニコラス・ケイジをメインに据えているものの、話自体は平凡。特筆すべき点としては、ハビを演じるペドロ・パスカルとの友情物語だと思う。潜入捜査もので友情が芽生えるのは王道展開ですが、この2人の関係は「男の友情」的なそれではなく、「愛してる」と告白してしまうレベルの絆。従来の男らしさから離れたところで友情を育んでいるのが印象的だった。

 また、ニコラス・ケイジをここまでフィーチャーしている映画なのに、最も大きな役割を果たす映画は『パディントン2』である。そしてそれがちゃんと物語の中で機能しているのも偉い。『フェイス/オフ』も重要だけど。何はともあれ、ニコラス・ケイジが楽しそうにしていて、何よりである。

 

No.34『AIR/エア』 87点

 エア・ジョーダンの誕生秘話の映画だけど、本作の核は「偉業を成し遂げた人間の信念と情熱の物語」だと思う。本作では、話術に長けたマット・デイモンマイケル・ジョーダンの才能を見出し、彼に賭け、他者を説得し、後世に残るブランドを作り上げる姿が描かれる。

 彼は、自らの情熱を形にするために、マイケル・ジョーダンの母親を説得し、会社内の上司や制作部門の人間を説得してまわる。そこで語られるのは熱意だけではなく、相手にとって如何に利益になるか、そして、満足のいく結果を出せるかを「プレゼン」する。

 企業というのは1つの生き物だという人がいるけど、本作ではマット・デイモンが潤滑油となり、各部門の歯車をしっかりと回し、エア・ジョーダンへと向かっていく。情熱だけではだめで、それをいかにロジカルに相手に伝え、納得してもらうか。社会人となった今、この手のお仕事映画を見ていると、この企画を通すことの大変さが理解できるため、マット・デイモンの情熱に感心しきりである。しかし、最後にはエモい展開に持っていくのもにくい。

 本作は非常にアメリカ的な映画だと思う。いやアメリカで作ってるんだから当然だろと思うかもだけど、ちょっと違って、何と言うか、非常にアメリカ的な価値観が滲み出ている映画だと思った。そもそも、当時の映画や映像を多用して80年代の時代に観客を放り込む冒頭や、画面のルックが完全に80年代アメリカ映画のそれ。マイケル・ジョーダンアメリカン・ドリームの話であるし、展開もそう。『ロッキー』が台詞で引用されたりもしてるので、この辺は確信的だとも思う。

 アメリカの映画ではあるけれど、1企業もの、そして、何かを成し遂げる情熱の物語として、大変すばらしい映画だったと思う。エア・ジョーダンなんて欠片も興味ない私がこんなに興奮したので、興味ない人でも全然楽しめると思う。

 

No.35『ザ・ホエール』 79点

 まずもってブレンダン・フレイザーが素晴らしすぎる。ファットスーツを着込み、恋人を失ったショックから過食気味になり、272kgまで膨れ上がった男性を演じる。太った人間を演じたからではなく、その役が抱えている苦悩を完璧に体現しているのが素晴らしい。

 ブレンダン・フレイザー演じるチャーリーは、これまでの人生を悔い、贖罪を望んでいる。だから娘のエッセイを手伝おうとするし、看護師のリズの助けを断る。チャーリーは大学の講義でも顔を隠しているし、ピザの配達員にも顔を隠している。自分の姿を誰にも晒したくないわけで、外界との交流を最低限にしている。

 本作はチャーリーの室内で話が進むワンシチュエーション劇で、スタンダードのような画面のサイズも相まって、画面の中にチャーリーが占める割合が大きい。この室内はそのままチャーリーの心の中と捉えることができると思う。この室内に入れ代わり立ち代わり人間が入り込む。

 ラストで、外界から閉ざされていたチャーリーの心が救済され、まさしく光が差し込む。だから、最後に娘のエッセイを聞きながら立ち上がり、外界の光に向かって歩いていく姿が感動的なんだと思う。

 

No.36『ノック 終末の訪問者』 63点

 原作が既にあるとは思えないくらいのシャマラン度高すぎ映画。シャマランの映画は常に一貫していて、登場人物が世界の中における「使命」を知る物語だった。本作も「使命」についての映画なんだけど、実はシャマランの映画の中では少しだけ方向性が違っていたりする。

 本作は世間から離れた場所で休暇を過ごしているゲイカップルと娘のもとに、デイヴ・バウディスタをはじめとする怪しげな人間が侵入してくるという、『ファニー・ゲーム』を彷彿とさせる展開から始まります。しかし、映画は自らの「使命」を自覚した人間たちが、主人公たちに「大切な人を犠牲にして世界を救え」という「選択」を迫るという内容になる。

 このデイヴ・バウディスタ一行の言動は狂人のそれであるけど、よくよく考えれば、これは過去のシャマラン映画で「使命」を自覚した人間たち。つまり本作は、過去のシャマラン映画のその先の物語であり、これまで指摘されてきたシャマラン映画の「物語」に対する狂信的な姿勢を客観的に描いていると言えます。

 自らの狂信的な面を客観的に描いても、やっぱりシャマランなので、最終的にその狂気に晒される家族も、「物語」を信じ、世界を救うという使命に殉じます。そして、拒絶していた世界に向けて歩いていくわけです。

 本作は演出的にも堅実なスリラー演出がなされており、見ている間は退屈はしない。しかし、変な映画であることは変わりません。とにかく本作には、「理由」がない。あの家族が選ばれたことに理由が説明されないし、何故世界が崩壊するのかも不明。あの家族は、いきなり世界を救う「使命」を背負わされ、大切な人を失う悲劇に見舞われます。ハッキリ言って理不尽。しかし、その理不尽さこそが肝なのかもしれません。運命は、突然やってきて、選択を迫る。まさに、扉を「ノック」して。この運命の理不尽さこそ、シャマランが描こうとしたことだったのかもなぁと思いました。にしてもやばい宗教感はあるし、最後はカルトに屈したとしか思えんわけで。

 余談。『ハリポタ』のロン役でおなじみのルパート・グリントがやさぐれたオッサン役で出ててビックリした。

2022年新作TV/配信アニメベスト10

はじめに

 皆様。お久しぶりです。いーちゃんです。もうね、最近、本当にブログを書く時間が取れなくて、映画の感想記事も文章少なめにしてまとめて公開する方向にしましたし、アニメの感想に至っては書くことを放棄!書きたいとは思っていますが・・・。多分、今後もこのような形になると思います。もし更新頻度が上がったら、今の仕事を辞めたと思ってください。しかし!アニメの記事はせめて年間ベストの記事は書きたい!もう7月だとかそんなの関係ない!ようやく視聴予定の作品を全て見たので、やるのは今なんだ!という感じです。対象作品は下記37作品です。それでは、行ってみよう!

 

対象作品

2021年秋アニメ

「86-エイティシックスー(2期)」

「王様ランキング」

ルパン三世PART6」

 

冬アニメ

「ハコヅメ~交番女子の逆襲~」

最遊記RELOAD-ZEROIN-」

ジョジョの奇妙な冒険 ストーンオーシャン(第1クール)」

からかい上手の高木さん3」

「明日ちゃんのセーラー服」

「その着せ替え人形は恋をする」

平家物語

 

春アニメ

「阿波連ははかれない」

「マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝 Final SEASON-浅き夢の暁-」

パリピ孔明

古見さんは、コミュ症です。(第2期)」

かぐや様は告らせたい-ウルトラロマンティック‐」

SPY×FAMILY(第1クール)」

「かぎなど(第2期)」

サマータイムレンダ」

 

夏アニメ

リコリス・リコイル」

「よふかしのうた」

「ユーレイデコ」

メイドインアビス 烈日の黄金郷」

異世界おじさん」

はたらく魔王さま!!」

「風都探偵」

 

秋アニメ

SPY×FAMILY(第2クール)」

ポプテピピック(第2期)」

機動戦士ガンダム 水星の魔女(Season1)」

名探偵コナン 犯人の犯沢さん」

ヤマノススメ Next Summit」

「モブサイコ100Ⅲ」

「Do It Yourself-どぅー・いっと・ゆあせるふ‐」

「アキバ冥途戦争」

ジョジョの奇妙な冒険 ストーンオーシャン(第2クール)」

「ぼっち・ざ・ろっく!」

チェンソーマン」

BLEACH 千年決戦篇」

 

10位「風都探偵」

 「サイクロン!」「ジョーカー!」(CV立木文彦)→「さぁ、お前の罪を数えろ」→「W-B-X」これで決まりだって感じです。

 10位は「仮面ライダーW」のコミカライズ版のアニメ化。私は「W」はリアタイで見ていたので、あの続きの物語が見られるのかとウッキウキでした。コミカライズ版が優れているというのは大前提として、肝心の内容も、TVドラマへのオマージュが満載で、「Wをアニメにしてやる!」という制作陣の気概を感じるもので、毎回感動していました。

 

9位「SPY×FAMILY」

 2022年アニメの顔その1。集英社とTOHOの本気を見る。Clover WorksとWIT STUDIOという現代最強の制作会社を揃え、監督に古橋一浩、主題歌にofficial髭男dism、星野源、BUMP OF CHICKINを配し、ハリウッド映画をモチーフとした原作にふさわしい、軽妙さとアクションを備えた娯楽作となりました。正直、この資本力にムカついていたのですが、やっぱり面白かったのでこの順位。

 

