暇人の感想日記

映画、アニメ、本などの感想をつらつらと書くブログです。更新は不定期です。

2021年新作映画感想集⑤

【クー!キン・ザ・ザ】

クー!キン・ザ・ザ

42点

 1986年にソビエト連邦にて公開され、カルト的な人気を博したディストピアコメディー・SF映画のアニメ版。監督はオリジナルの実写版と同じくゲオルギー・ダネリヤ。設定の一部に変更はありますが、基本的な内容は同じだそうです。

 世界的なチェロ奏者のウラジーミルとDJ志望の甥・トーリクは、ある日、宇宙人のテレポート装置によって別の惑星に飛ばされてしまう。星の住民の言葉は「クー」と「キュー」のみ。不思議な惑星の中で、2人の地球へ帰還する旅が始まる。

 アニメーション的に優れているとは思えないですし、話のトーンも、不思議なテンポ感ではありますが、スローで退屈。不思議な惑星ということで、その惑星独特の文化やガジェットで楽しませてくれればいいのですが、その面も弱い。ハッキリ言って、対して褒めるところがない作品でした。強いて言うなら、メインの宇宙人2人が良い感じにがめつくてムカつく感じですかね。嫌い、というほどではないですが、無味乾燥、という点で、今年ワーストの1本。

 

 

【マルコム&マリー】

マルコム&マリー

62点

 2021年2月5日よりNETFLIXで配信。主演は『TENET』のジョン・デヴィッド・ワシントンとMCUスパイダーマン』シリーズのゼンデイヤ。監督は「ユーフォリア」などの脚本家であるサム・レヴィンソン。ちなみに、ゼンデイヤとは「ユーフォリア」で仕事を一緒に行っています。

 映画監督であるマルコムは、妻であるマリーと共に、ある授賞式から上機嫌で帰ってくる。賞を獲得した喜びとアルコールに酔った勢いでどんどん話をするマルコム。一方、マリーは終始不機嫌な顔で、マルコムにハッキリと自身の意思表示をする。それが2人の、壮絶な口論の始まりだったのだ・・・。

 本作は全編モノクロで撮影されています。おかげで、授賞式で華々しい成績を収めた夫婦を撮ったとは思えないほど、画面からは冷え切った印象を受けます。それはカメラワークにも表れていて、マルコムを捉えるカメラは躍動感あふれるものなのですが、マリーを捉えるカメラは静的。つまり、この時点で2人には決定的な温度差があることが分かります。

 この妙な温度差が何故起こっているのかは、2人の口論から分かってきます。そこにあるのは、夫婦という、一筋縄ではいかない関係性であり、約100分ほどの映画の中で2人の力関係や不平不満があっち行ったりこっち行ったりする展開はとても面白く、同時にスリリング。そのため、本作は必然的に長回しが多いわけですが、ジョン・デヴィッド・ワシントンとゼンデイヤはそれにしっかりと応えており、さすがと言わざるを得ません。ラスト、2人が外で窓の淵内に収まったショットからは、私はこれからの2人の前向きな未来を感じ取れました。

 

 

【グリード ファストファッション帝国の真実】

グリード ファストファッション帝国の真実

75点

 人気ファストファッション・ブランドのTOPSHOPを擁しながらも、2020年に破産したフィリップ・グリーン卿をモデルとした作品。監督はイギリスの名匠・マイケル・ウィンターボトム。主演はウィンターボトム作品の常連であるスティーヴ・クーガン。財を成した富豪の薄っぺらさ痛烈に描いた、ブラック・コメディ映画です。

 舞台はエーゲ海のミコノス島。そこではファストファッション界で帝国を作り上げたマクリディの誕生パーティーの準備が行われていた。彼はスキャンダルで進退窮まっており、ここで一発豪勢なパーティーを行い、威厳を世界に知らしめたい、という狙いがある。それと並行して、マクリディのサクセスストーリーが痛烈な批判込みで語られる。混沌とするパーティーは、無事に開催できるのか!?

 本作に一貫しているのは、マクリディの「薄っぺらさ」でした。話の軸となっているパーティーはそもそも「自分を大きく見せたい」という虚栄心で成り立っており、円形闘技場はハリボテで、名言や格言は『グラディエーター』とかアプリから引用して、教養が無いこともバレバレ。大物ゲストからはパーティーへの出席を却下され、仕方なくそっくりさんを連れてきたりしたり、「俺は難民出身だから難民の気持ちが分かるんだ」とドヤ顔で語っていたかと思っていたら景観の邪魔とか言ってシリア難民を追い出してしまうなど、とにかく「見せかけ」だけの人物として描かれます。

 経済で利益を出す方法の1つは、安く作って多く売る、です。人件費を可能な限り安く抑え、単価を安くし、それを大量に売りさばく。それによって利益を出す。今、世界中で行われている資本主義の搾取構造です。本作のマクリディも、この方法でのし上がってきました。その過程を「サクセス・ストーリー」として皮肉たっぷりに描いてみせ、資本主義の本質を炙り出してしまいます(日本ではユニクロの社長の柳井さんとか、後は竹中平蔵が代表例)。そうして築き上げてきた帝国は、我々の社会にしっかりと根を下ろし、我々の生活の一部になってしまっています。我々自身も、この搾取構造の一角を担っているのであり、それを改善しない限り、「帝国」は終わらない。そう思えた映画でした。

 

 

【クルエラ】

クルエラ

70点

 『101匹わんちゃん』に出てくるヴィラン、クルエラのオリジン。監督は『アイ、トーニャ 史上最大のスキャンダル』のクレイグ・ギレスビー。脚本は『女王陛下のお気に入り』のトニー・マクナマラ。主演のクルエラは『ラ・ラ・ランド』のエマ・ストーン。クルエラの最大の敵のような存在として、エマ・トンプソンも出演している。

 ディズニー初のパンク映画。だと思う。伝統的なファッションではなく、自由な服装で下剋上を図るクルエラを力強く描きます。これには、「型」にハマることなく、「私は私のままで生きる」という強い意志を感じ、凄く良いなと思う。

 『アイ、トーニャ』のような突飛な語り口は鳴りを潜めてはいますが、主人公が2人の男性と犯罪に手を染めていく、敵な話は似通っていますし(こっちは復讐劇であり、ちゃんと成功するという違いはありますが)、ファッション界のパワーゲーム的な側面は『女王陛下のお気に入り』感があります。

 ただ、「ヴィランの誕生」という割には、敵側がゲスなので、クルエラにヴィラン感があまり感じられないという問題はあります。後、少し長い。