暇人の感想日記

映画、アニメ、本などの感想をつらつらと書くブログです。更新は不定期です。

2021年春アニメ感想⑥【スーパーカブ】

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☆☆☆☆★(4.5/5)
 
 
 トネ・コーケン先生原作のライトノベルをアニメ化した作品。親も友達も「何もない」女子高生、小熊が、スーパーカブと出会ったことで色んなものを獲得していく話。アニメーション制作はスタジオKAI。監督は「BORUTO」の藤井俊郎さん。
 
 本作は、非常に「実写的」な作品です。そして同時に、古くからあるアニメーションの精神を継いだ作品だったとも言えます。藤井監督がインタビューで語っているのですが、本作で意識したのは、「キャラクターの実在感」で、参考にしたのが、ジム・ジャームッシュ監督作『パターソン』だったとのこと。『パターソン』はアダム・ドライバー演じる、作詩が趣味のバス運転手の日常を丁寧に描いた作品です。本作においても、主人公の小熊の生活や心の変化を、丁寧な日常描写を積み重ねて描いています。
 
 分かりやすい点で言うと、まずは日常芝居です。全体的に顕著なのが、本作では小熊や他のキャラの芝居を、1から10まで丁寧にやってくれるのです。例えば、1話では小熊のいつものルーティーンを朝起きてから学校に行って、帰ってきて寝るまでを丁寧に描く。ナレーションも一切入らず、無音で描かれていることもあり、小熊の「灰色」の生活が理解できる名シークエンスです。そしてカブを得てからは、カブのエンジンをふかし、出発し、いつもとは違う場所に行く、という下りや、カブの手入れを最初から最後まで丁寧に描く。白眉は4話で、小熊がカブのメンテをするだけで1話終わるのにめちゃくちゃ面白い。これは、小熊の心情描写や動きを、しっかりとした間で演出しているからで、本当に『パターソン』に近いと思いました。
 次に、色の演出。本作は、小熊が「何もない」日々を過ごしているという設定から、基本的に画面が灰色なのです。監督のインタビューによると、これは銀残しを意識したとのことで、小熊の心が開くのに合わせ、一気に色づく演出をとっています。これも実写映画で用いられるカラーグレーディング演出です。この色づく瞬間が、話数を重ねるごとに増えていくことで、小熊にとっての人生がどんどん充実したものになっているということが視覚的に分かります。それが最終話で「春の到来」の色彩鮮やかなシーンに繋がっていきます。
 
 また、本作では「繰り返し」の演出も目を見張ります。本作では、基本的に舞台が北杜市に限定されており、同じシーンが何度も出て来ます。具体的に言うと、これは交差点と、学校、通学路が象徴的だったかなと思います。これが小熊の「何もない」変わらない日常の象徴だったのが、カブを手に入れたことで、友人と一緒に走るとか、違う場所に行くとか、違う意味になっていく演出をとっています。「繰り返す」ことで同じシーンに違う意味合いを持たせるというのはアニメや実写に限らず、映像作品には常套手段ですが、本作はそれも取り入れています。
 
 つまりは本作は、「実写的」であると同時に、映像作品、そしてアニメーション作品として非常に良くできているのです。誰かが言っていましたが、アニメーションとは、本来的には実写のや心情をアニメーションの中に落とし込む。これこそがアニメーションにおける快楽を生む、と。巨匠・高畑勲は「アルプスの少女ハイジ」や「赤毛のアン」などで、彼女らの「実在感」を重視し、アンやハイジの心情の変化を日常芝居と間を以て描き出して見せました(「アルプスの少女ハイジ」の1話で、ハイジがアルム御爺の家に行くまでに1話使った話は有名)。本作は、正しく高畑勲的な系譜を引いた作品だったと思うのです。
 

 

監督が参考にした作品。

inosuken.hatenablog.com

 

 丁寧さという点で共通。

inosuken.hatenablog.com