8位「モブサイコ100Ⅲ」

 シリーズ完結篇。シリーズものの最終話で、1期OPがかかる作品は名作の法則。これは素晴らしかった。毎回BONESの本気が楽しめる作品なのですが、今期も毎回超絶アクションの連続に興奮し、モブの成長に少し泣かされたりしました。これで終わりかと思うと悲しいけど、最後まで誠実に作られたいいシリーズだったと思います。

 

7位「ヤマノススメ Next Summit」

 第4期。シリーズものは重ねるごとに制作会社の変更や、それに伴うスタッフの大幅変更によってクオリティが低下したりするのが常なのですが、本作はシリーズを重ねるごとにクオリティが上がっていく稀有な存在です。今期も丁寧なアニメーションの連続で、それを見ているだけで楽しく、また、最終的に山登りを人生に例え、彼女たちの人生を後押ししているようなラストは本当に良かったな。

 

6位「機動戦士ガンダム 水星の魔女(Season1)」

 始まる前こそ「ポリコレガンダム」とか散々な言われようをされていた本作ですが、始まったら一瞬でそんな声は止み、今では大ヒット作です。本作といい今かかっているマリオといい、何なんだこの掌返しは。さて、ガンダムで学園ものとかいう異色の組み合わせですが、全話見終わるとやっぱりガンダムだったというね。Season2も楽しみ。

 

5位「サマータイムレンダ」

 ジャンプ+で連載されていたタイムリープもの。原作の精度が素晴らしかったのですが、アニメ化に際し、完璧な取捨選択のもと、スピード感たっぷりに仕上げてみせてくれました。個人的に、田中先生のことは「瞳のカトブレパス」の頃から知ってるので、こんな面白い作品を生み出したまでになったことに感無量でした。

 

4位「ジョジョの奇妙な冒険 ストーンオーシャン

 2012年。「ジョジョ」のアニメ化が発表されたとき、期待している人は誰1人としていなかった。それが10年かけて6部までアニメ化され、評価までされている。これはMCUがサノスまで無事に制作できたことと同じくらいの快挙だと思う。そのスタッフの覚悟と情熱に敬意を表して。

 

3位「明日ちゃんのセーラー服」

 明日小路という女子が、新しい学校で友達に出会い、キラキラした日々を送る姿を描いた秀作。Clover Worksが本気を出した丁寧なキャラの動き、美しい美術など、非常に贅沢なアニメ化だった。これが小路の生活の彩を表現しているわけで、見ていてとても優しい気持ちになれた。

 

2位「ぼっち・ざ・ろっく!」

 秋アニメ、いや、2022年アニメの顔。「令和のけいおん!」は伊達じゃない。京都アニメーションが「ライブアライブ」「けいおん!」で開いた演奏シーンの表現を踏まえ、Clover Worksが演奏シーンをアップデートしてみせた、という点でも意義深い。ギャグの演出も多彩で面白く、日常ものの最新版という側面もある。2022年は、京都アニメーションの影響が色濃く感じられる作品が結構あったなという印象。

 

1位「平家物語

 山田尚子監督の最新作が1位。合戦ではなく、あの時代に生きていた平家の人間にフォーカスを当てた作品。「いつまでも続くと思っていたものが突然終わりを告げる」という、『けいおん!』『リズと青い鳥』『たまこラブストーリー』に繋がる話で、ここに刹那的な美しさがある。特にフィーチャーされていたのはあの時代に生きていた女性で、とく子はその苦しみを一身に引き受けてしまっていたと思う。しかしその苦しみを受けてなお、「生きる」姿を描いた今作には、非常に力強いものを感じました。

 

 以上です。もういちどランキングを並べます。

1位「平家物語」制作:サイエンスSARU
2位「ぼっち・ざ・ろっく!」制作:Clover Works
3位「明日ちゃんのセーラー服」制作:Clover Works
5位「サマータイムレンダ」制作:OLM TEAM KOJIMA
6位「機動戦士ガンダム 水星の魔女(Season1)」制作:サンライズ
7位「ヤマノススメ Next Summit」制作:エイトビット
8位「モブサイコ100Ⅲ」制作:BONES
9位「SPY×FAMILY」制作:Clover Works、WIT STUDIO
10位「風都探偵」制作:スタジオKAI
 
おわりに
 こうして並べるとClover Works強すぎだな。ランキング外だけど「その着せ替え人形は恋をする」も良かったし、現状では最強の会社だね。ちなみに、2023年は現状、「スキップとローファー」がベストです。

ゲームプレイの映画化として完璧だった【ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー】感想

 

82点

 

 現在、全世界でメガヒット中の本作。私はマリオは「スーパーマリオブラザーズ2」しかまともにやったことがなく、「マリオカート」も友達の家でやったくらいのマリオ弱者なのですが、これがまぁ面白かったですよ。ヒット作なので、簡単な感想を個別記事で書きました。だいぶ久しぶりだな。

 

 よく言われているように、本作は「ゲームの映画化(=ゲームの設定だけを使って後はオリジナルストーリーを作る)」というより、「ゲームプレイの映画化」と言ったほうがしっくりくるような内容です。私の乏しいマリオ体験でも、「マリオをプレイしたときの感覚」が見ていて蘇ってくるものでした。例えば、冒頭でマリオとルイージが仕事に向かうときの横スクロール、そしてルイージ救出の旅に出る前の「訓練」シーン、キノコで1UP、そしてマリオカートなど、「あ!これ知ってる!」のオンパレード。さらに、ビジュアル的にも、マリオの世界観をそのまま3次元の映像にしていて、偉い。ピーチ姫との距離感も良かった。

 

 そしてこの「マリオのゲームをしている」ことがそのまま作品のテーマ的な肝になっている。マリオのゲームって、あの訓練の通り、「諦めない」ことだと思っていて、諦めないでトライ&エラーを繰り返すことがクリアに繋がるものだと思います。で、本作に関して言えば、繰り返し強調されるマリオの「諦めの悪さ」が彼のヒーローたる所以になっています。

 

 また、「ゲームのプレイ映画」として、もう1点感心した点があって、それは「ゲームで得たことを現実に持ってくる」というのをやっていた点。本作では、マリオとルイージアメリカのブルックリンに住むイタリア系のブルーカラーで、配管工をしています。決して裕福とは言えない彼らが、キノコ王国へ行って、そこで数々の試練を乗り越えて、最後には現実に現れたクッパを打ち倒します。これつまり、先述の「ゲームでの成長を現実で使って自己実現の果たす」って話で、この辺には感心した。映画にせよゲームにせよ、現実逃避であることには変わりないけど、優れた作品は、その中で現実に応用できるような「気づき」をくれる。その気づきは、自分を後押ししてくれたり、自分の見識を広げてくれたりする。本作でマリオが成したことは、その体験の映画化だったのだと思う。この点でも、本作は「ゲームプレイの映画化」と言えると思うのであります。だから、「思想がないからヒットした」ってのは違うと思う。

 

 めちゃくちゃヒットしているので、続編が作られるのは確実。とりあえず、このまま「カービィ」とか「ゼルダ」とかも映画にしてもらって、任天堂ユニバースを構築し、「大乱闘スマッシュブラザーズ」の映画化を目指してほしいですね。あの土管の設定的に、ユニバースを構築する気満々だろうし。

3月に見た新作映画の感想

 皆様。お久しぶりです。いーちゃんです。最近、仕事で忙しく、更新が遅くなってしまいました。3月の新作映画の感想を投稿します。『少女は卒業しない』『フェイブルマンズ』『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』『シン・仮面ライダー』『オマージュ』『The Son/息子』『長ぐつをはいたネコと9つの命』『Winny』『グリッドマンユニバース』の9本分の感想です。

 

No.21『少女は卒業しない』 62点

 校舎の取り壊しが決まった高校の卒業式前日~当日を舞台に、4人の少女たちの葛藤が描かれる群像劇。監督が『カランコエの花』の中川駿さんだから観た。

 複数の主人公、特定の時間が舞台、という点で、同じ朝井リョウ原作の傑作映画『桐島、部活やめるってよ』を彷彿とさせます。しかし、あちらよりは緩い(というか、登場人物みんな妙に優しい)映画でした。卒業式の練習や前日のあの、「自分の中で1つ大きな節目を迎える」感じや、学校の雰囲気など、自分の当時の記憶が蘇ってきて、そこは大変良かった。地獄のアディショナルタイムは俺も経験したな。また、4人の女優は皆魅力的でした。1つ1つのエピソードがやけに間延びしていたけど、それも、雰囲気つくりに一役買ってたと思う。

 しかし、問題なのは、4人の少女の葛藤が、関係ないこちらからすると(河合優美を除いて)割とどうでもいい悩みで、「まぁ学生って、こんなことで悩んだりするよなぁ」と思ったけど、大人になった今見てもそこまで顛末に興味を持てなかった。「まぁ、うん、君たちで解決してみよっか・・・」みたいな。俺もオッサンになったってことか。河合優美だけは1つ大きな仕掛けがあったりして良かったけど。中二病を発症している森崎君が一番おいしかったね。卒業式だからって、あんな感じの特別イベントってあるもんなのか?俺には全くわからん。そういえば、同窓会とかもやってんのかな・・・。全く知らないんだが・・・。

 

No22『フェイブルマンズ』 92点

 『エンパイア・オブ・ライト』でも書いたけど、昨今、「映画愛」を語る映画、そして、それに合わせて監督の自伝的な映画が非常に増えた。そんな中、現代映画の神ともいえるスピルバーグが遂に放った自伝的映画は、それらの映画たちと一線を画する映画だった。

