暇人の感想日記

映画、アニメ、本などの感想をつらつらと書くブログです。更新は不定期です。

2021年新作映画集④

【21ブリッジ】

21ブリッジ

 

77点

 

 70年代に製作されたアメリカ映画の風格が漂うクライム・アクション。チャドウィック・ボーズマンの遺作でもあります。

 監督のブライアン・カークはマイケル・マンの影響を公言しているらしく、本作にもその影響が随所に観られます。まず撮影がマン監督の『コラテラル』と同じポール・キャメロンで、ニューヨークの街並みを実に色気のある画面に仕立てています。また、1夜の物語である点も共通しています。

 作品の内容もマン監督が製作している70年代アメリカ映画の風格を持つクライム・アクションであり、『フレンチ・コネクション』のような、逃亡犯との電車乗る乗らないの駆け引きがあったり、黒人警官の話である点から、シドニー・ポワチエ主演の『夜の大走査線』を思わせます。

 しかし、本作はジャンル映画としてだけでは終わりません。現代の問題を上手く盛り込み、そしてそれがタイトルである「21ブリッジ」に繋がっていきます。この作りはとても巧みであり、息を呑みました。そしてこの問題に真摯に向き合い、自身の正義を全うするチャドウィック・ボーズマンの姿には、『ブラックパンサー』以降、彼自身が背負ってきたものが見えました。

 

チャドウィック・ボーズマン主演作。

inosuken.hatenablog.com

 

 

【ザ・スイッチ】

ザ・スイッチ

 

77点

 

 「私たち・・・」「俺たち・・・」「「入れ替わってる~!!!」」(BGM:RAD WINPS「前々前世」)。殺人鬼と女子高生の中身が入れ替わってしまった!という、出オチ感満載のネタ1つで約100分映画を引っ張るというもの凄い映画。とはいえ、さすがはクリストファー・ランドン、普通に楽しんで見ることは出来ました。

 本作は、これまでのホラー映画的な「お約束」をひねった形で出しています。まず、「女子高生と殺人鬼」という、狙う側と狙われる側(ファイナル・ガール)が入れ替わるという設定自体がそうです。しかもそれによって、さっきまで『ハロウィン』のブギーマンみたいな感じだった殺人鬼のおっさんが女子高生感丸出しのリアクションをしたりする面白さが生まれ、地味な女子高生は急にクールになって学園でちやほやされます。しかも、女子高生の姿で殺人を行ってくれる関係上、殺し方に創意工夫が凝らされてます。殺される連中は皆ゲスい奴らで、この辺には一種の爽快感があります。この点は、本作に学園ものを組み込んだことがかなり上手く機能していると思います。話自体はガバガバだし、時計の伏線をもう一度繰り返したときは勘弁してくれと思ったが、楽しめました。

 

 

【楽園の夜】

楽園の夜

 

78

 

 『The Witch 魔女』のパク・ジョンフン監督の韓国ノワール。ある組織より狙われた男、テグと、身を隠した先で知り合った少女、ジェヨンの物語。

 ジェヨンのオリジンみたいな映画で、どこにも居場所のない彼女がテグと心を通わせながらも引き裂かれてしまう。そして覚醒し、敵対する組織の構成員全員を血祭りにあげる展開は壮絶ながらも痛快。本作の主演は実質彼女と言っても良い。あのラストには、北野武監督の『ソナチネ』感を覚えました。

 逃走するテグだけど、味方だと思っていた人間が本性を表し、どんどんクズになっていって、逃げ場がなくなってしまう展開は辛い。面白いのは、味方だと思っていた人間がクズ化するのとは逆に、敵側のマ理事の魅力が増していく点です。しかし、彼の中にある、「生きのびる」という執念が生み出すアクションの勢いはさすが韓国映画って感じです。

 ショットも計算されていて、テグが逃走をするシーンなどは暗く、差すような冷たさが感じられ、ジェヨンと交流をするシーンでは暖かな印象を受けます。ここから、テグにとって、ジェヨンとの交流が結構かけがえのない時間であったのだと分かります。逆もまた然りです。

 

 

【JUNK HEAD】

JUNK HEAD

 

80点

 

 堀貴秀監督が個人制作で完成までこぎつけた、『DAU』プロジェクトとはまた違った、ストップ・モーションアニメでSF超大作をやってしまおうという、常識的には考えられない試みを実践してしまった狂気の作品です。

 ビジュアルはハッキリ言ってグロテスク。男性器的なデザインのクリーチャーがたくさん登場し、残虐なシーンも多いです。生理的な嫌悪を覚える箇所も多々あります。しかし、それとは裏腹に、本作のトーンそのものはコメディで、笑ってしまうシーンも多い。キャラクターが基本的に皆惚けていて、妙な愛嬌があることもこの雰囲気作りに貢献しています。そしてしっかりと最後には泣かせてくれるという素晴らしい設計。

 全てが手作りであり、全シーンがセンス・オブ・ワンダーというか、観ていて工夫が感じられて楽しい。キャラは作り物のはずなのですが、ちゃんと生命が宿っており、動いているように見えます。アクションシーンもとてもクール。本作は主人公の冒険ものの側面もあるのですが、それが世界観の紹介にもなっています。どうやら本作は『JUNK HEAD』プロジェクトの1作目であるらしく、そのためか作品そのものは途中で終わっています(この辺も『DAU』っぽい)。まだまだ広がってゆくであろう世界観が、今から楽しみです。

 

スタジオライカ作品。

inosuken.hatenablog.com

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