暇人の感想日記

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素材は良いのに、完成品は残念な作品【るろうに剣心 最終章 The Final】感想

るろうに剣心 最終章 The Final

 
80点
 
 
 2012年に公開された『るろうに剣心』は衝撃的な作品でした。「漫画の実写化」と言えば、一部の成功例を除き、横たわるのは死屍累々であり、「上手くいかない」がジンクスでした。当然、『るろうに剣心』の制作発表時は誰もが思っていたと思います。「上手くいかない」と。私もその1人でした。「勘弁してくれよ」と。
 
 しかし、公開された予告を観てみれば、画面の作り込みや佐藤健の思った以上にハマった剣心の姿に感心し、怖いもの見たさに鑑賞。その結果、あらゆる面で圧倒されました。まず、漫画のキャラの実在感が凄かった。この手の実写化って、上手くいかない大きな理由に、「コスプレ感」があると思うのです。漫画のキャラは現実ではあまりないであろう恰好や言動をするため、実写にしたときに現実世界からどうしても浮いてしまいます。『るろうに剣心』はそこを完璧にクリアしていました。ドキュメンタリー出身の大友監督が「龍馬伝」で発揮した画作りが上手くハマり、剣心や薫、刃衛、斎藤を完璧に「実写化」してみせていました。
 
 次に圧倒されたのはシリーズの売りであるアクション。ドニー・イェンと共にスタント・コーディネーターを担当した谷垣健治さんの監督によるアクションは圧巻であり、「速すぎて目で追えない」飛天御剣流を実写化してみせていましたし、原作にあったトンデモ技もビジュアル的にしっかりと実写化してみせていたのです。
 
 以上のように、漫画の世界観を現実の実写に落とし込む、という意味では完璧と言ってもいい作品となった1作目に続いて公開されたのは、原作で最大の盛り上がりを見せた京都編。こちらは話のスケールを何倍にも大きくし、一大剣劇アクション映画を作り上げてみせました。

 

るろうに剣心

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 前置きが長くなりましたが、『るろうに剣心』という映画シリーズは「実写化」のハードルを塗り替えたエポックメイキング的な作品であり、私にとってはリアルタイムで追っている剣劇エンターテイメント作品です。そんなシリーズがこの度、7年振りに「完結篇」として公開されます。しかも映像化されるのは何気にこれが初となる「人誅篇」と、傑作OVAがある「追憶篇」。「追憶篇」はOVAが超が何個ついてもいいレベルの大傑作で分が悪いのですが、日本映画でこれほどのエンターテイメント作品は中々お目にかかれないので、期待を以て鑑賞した次第です。
 
 本作は「良い点」と「悪い点」がハッキリしている作品です。それぞれについて書いてみたいと思います。まず、「良い点」です。ビジュアル面は本当に素晴らしいです。グリーンバックではなくて、本当にセットを作って、そこで役者が芝居をし、アクションを繰り広げている。だからアクションをしていると本当に物が壊れるし、迫力が出ます。で、それに加えて、モブの多さですよね。コロナ禍前に撮影できたことが幸いし、今ではというか、近年の日本映画でもあまり見ないレベルの「密度」のモブシーンが見られます。この画面作りによって、一気に私は映画の中に惹きこまれました。
 
 また、アクションも圧巻の一言。白眉はモブとの大乱闘です。冒頭、掴みでいきなり縁が無双するのですが、そこが本当に素晴らしい。空間を上手く使ったアクションはもちろん、新田真剣佑の身体能力の高さを見せつけられます。そして何と言っても、終盤の大乱闘。『京都編』でも100人斬りがあったと思いますが、終盤のアレはその進化形ともいえるものでした。そもそも、飛天御剣流は、多対一を想定した剣術。漫画ではそこまで描かれませんでしたけど、本作は実写であることを活かして、飛天御剣流の本領を発揮させています。あのアクションを観るだけでも、本作にはお金を払う価値があります。他には、1対1のアクションでも前半の乙羽戦や、ラストの縁戦も素晴らしかった。縁戦はBGMは一切流さず、ひたすら2人のアクションをカメラに収めていて、2人の間の憎悪や贖罪といった感情のぶつかり合いをしっかりと描くことに注力していたのかなと思います。

 

