暇人の感想日記

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世界が持つ二面性【アス】感想 ※ネタバレあり

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93点

 

 

 前作『ゲット・アウト』が低予算ながらサプライズ・ヒットを飛ばし、更にはアカデミー賞脚本賞を獲得してみせた新進気鋭の監督、ジョーダン・ピール。今や映画界で最も注目されているであろう彼の、監督第2作です。私は前作『ゲット・アウト』は観ていて、大変楽しめましたし、こういう才能ある監督の作品をリアルタイムで追っていけることは今に生きている人間の特権だろうと思ったので、今回鑑賞した次第です。

 

 鑑賞してみると、後半は前作にもあったトンデモ展開が世界規模で繰り広げられるので、そこが気になると微妙な感じになります。しかし、前半のホラー展開は完璧であり、後半のトンデモも作品のメッセージの具現化として受け入れることができなくもないので、私は総合的には大変楽しめました。

 

 

 序盤からもうセンス抜群で最高です。冒頭は幸せな家庭を築いているウィルソン一家が映されます。そこからは、彼らの幸せな日常が続きます。それは一点の曇りもない理想の家庭です。しかし、そこには終始、どこか落ち着かない不穏な空気が漂っています。アデレードは常に「何か」に脅えているのです。そしてその不穏な空気と恐怖が「自分たち自身」として現れ、現実となってしまったとき、最悪の悪夢が襲います。家に押し入られてからの展開は若干『ファニー・ゲーム』っぽい感じです。

 

 ミヒャエル・ハネケは、『ファニー・ゲーム』に関して、「憤慨させるために作った」と言っています。確かに、家にいきなり見知らぬ人間が押し入ってきて、支配し、暴力を振るうという展開は、誰もが恐怖している事です。監督のジョーダン・ピールは、裕福な家庭に生まれながらも、幼い頃は「自分と同じ顔を持つ人間に生活を乗っ取られるのではないか?」という恐怖を常に感じていたと言います。本作はその恐怖に加えて、それを行うのが「自分とそっくり」なドッペルゲンガーであるという不気味さまで加わっているわけです。しかも撮影監督はM・ナイト・シャマラン、デビット・ロバート・ミッチェル作品を手掛けたマイケル・ジオラキス。これで怖くないわけはない。

 

 このドッペルゲンガーが襲ってくるというストーリーには、もちろん監督の意図が表れています。それは作中で何度か示される二面性。具体的には、貧困と人間、そしてアメリカという巨大国家です。

 

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 ドッペルゲンガー達は、裕福な自分たちが、「貧困になった場合」の存在であり、「今、裕福な暮らしをしている自分たちがいる一方で、貧困にあえいでいる人たちがいる」という二面性を象徴する存在でもあります。冒頭に映されるのは、TVに流れるチャリティーイベント、「ハンズ・アクロス・アメリカ」です。ウィルソン一家のドッペルゲンガー達は、このイベントよろしく、手を繋いで現れます。それはまるで、「自分たちを救ってくれなかった」裕福な人間達への復讐の意志表示のようです。こうして観ると、本作は、「持たざる者たち」として仕組まれた人間が、「持てる者」へ復讐する話と言えます。

 

 このような「乗っ取り」に対して、ウィルソン一家は血みどろの戦いを繰り広げます。この点は実を言うと痛快に感じてしまうところです。特にゾーラがゴルフクラブを握った時の興奮は半端ない。しかし、ここでもう1つの二面性が明らかにされます。それは、「人間は自分の生活を護るためなら、何だってする」ということ。ドッペルゲンガーの撃退は観ていて痛快ですが、状況を考えれば、貧困層の革命を富裕層が力によって封じ込めているわけですし。まぁ、この点は襲ってきたアイツらが悪いんですけど、しかし、これによって、上述の構造が鮮明になり、この世界の二面性が明らかにされます。

 

 ラストにはここまでぼかし気味だった、アデレードの正体が明らかになり、正体を察したジェイソンがお面を被ります。そこから、私は非常に奇妙な気持ちに襲われました。つまり、「もうこの家族は、乗っ取られているのでは?」という不安感です。これはジョーダン・ピールが子どもの頃に感じていた恐怖そのままなのだと思います。

 

 本作には欠点もあります。後半の展開が世界規模になっているからトンデモ感が強調されてしまったとか、全体的に「メッセージありき」で映画が作られているため、示唆的過ぎるなどです。しかし、本作は『ゲット・アウト』と比べて、格段に洗練さているため、そこまで気にはならず、楽しむことができました。

 

 

監督前作。こちらも面白かったです。

inosuken.hatenablog.com

 

 撮影監督が同じ。

inosuken.hatenablog.com