 この手の映画では、「映画」というものがいかに自分の人生を救ってくれたかを感傷的に、ノスタルジックに描くことが多いわけだけど、スピルバーグは全く美化しない。映画が持つ暴力性ともいえるものを克明に描き出し、その魔力に魅せられて、「そうとしか生きられなかった」少年を描く。無論、それはスピルバーグ自身のことであり、彼ほど「映画で人を感動させる」ことに長けた存在はいない。本作でもその力量は遺憾なく発揮されているため、この構造に説得力が生まれまくりであります。

 映画の暴力性が示されるのは2点。1点は、偶然映り込んでしまった母親の浮気場面。2点目は、高校卒業の時に撮ったビーチの映像。映画は、現実以上に「真実」を描き出してしまうし、逆に、いくら醜悪な存在でも美しく撮れてしまう。映画はファシズムプロパガンダに使われてきたし、描き方ひとつで悪ですらヒーローにできてしまうのである。

 映画を撮ることは実生活の代償行為となり、人生をめちゃくちゃにしてしまう行為になりうる。しかし、それでもサミーは映画を撮り続ける。その暴力性を理解し、人生が呪われても、「映画の神」だったジョン・フォードの薫陶を授かり、自身もまた「映画の神」への道を歩み始めるあのラストショットは、非常に感動的でした。

 

No.23『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』 90点

 2023年のアカデミー賞最多ノミネート作であり、作品賞最有力候補作!「・・・マジで?」と思わざるを得ないふざけ倒した、トリッキーな映画でした。監督は『スイス・アーミー・マン』のダニエルズ。あれも変な映画だったな。

 MCUをはじめ、今やメジャーになったマルチ・バースを扱った作品で、破産寸前のコインランドリーを経営するエブリンが、別のバースからやってきたアルファウェイモンドに促され、宇宙全体を救うことを決意する。話の規模は非常に大きいが、内容自体は非常にミニマムで、家族愛の話であり、1人の女性の人生についての話だった。

 基本的に観ていて楽しい映画だった。ミシェル・ヨークンフーで無双しまくるくだりは最高だし、ジェイミー・リー・カーチスも『ハロウィン』ばりに無双する。脇の俳優も上手いし、お下劣なギャグはご愛嬌。後半の展開が動きがないため少しかったるかったけど、マルチ・バースの演出も含め、映像的にもとても面白い映画であったことは間違いない。

 映像や脚本家ら、非常にトリッキーな映画であるけど、話の軸自体はありふれたものだったと思う。「凡庸な存在が実は特別で・・・」みたいなのは言わずもがな『マトリックス』だし、そもそも、「別次元から来た存在(そしてそれは主人公にとって特別化された異性だったりする)」に導かれてという話もよくある。オタクはこういう話が好きだと思う。後、ノリが完全に「ボーボボ」とか「セクシーコマンドー外伝」とか「銀魂」で、出てくる連中が皆ハジケリストだった。

 「人生をどこで間違えたのか」「自分には別の人生があったのでは」というのは、誰しも考えることだと思う。本作は、別のバースのエブリンを見せたうえで、エブリンの人生を肯定する。「何もない」存在だからこそ可能性があるのだと。自分の人生は変えられないものであると示す。直球な人生賛歌で、最近、色々と辛かったので、ここは少し泣かされた。

 娘との和解で、娘は一切歩み寄らず、母親が歩み寄り、理解するという話であり、そこもよかったなと思った。娘視点で見ると、この映画、今の若者の悲観的な人生観みたいなものも描いている気がして、そこに大人が理解を示すという作りな気がしたので。

 

No24『シン・仮面ライダー』 70点

 『シン・ゴジラ』公開前、私の中では期待2、不安8といった塩梅でした。というのも、庵野監督のそれまでの実写映画の出来もそうですし、何より、『キューティーハニー』のことが大きかった。だからそこまで期待はできなかったのです。

 何故この話をしたのかというと、本作は、まさしく『シン・ゴジラ』公開前に私が危惧していたものがそのまま出てきた作品だったからです。つまり、庵野監督の情熱や敬意が暴走している映画です。

 本作は、1作目の「仮面ライダー」のリビルドと言えます。庵野監督は『エヴァンゲリオン』でも、『シン・ゴジラ』でも、既存の作品やジャンルを脱構築し、語りなおしてきました。本作も、「今の時代に、1作目の「仮面ライダー」を作るならば?」と庵野監督が思考し、「仮面ライダー」について語った作品です。

 本作は、映像的にはTV版を過剰に踏襲していますが、その内容的には、石ノ森章太郎先生の漫画版を強く意識していると思います。石ノ森章太郎先生と言えば、「サイボーグ009」の方ですが、本作でも同じく「改造人間と改造人間が戦う」ことが強く意識されています。だからこそのPG12の流血ですし、本郷猛は、戦いを「暴力を振るっている」とし、自己嫌悪します。また、仮面ライダーの孤独や、マスクや手術跡の設定なども踏襲していますし、ラストもそうです。

 石ノ森先生の作品を意識しつつ、本作の「ヒーローとしての強さ」には、変化も施されています。昭和のTV版では、本郷猛を演じていたのは藤岡弘、であり、マッチョイズムの権化みたいな感じでしたが、本作の本郷猛は、ナイーブで、「優しい」存在であると強調し、ひたすらに他者のために力を行使する。だからこそ、「ヒーローである」としています。そして、その「遺志」が継承された存在がヒーローとなる、というラストには、MCUなどが唱えている「誰もがヒーローになれる」的な意味合いを感じました。そしてそれを「仮面」に象徴させているのもいい。

 また、「1作目の仮面ライダー」は、映像的にも「蘇らせて」います。特撮の十八番、ジャンプカットは頻出するし、BGMも同じなのは当然。始まってすぐ、仮面ライダーが初めて出てきたあのシーンなど、完璧にあの時代の映像とカメラワークを再現してて、コピーの監督、庵野監督の面目躍如といったところ。後は小ネタも多い。2号登場の下りを、藤岡弘、の骨折エピソードを完全再現してやっていたのには正気を疑った。

 また、本作も基本的に「エヴァ」です。「もうやめてよ父さん!」が「もうやめてよ兄さん!」になっただけで、一郎兄さんのやろうとしていることはただの人類補完計画だし、旧劇でのシンジの自問自答がここでも繰り返される。「暴力を振るう」くだりで、手が印象的に映されるのもまんま。後、「コミュ障が強気な女性に矯正される」的な展開もそうだし(というか浜辺美波庵野ヒロインすぎる)、観客と主人公をいきなり渦中に追い込む導入は1話「使途、襲来」そのまんま。一郎は猛の鏡像であり、同じ経験をしつつも他者を拒絶した一郎を他者を受け入れた猛が諭すという展開になっている。だから基本的にエヴァ旧劇。

 ここまで結構褒めたけど、ハッキリ言って、本作は酷い映画です。映像的にテキトーに撮ってるだろ、としか思えないショットが連発し、役者はまともな演技ができてない。これは監督のせい。アクションはカット割りすぎて何してんだか分からないし、CGもチープ。ライダーキックは流石に良かったが。意図があるとはいえ、映画としてこれはキツすぎる。脚本はそれなりにまとめてるなとは思ったけど、映画的に興奮するシーンが1つもない映画で、こんな代物よく自信満々にして出せたな、と思う。後はショッカーがよく分からない組織になってたのも問題。

 映画としてはぐちゃぐちゃで、映画としての体裁を整えることを放棄さえしている。それでも、庵野監督の「仮面ライダー」を作る、という想いだけは伝わってくるという、歪を通り越して、怪作といっていい作品。こんなものを映画館で観られる機会は大変貴重だと思う。こんな作品は庵野秀明にしか撮れないからです。

 

No25『オマージュ』 88点

 昨今、やけに増えている「映画についての映画」系統の作品。しかし、本作は、そこに「時代を越えた女性たちの連帯の物語」というフェミニズム的な側面を加えている作品だった。

 本作は、作品がヒットに恵まれない女性監督が、60年代に活躍した女性監督の映画『女判事』の欠落した音声を吹き込むアルバイトをするさまを描く。そこで彼女は、当時の映画界における女性の差別的待遇を再度理解し、そして、歴史の中に埋もれ、「忘れられてしまった」存在を知っていく、という話です。

 映画の歴史は男性中心の歴史でした。しかし、「#MeToo」運動の中で、歴史の中に埋もれてしまった女性監督の名前が再発見されています。例えば、昨年、ドキュメンタリー映画『映画はアリスから始まった』が公開され、『バビロン』では20年代ハリウッドに実在した女性監督をモデルにした役が出てきます。

 本作もこうした流れの中にある作品ですが、最初に書いたとおり、女性同士の連帯の話でもあります。劇中で主人公は「三羽ガラス」の1人である女性に出会う下りがあります。あそこで洗濯物を一緒に取り込むシーンがとてもよく、彼女たちの間の壁が一気に取り払われた感じがしました。そして、主人公は、過去の映画人とも連帯していく。過去に差別的待遇の中で仕事をしてきた女性を知り、映画界で働く身として、地続きの歴史として認識してくわけです。余談ですが、あの編集技師のお婆ちゃん、ボケ始めてるのに、編集作業をするときだけめちゃくちゃテキパキ仕事してたのがまた良かった。

 そしてその連帯は、最後には映画界のみではなく、女性同士の連帯につながる。終盤、お隣さんが帰ってくるわけですが、そこで交わされる、「ありがとう」の台詞がとても良かった。

 

No.26『The Son/息子』 76点

 『ファーザー』のフロリアン・ゼレール監督作品。「父親」の次は「息子」かよ!って感じですが、『ファーザー』が一筋縄ではいかなすぎる作品でしたので、気合を入れて鑑賞しました。