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 さらに、「話の筋」も悪くはない。原作にあった「剣心の贖罪」というテーマに加え、原作の終盤にあった「新しい時代への1歩」という要素をプラスしています。それは既に冒頭から示されていて、いきなり蒸気機関車が出るんですよね。蒸気機関車といえば明治の文明開化の象徴の1つです。翻って、本作の話の主軸は、どこまで行っても「過去」です。剣心は人斬りの贖罪のために生きているし、縁は巴の敵を討つことのみに執着しています。だからこそ、巴の笑顔を取り戻し、進むべき道を見つけた剣心が最終的に「大きな1歩」を踏み出し、縁に打ち克つのです。この剣心の「1歩」が幕末から明治へ移り変わる世の中の進歩と合わさっています。また、「囚われている」物語ということならば、宗次郎が出てくるのにも納得は出来ます。そしてそれは社会だけではなく、世代についてもそう。これまで空気だった弥彦は次世代代表ということでちょっとだけスポットライトが当たり、操も蒼紫から御庭番を引き継ぎます。ラスト、「1歩」を踏み出した剣心は薫と共に肩を並べて歩いていきます。「自分たちの物語」が終わり、次世代の、新しい時代の物語が始まることを予感させられるラストシーンで、あそこは素晴らしかったですし、見事だと思いました。
 
 縁のキャラ造形も「なるほど」と思えるものでした。「人誅編」って、私闘なので、話のスケールが「京都編」よりも小さくなるんですよね。だから話としては小ぢんまりとしている。本作ではこの小ぢんまり感を少なくするため、上述のモブシーンの大乱闘や、中盤のセットを使った大規模な東京襲撃シーンを描いたりしていました。しかし、それ以上に、縁という存在に付加したメタファーに、「なるほどな」と思った次第です。大友監督は縁にテロリスト的な側面を付加させていて、個人の復讐が関係ない周囲の人間まで巻き込んでしまう姿も描いています。そして、この縁の憎しみを食い止めるためには、その憎しみを受け止め、贖罪をするしかないのだというあの決着。これによって、スケール感もそうですが、より現代的な物語になったと思います。後は新田真剣佑ですよね。前から凄いスター性があると思っていましたけど、今回も佐藤健と並ぶ圧倒的な存在感を放っていました。
 
 絶賛してますけど、ここから批判します。ハッキリ言うと、私はこの映画、全体的にダメだと思うんです。これからそれを書いていきたい。「話の方向性」「アクション」は悪くない。でもね、それ以外がガタガタなんですよ、この映画。ドラマパートの演出が酷すぎる。悲しいシーンには悲しいBGM、勇ましい時には勇ましいBGMを大音量で垂れ流す、同じ回想を事ある毎に何度も挿入する、喚き散らす役者たちと、とにかくダメ映画のダメ映画たる所以が多すぎる。だから、上述のような意図が大変伝わり辛い作品となってしまっています。
 編集も酷く、全体的にガチャガチャしている。薫が攫われたシーンを入れる必要が無いのにわざわざ挿入したり、アクションも意図は分かるけど、とにかくただ撮って繋いでるだけにしか思えない。今回は「目で追えない」のではなく、観客に追わせることを映画側が放棄しているようにしか思えなかったし、ドラマパートは(好意的に言えば)じっくり役者を映しているのでもっさりしている。だから、アクションパートはやたらスピーディなのにドラマパートがやたらもっさりとしているというアンバランスな映画になってしまっています。それでも何とか観られるのは役者や画面の贅沢さ、アクションという点で、もう何か、映画全体がこれに寄りかかりすぎなのです。
 
 後、公開の順番についても、『The Beginning』の後に公開した方が良かったのではないかと思いました。何故かというと、本作は、上述の通り、話の重心が「過去」なんですよね。つまり、『The Beginning』の内容を観てからの方が圧倒的に呑み込みやすいはずなのです。この順番の方が剣心の贖罪というテーマも浮き彫りになるし、縁の憎悪も分かりやすいと思うのですが、ダイジェストなので、その辺がボンヤリしているのですね。で、贖罪に関して言うと、上述のような話の筋にするならば、絶対に原作のあの台詞は必要だったと思います。「剣と心を賭し、この戦いの人生を完遂する」ってやつ。私はアレが剣心の縁への、巴への贖罪の意志だったと思っているし、あの台詞があったからこそ、剣心が踏み出した1歩に説得力が生まれました。本作ではこれが無いんですよ。だから、剣心の独りよがり感が増している気がするのです。まぁ十字傷があるから一生背負ってはいくんだろうけどさぁ。
 
 以上のように、本作は、意図とアクション、美術といった、素材は素晴らしいと思いました。ですが、それらを調理する監督の力量に問題があるのでは・・・?と疑わざるを得ない、大変惜しい映画でした。一応、『The Beginning』も観るよ!
 

 

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