暇人の感想日記

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「ヒーロー」としての責任の自覚【スパイダーマン ファー・フロム・ホーム】感想 ※ネタバレあり

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88点

 

 

 『スパイダーマン ホームカミング』より2年ぶりのMCU版『スパイダーマン』。MCU全体の前作は、シリーズの大団円である『アベンジャーズ/エンドゲーム』。『エンドゲーム』は、広げ切った風呂敷を完璧に畳んでみせた最高の完結篇であったわけで、個人的には大満足すぎる作品でした。しかし、同時に疑問を感じました。「これからどうするんだ」と。あまりにきれいに完結したため、ここからの展開は相当難しく、やり方によってはMCU自体の存続も危うくなります。まぁMCUですから、そこは織り込み済みでしょうし、そこまで不安には感じずに鑑賞しました。

 

 鑑賞してみると、『エンドゲーム』の後の作品として、『スパイダーマン』2作目として、そして、MCU全体の次のフェーズへの繋ぎとして、完璧な作品で、改めて「MCU恐るべし」と感じました。

 

 

 『エンドゲーム』は壮大な作品でした。戦いの規模は宇宙にまで広がり、これまで出てきた全てのヒーローが集結し、サノスに勝利を収めていました。しかし、それによって、市井の人々の描写がほとんどなくなってしまったという欠点を生んでしまいましたし、同時に、新たな疑問点(5年後の世界はどうなったのかとか)も生まれてしまいました。本作では、この部分を補完しています。冒頭、ホイットニーヒューストンの「Always love you」が流れ、市井の人々から見た、ヒーローを失った喪失感を描いてみせます。ちなみに「消えた人が復帰する」ことを茶化したシーンは爆笑しました。

 

 そして、本作は、前作『ホームカミング』で「ヒーロー」となった彼が「責任を自覚する」という成長物語となっています。その重責となっているのが、アイアンマンことトニー・スターク。世界を救ったヒーローである彼は、現在は神格化され、越え難い存在となってしまっています。彼の後継者としての期待を一身に背負ってしまっているピーターは、その重責に悩むわけです。しかもお年頃だから気になる女の子はいるわ夏休み満喫したいわと高校生らしい欲求もかなり持ち合わせているわけです。ピーターは、この重責と学生生活の間で悩んでいきます。

 

 

 そんな彼が今回立ち向かうのは、ミステリオ。演じているジェイク・ギレンホールが最高にハマっているキャラです。本作では、彼はピーターにとって、まずは「頼れる大人」として登場します。トニーを目の前で亡くし、悲しみに暮れているピーターにとっては、保護者代わりとなる存在として映り、中盤で完全に信頼してしまいます。しかし、ここからが本番でした。私は映画秘宝を読んで、彼についての知識は持っていたので「何か裏があるだろう」くらいには思っていましたが、中盤のあの展開にはビックリしました。ここで、ミステリオに対する印象がガラッと変わり、「頼れる大人」から、「大人の狡賢さ」を持った存在となるのです。本作でピーターが対峙しなければならないのは、こうした「大人」なのです。

 

 また、彼らの面白いのは、彼らのやっていることが、MCUというか、ヒーロー映画全体のメタ的な面を持っている点.彼らはドローンを駆使して映像を作り出し、被害を「演出」しています。そこで活躍するミステリオと信じる民衆は、「ヒーロー映画を信じている」私たちと「それを作っている制作者たち」の姿に重ねることができます。そしてこれは、「ヒーローがいる世界」を信じられるようになったからこそできる犯罪であり、同時にこの要素は、ピーターが「真のヒーローになる」ことと繋がっていると思います。

 

 ただ、ミステリオとその一味には、結構同情すべき点もあって、彼らは要するに、トニー・スタークの被害者なんですよね。アイツって結構ひどい奴だし、ぶっちゃけ恨みもかなり買ってた。本作は、彼の被害者たちの復讐なんです。つまり、本作でピーターが対峙する敵は、トニーの負の側面が生んだ奴らであり、同時に狡猾な「大人」なわけです。

 

 

 そんな敵に対し、ブレブレなピーターは1度は完敗してしまいます。しかし、ハッピーという、トニーの理解者の言葉で自分を取り戻し、自らの手でスーツを作り上げます。ここの姿は完全にトニー・スタークのそれ。片鱗とはいえ、ピーターがトニーの精神を「継承」した瞬間でした。

 

 「偽物」のヒーローを倒し、自らが責任を背負い、「真のヒーロー」として活躍する決意をしたピーターは、遂にニューヨークの街をスイングします。あの時の爽快感は凄い。そして本作を通し、「大いなる力には、大いなる責任が伴う」という『スパイダーマン』の核ともいえる概念が浮かび上がります。トニー・スタークという重責を背負いつつ、ヒーローとしての力を使う決意をしたピーター。その姿勢に、ファースト・アベンジャーズ無き後のMCUが、次の段階に入ったことを強く感じました。

 

 このように本作は、『エンドゲーム』の後の作品として、『スパイダーマン』2作目として、そして、MCU全体の次のフェーズへの繋ぎとして、完璧な作品であったと思います。でも一番驚いたのはまさかのJ・Kシモンズの登場でした。

 

 

前作。こっちも好き。

inosuken.hatenablog.com

 

 MCU前作。

inosuken.hatenablog.com