 本作は『ファーザー』と対照的な作品でした。どちらもスリラーであるという点は共通していますが、『ファーザー』は自らの記憶がおぼつかない老人の主観に観客を放り込んだのに対し、本作は、「息子」という「他者」が分からない父親の主観に観客を放り込みます。つまり本作は、父親と息子のディスコミュニケーションの映画です。

 ヒュー・ジャックマンとゼン・マクグラスが素晴らしい。ゼン・マクグラス演じるニコラスは、自らの苦しみを理解してほしいけど、父親にはそれが理解不能な存在として描かれている。そして、ヒュー・ジャックマン演じる父親は、外的要因を追求してしまい(何で普通になれないんだ!的なことを言ってしまう。最悪である)、息子を追い詰めてしまう。そこには、成功した男性のマチズモ的思考が見えるのが嫌らしい点。

 しかし、中盤で、ヒュー・ジャックマンも自らの父親からの抑圧のもと生きてきたことが明かされる。つまり、自身も父親と同じことをしていたと分かる。度々映されるランドリーのように、同じサイクルを回っている、家族という呪いの話でもあると分かる。そしてそのディスコミュニケーションの連鎖は最大の悲劇を生んでしまいます。端から観ると「もっと早く精神科連れてけよ!」と思いますが、しかし、当事者になったらどうするか、私には確たることは言えません。

 

No27『長ぐつをはいたネコと9つの命』 82点

 『シュレック』シリーズは小学生の頃に金ローでやっていたのを少し見たくらいで全く思い入れはないですし、何なら『長ぐつをはいた猫』の前作も見てません。それでも本作を見ようと思ったのは、予告などで公開されていた、冒頭のアクションシーンが素晴らしかったからでした。

 予告で公開されていたものも含め、とにかくアクションが素晴らしかった。画面の寄りと引きのコントロール、動き、全てが完璧だった。どことなく「進撃の巨人」の立体駆動装置みたいだった。で、このアクション時、コマ数を意図的に落とした2Dアニメになってるんだけど、これが面白さにつながってるし、何より、作品全体の作りにも被ってる。

 本作は非常に教訓めいていて、「願い」は自分の周りに既にある。それに気づくことが大切だという話。それ故、話は予定調和に進む。それが本作の、そして『シュレック』シリーズがおとぎ話のパロディである点と上手く合致している。そして、2Dアニメ化するアクションでは、「絵本」である点が強調され、「おとぎ話」の協調にも一役買ってる。つまりは単純な教訓をアクションとビジュアルで示している作品だと思っていて、そこはポイント高い作品だった。普通に面白いし。

 

No28『Winny』 82点

 「Winny事件」については全く知らず、評判が良いので見ました。本作は所謂「法廷もの」で、実際に金子勇氏の弁護に立った人間の意見をもとに作り上げたという裁判や尋問のシーンは非常に見応えがあったし、如何に裁判を進めていくか、という点を丁寧に描いていた。カタルシスが無いという点は弱いかもしれないが、本作は勝訴を得ていくカタルシスより、日本社会の病理を指摘するという点に比重が置かれているため、やむ無しかなと思う。

 本作で指摘されている「病理」とは、よく言われている、「日本で新しい技術が生まれにくい」的な話。金子勇が開発した「Winny」は確かに悪用はされたものの、それは使用した人間が悪いのであって、開発者が悪いのではない。しかし、機密情報漏洩というタイミングも重なり、権力側が開発者を逮捕してしまう。本作では、終盤にYoutubeの誕生が映されますが、Winnyと同じく、過去には違法動画の温床だったにもかかわらず、現代では生活インフラになったあちらを映すことで、歯がゆさが増す構造になっています。

 本作ではもう1つ、吉岡秀隆演じる警官が裏金作りを告発するストーリーがあります。これは本筋とは絡まないのですが、「匿名であったなら」と思わせる点がWinnyの開発の遅れの歯がゆさを強調する作りになっています。また、「旧態依然とした組織・社会」に何とかして改善の風穴を開けたい、という点でも、本筋のWinny開発と共通するところがあると思う。

 役者は皆素晴らしかった。東出昌大は人としてはどうしようもないかもしれないけど、役者としてはやはり別格だなと再確認。また、吹越満のベテラン弁護士ぶりも良かった。ただ、木竜麻生の扱いはどうにかならんかったのかな。ただの解説役でしかなく、今の時代あれはどうなんだと思った。

 

No.29『グリッドマンユニバース』 87点

 93年のオリジナルTVドラマは見てないけど、「SSSS」シリーズは2作とも見てる。だから本作も楽しみにしていました。結論として、見たいものを全て特盛で見せてくれた最高のファンムービーでした。

 この手の劇場版では、ファンが望む展開というのがあり、可能ならばすべてをこなす必要があります。TVの続編的な内容はもちろん、2作がクロスオーバーすることから、各キャラの活躍の場を設け、掛け合いを用意し、各作品の共闘展開はもちろん、過去作で敵だった存在との共闘などもあれば胸熱です。本作はそれを破綻せずに完璧にまとめ上げ、さらにはこちらの想像の100倍くらいのテンションでやってくれます。特に終盤のグリッドマン降臨~「とにかく合体はしてなんぼ!!!」な合体連発にはテンションぶちあがりです。後、「SSSS.GRIDMAN」にあった特撮オマージュも健在なのも嬉しい。

 「SSSS.GRIDMAN」は現実/虚構を上手く活かした作品だったけど、本作は「ユニバース」の名を冠している通り、全ての平行世界を統合する作品でした。この点で、『ANEMONE』とか『シン・エヴァ』が近い作品だと思う。『ANEMONE』はユニバースを統合したうえで新たな「エウレカ」を構築してしまったのに対し、こちらは「1つにまとめた」内容のため、『シン・エヴァ』のほうが近いかな。

 余談。やっぱり私ぁ、立花さんが好きなんだなぁって思いましたよ。

2月に観た新作映画の感想

 2月に鑑賞した映画の感想一覧です。話題作が相次いだため、12本鑑賞しました。

 

No.9【モリコーネ 映画が恋した音楽家】 86点

 偉大なるマエストロに敬礼。

 モリコーネの関わった作品は、レオーネやトルナトーレとの一連の作品、『アンタッチャブル』、『ヘイトフル・エイト』くらいしか観たことはなかった。本作は、一介のトランペット奏者でしかなかった青年が、如何にして巨匠となったか。その足跡を追ったドキュメンタリー映画トリビアも多く、キューブリックとニアミスしてたとは知らなかった。

 マカロニウエスタンからトルナトーレ、タランティーノの映画の映像も交えて描かれる。無論、それらは素晴らしい映画ばかりであり、画面に映る度に興奮してしまう。情報の密度に圧倒される。情報が多すぎるあまり、映画がそれを処理するだけになってしまい、構成と編集が歪になってはいるものの、モリコーネという巨人の足跡を辿ることができる。

 本作はモリコーネが如何にして曲を産み出していったのか、をインタビューから掘り起こす。そこに見えてくるのは、彼が如何に論理的な思考のもと映画に向き合っていたかという事実。多種多様な映画に合った曲を産み出し、映画をより傑作にしていく過程を編集で描いている。『荒野の用心棒』に曲を当て、「完成」するまでの過程を描いたシーン、彼が口ずさむ曲が実際の音楽となり、実際の映画とともに映される点は、それまでの過程を知っているだけに、感動がより深くなる。『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』、『ミッション』のところは特に素晴らしかったし、彼が関わった映画を見返したくなった。

 『映画が恋した音楽家』の副題も良い。本作を観ると分かるけど、映画が彼を放さなかったと思うから。彼が与えた影響はあまりにも大きい。

 余談。終盤で、タランティーノがめっちゃ嬉しそうに話しててホッコリした。後、ジョン・ウィリアムズが「あの年で現役なのが凄いね!」って言ってたけど、「アンタも大概だろ!」と思った。

 

No.10【パーフェクト・ドライバー/成功確率100%の女】 60点

 パク・ソダム演じる何でも確実に届ける運び屋が、依頼主の子供と行動を供にすることになる。最初は子供を邪険に扱う運び屋だったが、情が移っていき…という、コテコテの『グロリア』の系譜にある映画。

 劇中には、同じく『グロリア』の系譜にある『レオン』への目配せもある。ハッキリと分かるのは、敵が汚職警官であるという点で、どこかイキってる感じとか、ゲイリー・オールドマンを彷彿とさせる。とは言え、ゲイリー・オールドマン並の存在感もないため、小物感が凄いわけだけど。後、あの殺し屋?みたいな奴が業者を拷問しに入ってきたときの入り方もゲイリー・オールドマン

 話そのものは『グロリア』であり、それ以上のものはない。だいたいこちらが思った通りに物事は進み、驚きやツイストはない。ただ、主人公の運び屋が脱北者であるという点に、本作が「韓国映画版グロリア」であるというオリジナリティがある。とは言え、予想は上まらず、少し退屈な感じは否めない。

 カー・アクションは流石で、『ワイルドスピード』のような荒唐無稽なものではなく、地味だけど堅実なアクションを見せてくれる。工夫を凝らした数々はとても面白い。ただ、カット割りすぎでどの車も同じに見えたりして、少し見にくいという問題もあるが。後、最後の乱闘では、音楽かけたりして狙いすぎなのが少し鼻についたな。

 

No.11【対峙】 89点

 アメリカの高校で起こった銃乱射事件の被害者遺族と加害者遺族が対話を通してお互いの傷を修復していく、修復的司法を題材とした映画。映画はほとんどが一室のみ、4人の会話のみで進む。

 監督が現役の役者であるためか、4名の役者全員が素晴らしくて、終始凄い緊迫感がある。そして脚本も非常に上手い。実際の事件を映さず、4人の会話から、彼ら彼女らの苦悩が分かるし、前半の核心に触れない会話を続けることで、いつ会話が爆発するか、という緊張感もある。撮影に関しては、中盤、ついに核心に触れてからアスペクト比が変わる演出が見所か。監督の意図通り、あそこでまさしく「世界が変わった」感じがあった。

 本作が素晴らしいのは、「会話」というもので被害者と加害者の遺族がどのように苦しんでいるのか、そして、彼ら彼女らの息子がどのような人物だったのか、をお互いに理解する点を丁寧に描いていること。被害者は怒りを感じてはいるものの、加害者遺族にぶつけることが筋違いなのは分かっている。だからこそ、振り上げた拳をどこに下ろしていいかが分からない。加害者遺族も、どうすれば赦してもらえるかわからない。この答えのない難題に、会話で互いを理解することで、一応の結論を出している。

 現在、分断や無理解からくる差別、誹謗中傷が多くみられる。特に加害者遺族なんて、マスコミや世間から叩かれまくると思う。そうやって理解せずに叩くことは簡単だけど、本作のように、「対峙」して、「分かり合えない」と思われる存在同士が会話をして、互いを理解することこそが、とても大切で、物事を前進させていくのだと思わせられた。・・・とは言え、それすら難しい人間もいるわけだが。

 

No.12【レジェンド&バタフライ】 62点

 キムタクは演じている役を全て「キムタク」にしてしまう。本作も例外ではない。織田信長という歴史上の人物だが、スクリーンにいるのは紛れもない「キムタク」である。流石である。

 まぁ、それは予想していた。しかし問題は、本作そのものが「キムタク映画」だった点である。つまり、「最悪な出会いをした男女が徐々に惹かれあっていき・・・」的な話を信長と濃姫に置き換えているだけなのである。だから映画の最大の関心ごとは天下統一とかではなくて、好きだの嫌いだのの色恋であり、なんと合戦シーンがないし、武田信玄今川義元も出てこない。ちょ、待てよ。流石は『SPACE BATTLE SHIP YAMATO』で、「宇宙戦艦ヤマト」ですら「キムタク映画」にしてしまった男である。ちなみに、唐突に事に及ぶところも似ている。

 役者は皆良い。キムタクはいつも通りだけど、やっぱり存在感は圧倒的で、魔王に落ちていくときの貫禄は素晴らしいし、綾瀬はるかも、そのフィジカルモンスターぶりをいかんなく発揮している。伊藤英明も流石。

 金をかけているだけあって、セットとか結構頑張ってたし、画面もリッチ。また、エキストラを大量に使ったモブシーン、乱闘のシーンなどは見応えがある。つまり、単純な画面に関してはかなり満足度が高い。その辺は流石大友監督。さらに、アクションも結構頑張ってた。キムタクと綾瀬はるかは動ける人だから、そこは無駄遣いじゃなくてよかったな。ただ、それが一番発揮されるのが貧民街みたいなところなのはどうなんだと思ったけど。感傷的なシーンでBGMを大音量で流すという悪癖?は抜けてなくて、そこは少し興ざめ。

 脚本が結構問題で、前半と後半でトーンがガラリと変わる。特に前半は完全にキムタクコメディ。久利生公平って言われても納得するレベル。後半でシリアスになるけど、いきなりすぎて辛いものがある。そしてラストはいきなり『ラ・ラ・ランド』化する。正直、あの展開にはかなり困惑して観ていたので、『ラ・ラ・ランド』でよかった~と思ったよ。

 

No.13【バビロン】 50点

 「進歩を妨げてはならない」と劇中でブラピが答えるシーンがあります。デイミアン・チャゼルは一貫している監督で、本作もそうでした。一貫しているのはいいのですが、何というか、私はあんまり好きじゃないです。

 本作の主人公は3人。それぞれ、映画界で一時期は大成功をおさめますが、変革期に対応できず、一度はつかんだ栄光を失ってしまいます。しかし、ラストで「映画の歴史」を一気に流すという荒業により、そんな彼ら彼女らを「救済」します。「あなた達も、「映画」という大きな歴史の一部なのだ」と言って。デイミアン・チャゼル監督は、「何かを犠牲に偉業(=成功)を成し遂げる」映画を作ってきました。本作の「偉業」は映画そのものであり、その映画に吞まれ、「一部」となったのが、歴史の中にいた彼ら彼女らなのです。

 映画の歴史を語るのは結構なのですが、果たしてデイミアン・チャゼル監督にその資格はあるのか。甚だ疑問ではあります。いくら創作だからと言って、当時のハリウッドの描写について、私でも首を傾げるレベルの描写が多々ありますし(私の知識不足もあると思いますが)、カリカチュアライズされた狂乱ぶりも、いち解釈としてはありですが、「映画史」を語るうえでこれはどうなんだろうか。というか、そもそも、映画を通して、興味があるのは前述の点であり、「映画の歴史」そのものに微塵も興味ねぇなコイツってのが何となく伝わってきて、そこが凄くムカつくし、傲慢さすら感じます。「映画で映画を語る」作品なのに、あの時代への敬意無しというのは問題だと思うし、あまつさえ、観客に向かって「あなたがたも、この映画の歴史の一部なんですよ~」とか言ってきて、「お前の傲慢な映画史に俺を加えるな!」と思ってしまった。

 一応、全編フィルムで撮ったという画面の質感は良かった。けど、上流階級の描き方とか、キャラの描き方もテンプレ的で不満が残るし、あれだけ下品な下ネタも下品なだけ。ヴァーホーベンを見習いなさい。不満はあれど、最後まで退屈はしなかったので、この点数で。デイミアン・チャゼル君のことは、これからは生暖かい目で見守ろうと思いました。

 

No.14【ベネデッタ】 94点

 ヴァーホーベン監督の最新作。これがまた面白かった。本作の主人公ベネデッタは、彼のこれまでの作品のヒロインたちと同じく、男性が権威を握る社会でハッタリ(あるいは、真の神の言葉)と知性を武器にのし上がっていく。中盤以降の展開は怒涛で、サスペンスであり、権威を打ち倒すエンタメである。彼女が本当にキリストの言葉を聞けていたのか、ハッタリだったのか、は明言されていない。解釈は委ねられ、それこそ、劇中の通り、「信じたければ信じればいい」という感じである。

 ヴァーホーベンは、どの作品でも、劇中で示される価値観とは別個の価値観を潜り込ませており、我々の「良識」を破壊しにかかる。本作もそうで、それが「キリスト教」に及んでいる。ベネデッタが属する協会は清廉潔白な組織なわけはなく、金にうるさいいち社会的な組織だし、信者である教会の人間すら、信心深くない、欲にまみれた人間として描き、「神」を都合よく利用している存在とし、ベネデッタの「予言」を都合よく利用して権力へ上ろうとする。「善悪の彼岸」を主題とし、決して一元的な見方をしない彼らしい視点だと思う。そこで生きるベネデッタの姿は、『ショーガール』であり、『氷の微笑』であり、『グレート・ウォリアーズ』である。

 そして彼女は、最後はキリストが辿った道を体験してしまう。これはつまり、「キリストって、ひょっとしたら、本作のベネデッタみたいな奴だったかもしれないじゃん?」みたいなこと。私はここに、キリストの存在自身もいち人間として解体してしまおうというヴァーホーベンの恐ろしさを感じた。伊達に本を出してない。

 ラストは原作にはない展開だそうですが、「権威」に居座る男性を民衆が打倒するというとんでもないもので、かなり胸がすく。

 本作は、相変わらず、宗教というものにケンカを売りまくっている作品であり、「信じる者は救われる」をかなり皮肉たっぷりに述べる。しかし、その実は、「何かを信じる」ことをかなり真剣に扱った映画とも言えると思います。

 

No15【ボーンズアンドオール】 80点

 カニバリズムを主題とした映画ではあるけれど、内容は居場所のない男女の物語だった。本作におけるカニバリズムは、色んな読み解きができるけど、パンフの監督の発言から察するに、マイノリティのメタファーであるのは明白。グァダニーノ監督は『君の名前で僕を読んで』でもそうだったけど、マイノリティの物語を描くことに興味があるんだなと思った。

 物語はマレンが自らの欲望を抑えきれず、友人の指を食べようとしてしまうところから始まる。彼女は父親から捨てられ、母親を探す旅に出る。彼女は旅先で同族のリーと出会い、彼の2人で母親を探しているうち、同族とも出会う。だから本作はロードムービーでもある。

 マレンとリーは人肉を食するということで父親から見捨てられ、家族とも離れてしまっている。同族とも出会い、生き方を知り、世界の片隅で寄る辺もなく生きていく2人の姿を映していく。彼ら彼女らが本当にこの世界の片隅に生きているような錯覚を覚える。この映画全体のテンポや雰囲気が『君の名前で僕を読んで』と同じく、とてもよかった。

 本作は孤独の物語でもあって、マレンとリーは互いに信頼し合って居場所を束の間獲得できたけど、対照的なのはサリーだった。マーク・ライランスが上手いってのもあるんだけど、サリーがとにかくキモく描かれている。最後は自身の愛情をマレンへ一方的に押し付けてしまう。サリーはキモかったし、近づき方も最悪だったけど、孤独を感じていたのは事実で、この意味では、リーと合わせ鏡だったのかもしれない。

 「ボーンズアンドオール(=骨まですべて)」ってタイトルだけど、まさか「愛する人と一緒になる究極の方法は食べることだ」ってのを直球でやるとはね。「チェンソーマン」かよ。でも、食べられる側がティモシー・シャラメなんで、妙に耽美的なんだよね。テイラー・ラッセルも超良かったんだけど、やっぱり彼だからここまで美しい話に思えるんだと思う。

 ただ、グァダニーノ監督は、『サスペリア』のときもそうだったんだけど、既存のジャンル映画的な内容を結構気取った感じにコーティングしてしまうため、映画秘宝的な趣味趣向を持つ人達的には気に食わないかもしれないってのは思った。

 

No16【別れる決心】 85点

 パク・チャヌクの新作ならそれは観ますよ。これまで、強烈な内容とビジュアルの映画を送り出してきた彼だけど、本作はこれまでの作品のような過激なシーンがない。暴力もエロもない。あるのは男女の少し変わった愛の迷宮物語であった。

 話そのものはミステリーですごくシンプルなんだけど、映像がデ・パルマか!ってくらい凝ってるし、時系列もかなり入り組んでいる。だから観ていると、だんだんと「これは実は夢なのでは・・・?」と思ってしまったりする。さらに、映像でいくつもの要素が見え隠れし、それが本作を余計に謎めいた代物にしている。まさに映像そのものが迷宮。話の内容は分かったけど、映画そのものはよく分かってないという、唯一無二な体験でした。だから映画として最高。

 最後の、全てを見失い、呆然とするヘジュンの姿を観て、『めまい』を強く連想した。

 

No17【逆転のトライアングル】 77点

 予告編を観て、真っ先に連想したのはリナ・ウェルトミューラーの『流されて・・・』だった。あの作品は無人島に漂着した金持ちのご婦人と使用人の立場が逆転していくコメディだったけど、本作は格差社会そのものと、男女の関係性を逆転させる。

 冒頭から顕著なんだけど、本作にはこの社会にある「格差」をかなりいやらしく描き出す。「人は平等」と謳っているイベントでは一般人は席から追いやられてしまうし、part1においては豪華客船で優雅に過ごしている富豪たちの下で、汗かいて働いている人がいる。ただし、彼ら彼女らはモブでしかない。アビゲイルもちらっと映るだけ。監督の「意識が高いこと言ってるつもりだろうけど、実際に格差はあるんだよ」という考えが見えます。

 富豪は空虚な存在であると執拗に描写される。上辺だけ取り繕っているだけで中身はないと笑い飛ばす。無人島に着いてから、有機肥料富豪が流れ着いた妻の死体から金目の物を取り出してたのとか、ピアノの音が全部録音だったりとか。大しけが来てからは富豪たちはゲロにまみれ、加えて有機肥料を売って大儲けしていた富豪は糞まみれになり、海賊に襲われて武器商人の夫婦は自らが売った手榴弾で吹っ飛ばされる。

 富豪たちは空虚な存在ではあるけれど、無人島に着いてからの展開にはそこまで痛快さはない。思ったより富豪たちが嫌な奴として描かれていなかったからだし、あの惨事を見ると少し同情する気持ちになったからだと思う。

 描かれているのは、無人島という、一般社会のルールが通用しない場所で、立場が逆転することによって生まれる事象だと思う。それは富豪の空虚さだし、稼ぎが少ないから男性としてのプライドを失っていた男性がかなり惨めとはいえ、自らの立ち位置を得る話だし、アビゲイルという普段ならば下層にいる存在に潜在的にみんなが持っている認識だと思う。彼女が漂着したとき、誰1人として彼女のことを心配してなかったのは印象的だった。彼女のような存在には、無人島クラスにもならないと、「人」としてすら認識してもらえない。それが浮き彫りになる。アビゲイルが思いとどまってくれたのは、ヤヤが彼女を「人」として扱ってくれたからだと思う。

 

No18【アラビアン・ナイト 三千年の願い】 77点

 「物語」について描き続けてきたジョージ・ミラー監督が、満を持して「物語」そのものの映画を作った。ホテルの一室で基本的に進む、3000年にわたる歴史の物語など、『マッドマックス 怒りのデスロード』とは真逆の構成の映画でもある。

 自身の物語を持たない女性が、「物語」を持つジンとの交流を通して、自身の物語を獲得していく話。本作で語られる物語とは、つまりは教訓。人は物語から教訓や知識を得、それを語り継いできた。本作のタイトルにある「アランビアンナイト」が入っている「千夜一夜物語」などまさにそうだと思う。それは人の歴史でもある。その積み重ねが、我々に知識を与えている。

 本作の主人公のアリシアは、ジンを愛することで、自らの物語を獲得した。ジンはこれまで、おそらく一方的な愛しか持っていなかったが、初めて愛を受けた。願いをかなえることが一方的な愛情の隠喩だとしたら、本作の「教訓」は、互いに愛し、愛されることの大切さなんだと思う。こういう物語を、本作は我々に伝えてくれる。

 極めつけはあのラストショット。素晴らしかった。最後まで「物語」を信じている監督が残した、とても優しい終わり方だったと思う。正直、そこに至るまでの過程は動きがないし、そこまで面白くはなかったけど、あのラストで許せる。『Furiosa』待ってます。

 

No19【エンパイア・オブ・ライト】 90点

 非常に品のある映画だった。最近、この手の「映画愛」を語る作品が多いわけだけど、その中には監督の「映画愛」を過剰に押し付けてくる作品もある。それには辟易している私ですが、本作は監督の持つ「映画への愛」が謙虚に語られていて、非常に良かったです。

 本作には、サム・メンデス監督の考える「映画館という場所」についての想いがあります。映画館は映画を観る場所であり、そこでは、多くの観客が一緒に現実から離れ、映画に耽溺する。そしてまた現実へと戻っていく場所です。

 本作には、当時の社会情勢が画面の端々に出てきます。また、スティーブンへの差別的な発言も出てくる。ヒラリーも、彼女は精神的な不調を抱えており、どこか孤独で、満ち足りてはいない。こうした、現実に生きづらさを抱えている存在が惹かれ合って、また歩き出すまでを描いています。サム・メンデスは、映画館という場所を、こうした、傷ついた存在がその傷を癒さなくても、また歩けるようになるくらいにはしてくれる場所としています。映画には、そんな力があるんだと、声高ではなく、謙虚に主張しているわけです。冒頭の、ケガをした鳩がその傷を治してまた飛び立ったようにね。ヒラリーが初めて映画を観て、感動する終盤のシーンには、いたく感動してしまった。俺もこういう気持ちで映画観てるなぁと思ったので。

 映画館のスタッフが、支配人を除いてヒラリーを暖かく見守っているのもよかった。映画館でバイトをしていたことがあるので、持ち込みをしてきたオッサン(本当にああいう奴はいる)とか、映画が終わって、床をはいている姿を観たりして、当時のことを思い出した。

 

No20【BLUE GIANT】 82点

 原作は未読。1巻が出たときに「これは読みたい」と思ったものの、何やかんや買うのを先延ばしにしていたら続々と刊行されて追う意欲が失せてしまったというやつ。

 これは素晴らしかった。原作は「読んでると音が聞こえてくる」とまで言われているだけあって、映画となった本作でも、「音楽」にかなり力が入っていて、超立派な「音楽映画」だった。

 劇中では、大が何度も「俺たちのジャズは、聴いてもらえればきっと伝わる」と言いますが、本作でもそれが体現されています。全編オリジナルの楽曲を使い、「音楽」とそれに乗せたアニメーションで観客に「伝える」ことに特化しています。映画館で観れば、彼らの演奏に圧倒されます。最後の演奏はちょっと過剰に泣かせにかかりすぎだろと思ったりしましたけど(何回明子さんの泣き顔映すんだよ)。

 不満というか、少し気になったのが、大のメンタル強者ぶり。一応、これは彼の物語のはずなのですが、彼は終始自信に満ち、有言実行を繰り返していきます。そこには葛藤が特になく、物語を潤滑に進めるためだけの存在として機能しています。つまり、彼は最初から「完成」していて、成長らしい成長があまり見られない。代わりに、ドラマ面では玉田と雪折が補強していましたけど。後で原作少し読んだら、大まわりのドラマはゴッソリ削ってたんですね。

 後、3DCGは、散々言われてる通り、良くなかった。『THE FIRST SLAM DUNK』の後だからよりそう感じるんだと思う。そういう意味では不運だったと思う。

 

最後に

 以上が2月に鑑賞した映画です。アカデミー賞シーズンということもあり、話題作が豊富で、充実した月となりました。仕事のほうが色々と辛いため、映画にかなり救われたところはあります。

 中でも、いちばんは『ベネデッタ』です。ヴァーホーヴェンの最新作は、『ショーガール』を中世に置き換えたような傑作でした。次点が『エンパイア・オブ・ライト』です。他は、『別れる決心』が忘れがたい作品でした。

1月に見た新作映画の感想

1.『恋のいばら』 77点

 2023年の映画館初め。城定監督作品。とある男性の元カノと今カノが協力して、リベンジポルノを処分しようとする話。
 城定監督の作品はそんなに観てはいないけれど、そんな観ていない中でも、らしさは健在。展開が二転三転する脚本、男性が中心かと思いきや、裏では女性が全てをコントロールしていたという展開、眼鏡かけた女性が冷静に考えたらやべー奴など。しかし本作では、シスターフッド的要素が強い。松本穂香玉城ティナのコンビは、最初はダメダメで、無計画に事を進めては失敗するを繰り返すんだけど、その過程で絆を深め、互いの想いを吐露して親友になっていく。城定監督はポルノ映画出身の人だけど、女性上位の映画を作り続けた人だと思っていて、今回もそれだった。
 

2.『ほの蒼き瞳』 77点

 全編にわたり、クリスチャン・ベイルの心境を表現したような寒々とした画面が印象的だった。陸軍士官学校で起こった猟奇的殺人事件を追ったミステリ。クリスチャン・ベイルの相棒、エドガー・アラン・ポーを務めるのはハリー・メリング(『ハリポタ』のダドリー!大きくなって…)。このハリー・メリングが大変良くて、奇人っぽいポーに愛嬌みたいなのを上手く足してたと思う。クリスチャン・ベイルは相変わらず。
 ミステリとしては途中までは割と平凡な出来なんだけど、展開が一捻りあって、上手くミスリードされた。ちゃんと伏線も張ってあり、フェアな内容でもある。復讐の物語なんだけど、最後はやるせない気持ちになる、哀しい映画でした。
 

3.『かがみの孤城』 82点

 原作既読。原作がそもそも良くできた話なので、堅実にやれば良作になる。そして原恵一監督はちゃんと仕事してた。つまりはちゃんとした良作ということ。『バースデー・ワンダーランド』があまりにも酷かったので、少し心配していたのだけど、やはりあれがイレギュラーだったんだなと。
 原作からそうだったけど、不登校のこころの心理がかなり真に迫っている。似たような経験をした人間は、皆共感できると思う。原作は小説なので、文字で事細かに描写してあったけど、映画にするにあたり、映像で語るようにしてある。井上俊之松本憲生をはじめとした名アニメーターが集結したキャラの動きは非常に細やかで、子ども達の心情がよく伝わる(カレオでこころと母親、喜多嶋先生がハンバーガー食べるシーンが凄い)。また、こころのトラウマになっている過去のシーンでは、音響効果で、あの体験を一緒に味わえるようにしてて、かなりキツいなと思った。後、春夏秋冬でキャラの服装が変わっていたのもポイント高い。
 本作の物語上の仕掛けについては、早々とわかる。原作から速攻で分かるくらいには分かりやすかったし、映画にするにあたり、かなり序盤から映像でヒントを出しまくってるため、より理解できるようになってる。
 しかし、本作の真の意義はそこではなく、こころを始めとした、所謂「普通」を外れてしまった存在に居場所と理解者を与えることで、仕掛けは話を読みやすくするための要素にすぎない。こういった原作の良さをちゃんとアニメ映画にしていて、この点でとても良かったなと思った。
 序盤の嬉野は原作よりキモさが半減してた。後、いくら日テレと高山みなみが揃ってるからって、あの露骨なコナンネタはやりすぎだぞ!
 

4.『非常宣言』 87点

 韓国映画界のオールスターが結集した、パニック映画。形式は古典的なハリウッド映画のそれである。本作には何重にも危機的状況を作れる仕掛けがあり、事態が刻一刻と変化し、それ故に飽きさせない。そして、本作は間違いなくコロナ禍の今を意識して作られている。コロナ禍を経たからこそ、劇中の登場人物達が遭う事態を固唾を飲んで観ていくことになる。
 終盤は前半のスリリングな展開と比べ、ウェットな展開が続き、ラストはんなわけあるかぁ!な展開に。ここに辟易する人もいるかもしれないけど、私はとても良いと思った。それは本作がコロナ禍を経た映画であることが関係していて、コロナ禍という異常事態を経験しているからこそ、登場人物の切実な気持ちを理解できるし、映画だからこそ、希望を描くことはとても大切だと思うからであります。
 余談。日本の描き方について、別に気にはならなかった。確かに、航空自衛隊はそもそも発砲できないはずだし、自国民が乗ったダイヤモンド・プリンセス号にもあんな仕打ちをした政府と国民なんで、まぁ着陸拒否くらいはするだろうなと。
 

5.『ノースマン 導かれし復讐者』 92点

 予告を見たとき、「めっちゃ「ヴィンランド・サガ」!」って思った人は多いと思う。私もそうです。公式でコラボしているのであながち間違いではないと思いますが、実際観てみると、全然違いました。下敷きは「ハムレット」だそうで、そりゃ違うか。ただ、劇中何回も「これ、ヴィンランド・サガで見た!」って物が出てきた。

 話自体は、後半に意外な真実が明らかにされるものの、非常にストレートな復讐譚。しかし面白いなと思ったのは、本作がヴァイキングという言葉から連想されるようなマッチョイズムから、かなり距離をとっているという点でした。ヴァイキングたちの行為は残虐な行為としてしか描かれません。略奪のシーンが何回かありますけど、どれもがちょっとエグい。アムレートが成人してから初めてのそれは、ワンシーン・ワンショットの長回しで、いろんなことを同時並行的に見せているだけにそう感じます。しかもヴァイキングの連中は野蛮な奴らとしてしか描かれない。

 また、本作に出てくる男性は基本的に考えなしなところがあったりして、策謀とかは基本的に女性が賢しい感じ。特にニコール・キッドマンがやっぱり凄い。彼女の存在によって、本作が単純な復讐譚ではなくなっていると思う。

 先にも書いたけど、アクションシーンは見応えがある。基本的に1つのカメラで撮ったという本作では、アクションでも長回しが基本。しかもそれがアクションだけではなくて、色んなことが同時に起こる。かと思えば、ラストでは『スター・ウォーズ シスの復讐』みたいなシチュエーションで決闘をしている。「地の利を得たぞ!」って言いだしそうなレベル。

 思えば、ロバート・エガースは、マッチョイムズに関して懐疑的な人で、『ウィッチ』は女性が解放される話だと思うし、逆に『ライトハウス』はマッチョイズムに飲み込まれる人間の話だった。そんな彼がヴァイキングのマッチョイズムを冷めた視線で描くのは当然だと思う。ラストは、彼の作品らしくちゃんと昇天するんだけど、ヴァルハラに行けた彼は満足だったんじゃないのかな。

 

6.『そして僕は途方に暮れる』 80点

 「面白くなってきやがったぜ・・・」これは名言。今後、俺も使っていこうと思う。

 藤ヶ谷太輔演じる祐一は本当にどうしようもない男で、観ていると、初めはイライラする。しかし、だんだんと笑えなくなる。「俺にもこういうところあるな・・・」と思ってしまうから。祐一は誇張されているだけで、俺も逃げたくなる時はある。仕事の時とかは特にそうだ。何なら祐一みたいに逃げたい。それでも逃げたら鬼のように電話がかかってくるのが分かってるからやらないけど。だから後半は、「コイツは俺の行き着く先なんだ」と思いながら観ることになる。ここで祐一が転がり込む人間の部屋がとてもいい。皆、それぞれの生活が感じられるものになってる。

 これは劇中の祐一にも言える。祐一はおそらく、自分のクズさを多少はわかっている。でも、それを変える度胸がない、というか、どう変わったらいいかが分からない。だから変わらない。自堕落に過ごしてしまう。分かる。しかし、彼へ転機が訪れる。父親との再会である。彼はまさしく、「祐一の行き着く先」である。ここで祐一は、我々と同じ気持ちを味わう。そこでようやく、彼は変わらなければならない、と本気で思い始める。余談だけど、父親役のトヨエツが、クズ台詞をいつものトヨエツトーンで話すから最高すぎた。

 しかし、祐一にはどう変わったらいいかがさっぱり分からない。ここが本作の素晴らしい?点。この手の映画だと、ダメ人間が更生の意思を見せたら、後は割とすんなりと改善されたりする。でも、現実は違う。自堕落というか、自分のどうしようもない点なんて、そんなに変えられるものじゃない。しかも祐一みたいに受動的な人間ならばなおさら。謝ったら怒られるかもしれないので謝らない。香里奈演じる姉の言葉でようやく謝る気になった彼が発した「なんかごめんなさい」は、「謝る意思はあるけどなんかわからない」みたいな心情を的確に出していた名セリフだと思う。

 祐一も変わる意思を見せたし、これでハッピーエンド・・・かと思いきや、そうはならない。人生は映画みたいにならない。『素晴らしき哉、人生!』みたいにはならない。彼にとって、「まぁ自業自得だよね」な苦い顛末が待っている。しかし、ここからが「面白くなる」のである。どん詰まりまで来た祐一は、ここでようやく彼は前に進み始める。本作では、彼の「振り返り」が象徴的に繰り返される。そこでの彼は常に所在なさげな表情だった。けど、ラストの彼は、何なら笑みすら浮かべている。「面白くなってきやがった」そう思っている彼は、多分もう少しだけましな人間になったんだと思う。良かったね。

 

7.『イニシェリン島の精霊』 83点

 『スリー・ビルボード』のマーティン・マクドナー監督の最新作。今回は、突然絶交することとなったコリン・ファレルブレンダン・グリーソン(『ハリポタ』のムーディ先生!)の2人の諍いを描く不条理な寓話。「ちょっとした諍いがとんでもない事態を招く」という点で、『隣の影』を思い出した。ブラックさ、犬が酷い目に遭う、という点でも、似通った点がある。

 閉鎖された空間で生き、「これまで通りの生活を続けたい」と願う素朴なコリン・ファレルと、寿命を考え、「これまでの生活をやめ、何かを成し遂げたい」と願うブレンダン・グリーソン。2人は親友だったが、両者には深い溝がある。どっちもコミュニケーション不足で、自分の都合ばかり押し付ける。グリーソンにとって、コリン・ファレルはウザくて仕方がない(この表現は的確だと思ってる)し、コリン・ファレルに関しては「俺何で嫌われてんの?」と困惑するばかり。コリン・ファレルも大概で、近づいてきたら指を詰めるからな!と言われてるのに、意に介さずに絡みにいく。そこには「昔と今は同じに決まっている」という希望的観測がある。

 彼らの諍いは、そのまま遠くの地で起きている内戦にもなぞらえられる。ファースト・ショットが示しているように、本作の基本的な視点は「神の視点」であって、それはイコールで我々観客の視点になる。我々は諍いをしているおっさん2人を「何やってんだよ馬鹿だなぁ」と滑稽に思いつつ観ているものの、次第に「これ身に覚えがあるかもしれない・・・」と感じてしまう。そしてそれらは犯してきた諍い全てに繋がって、「人間、滑稽・・・!」となる。

 本作最大の悲劇は、2人の間に、「島を出る」という選択肢がないこと。それは「選択ができない」のではなく、「出る」という選択肢そのものがないのである。同じ場所、同じ関係しかない場所では、ケリー・コンドンのように思い切って出ていくことも重要だと思う。これは全てに当てはまる点で、「今ある世界」が全てとしか思えないことが、人間にとっての悲劇なんだなと思った。

 

8.『SHE SAID その名を暴け』 87点

 ハーヴェイ・ワイシュタインの性暴力を告発した女性たちの物語。話の軸はジョディ・カンターとミーガン・トゥーイーの2人で、彼女たちが如何にしてNYに告発記事を載せたかを描く。原作は映画秘宝(この文脈で出すと少し気まずい)の書評で知り、近くの図書館で借りて読んでいた。

 タイトルは「SHE SAID」つまり、「彼女は言った」。それは、被害時の「NO」だし、告発そのものだと思う。証言を得るため、記者2人は各地へ飛び、被害者を訪ねる。しかし、皆が揃って「オフレコ」を望むか、被害そのものを語りたがらない。その繰り返しが映画に停滞感をもたらしている感じはあるけど、これこそが記者2人が感じていたことなんだと思う。劇中でジョディが言っていた、「壁」を我々も感じる構成になってる。と思う。

 本作は、実は結構脚色が上手い作品だと思う。原作がルポだから展開が単調ではあるんだけど、その単調さが先述のような効果を生んでいると思うし、何より、冒頭である。映画に憧れたローラ・マッデンが被害に遭って逃げ出すあれ。一発で、事件の悲惨さを突き付ける。そして、我々も観ていた映画の裏ではこんなことが起こっていたのか、という気持ちにもなる。そしてそのローラ・マッデンが中盤で出てきて、自らの人生について語ることで、本作は、性暴力によって人生を壊された人々の物語でもあるとわかる。また、冒頭にトランプ当選のシーンを加え、「世界を変えられなかった」記者がリベンジをする話にもしていた。

 本作に関して、新鮮だなと思った点は、劇中2人の女性記者の描き方。この手の作品だと、主人公の女性たちは「家庭か仕事か」みたいな葛藤が描かれることが多かったけど、本作では割と普通に育児やパートナーとの生活を送っている。そしてそれが、「子どもの未来のために」的な側面も出すことに成功している気がする。

 また、実際の性暴力のシーンでは、実際の録音を使い、非常におぞましいものとして描いている。書籍を読んだ時もおぞましさはあったけど、音声になることでそれがより強調されていたと思う。直接的には描かないけど、被害者の声をたっぷりと聞かせた後にホテルの廊下を映しながら声だけを流すあの演出は恐ろしい。

 本作は告発の映画で、「主人公」は証言した女性たち。記者2人はもちろん主演だけど、狂言回しに近い。ワインシュタインの告発であると同時に、現時点での、女性への性暴力や性差別を生み出している社会全体の告発でもある。これは映画業界の話であるけど、色んな「SHE SAID」がある。ワインシュタインの件に関しては、この映画が作られたことでようやく一回りしたのかもしれないけど、本作のようなことはどこでも起こっているんだと思う。それを告発するには勇気がいる。それがよく分かるからこそ、最後に「本人」としてアシュレイ・ジャッドが出てきたとき、とても、感動した。オフレコを望んだ人も、実名を出した彼女のことも同等に扱っている点もいい。

 

最後に。

 1月に観た新作映画は8本でした。一番面白かったのは『ノースマン』かなぁ。2月は怒涛の新作公開ラッシュですので、頑張ります。

2022年に読んでよかった漫画10選

 皆様。こんにちは。いーちゃんです。2023年ももう1週間が経ちましたね。今回は、2022年に読んだ漫画10選を発表します。ベスト10というわけではなくて、10選で、ランキングではありません。縛りとしては、「2022年に新刊が出たシリーズ」になります。では、行ってみよう!

 

「あかね噺」

 週刊少年ジャンプ連載中の落語を題材とした漫画。まず、落語の表現が上手すぎる。噺家の噺に客が見入っていく描写、噺家が「場」を掌握する描写が上手くて、「落語」を完全に絵で表現できている。「声」が無いのに、「落語を聴いている」気持ちにさせられる素晴らしさに圧倒された。

 また、それとは別に、落語を題材としながらも、縦軸は「父親を破門した権威に対する挑戦」という、めちゃくちゃ王道のジャンプ漫画というのが素晴らしい。しかも若手集めて大会とか開いちゃってるし。今後が楽しみすぎる。

 

「うみべのストーブ」

 大白小蟹先生の短編集。タイトルにもなっている「うみべのストーブ」を始め、どの話も素晴らしい、珠玉の作品。どの話も、日常の中にあるちょっとした不安に対して、ほんの少しだけ救いを与えてくれるような、そんな内容でした。私は読み終わって、少し、心が温かくなったような、少し前向きな気持ちになれました。

 

「百木田家の古書暮らし」

 冬目先生の最新作。神保町で祖父の古本屋を継いだ次女と、一緒に暮らす長女、三女の暮らしを描いた恋愛漫画恋愛漫画と言いながら、実際にやってることは古本屋業界のあれやこれやだったりして、肝心の恋愛は一方通行だったりする。そこはやっぱり冬目先生で、恋愛よりも今のところは百木田家の暮らしぶりをスケッチ風?に描くのがメイン。これが何とも心地よくて、読んでいて落ち着く漫画。

 

ゴールデンカムイ

 言わずと知れた大ヒット作。2022年完結したので入れた。連載時は終わり方に賛否ありましたけど、単行本化の際に大幅に加筆され、見事に大団円を迎えた印象。アクション、グルメ、ギャグ、ウェスタン・・・ありとあらゆるジャンルを網羅した、エンタメの極致のような素晴らしい漫画でした。

 

「金色のガッシュ!!2」

 「また会おう、ガッシュ!!」

 この台詞で完結した「金色のガッシュ!!」から14年。遂に我々は再会した。リアルタイムで前作を読み、完結まで付き合った身としては、清麿とガッシュの再会はあまりにも感動的だった。「前作を読んでいたときの自分に対し、恥ずかしくない大人になれているか?」と自問しながら読み進めていた。

 

「タコピーの原罪」

 2021年から年を跨ぎ完結した、ジャンプ+発の衝撃作。虐め、毒親など、この世界にあるあらゆる悪意を容赦なく描き出した。最初こそ単純なタイム・リープものかと思っていたが、タコピーの身勝手な「善意」が事態を二転三転四転させ、どんどん最悪にしていく展開に、絶望とともに早く先を読みたいという欲が抑えられなかった。つまりは不謹慎だけど、超面白い。

 

「チ。-地球の運動について-」

 地動説を扱った漫画だけど、あくまで地動説は題材の1つでしかなく、メインは「人間の知性」についての話だと思った。人間の知の歴史は、誤りと訂正の繰り返しで、その時代の人々が「知りたい」と思い、研究したことが受け継がれて、現代の世界に至る。そしてそこには、大量の「血」も流れる。8巻ながら、壮大な歴史物語だったと思う。

 

「ブランクスペース」

 今年完結した、「空白」を巡る物語。2人の少女の友情物語として素晴らしかったけど、何より終わり方が神過ぎた。読み終わって、しばし茫然としていた自分がいた。全3巻というタイトさもあり、大変満足した。

 

「ルリドラゴン」

 週刊少年ジャンプで休載中。人間とドラゴンのハーフであるルリが、ある日突然「ドラゴン化」してしまう漫画。と言っても、「他者と違う」ことから来る差別などは本作では発生しない。ルリのドラゴン化は自然と「個性」として受け入れられる。3話で、ルリがクラスの中に「溶け込んだ」ページが秀逸だった。いくらでもファンタジーに寄れるのにそうせず、あくまでも「ドラゴン化した女子高生の日常」に徹していたのが素晴らしかった。眞藤先生には、無理せずに連載を続けていただければと思っています。

 

ONE PIECE

 出た。2022年、『FILM RED』効果、そして最終章突入効果で何度目かのブーム到来中の本作。実際、ここ数巻は新世界編に入ってから一番面白いし、何より、ワノ国の宴シーンが昔みたいに本当に楽しそうに読めた。申し訳ないけど、新世界に入ってから尾田っちだけが楽しそうで疎外感を覚えていたんだけど、久しぶりに尾田っちと一緒に「ONE PIECE」を楽しむことができた。最終章も駆け抜けてほしい。

 

 

 以上が2022年読んでよかった漫画10選です。選出作品が偏ってるのは勘弁してください。過去作で良かったのは「A子さんの恋人」でした。薦めてくれた友人に感謝。辛い事ばっかなので、2023年も、たくさん漫画を読むと思います。良い漫画に出会えますように。