暇人の感想日記

映画、アニメ、本などの感想をつらつらと書くブログです。更新は不定期です。

3.11と絆の物語【岬のマヨイガ】感想

岬のマヨイガ

 
52点
 
 
 「のんのんびより」シリーズの川面真也監督と脚本家の吉田玲子さんのコンビが贈り出した、アニメーション作品。原作は柏葉幸子さんによる同名タイトルの児童文学。とりあえず、「のんのんびより」コンビの作品ならば観といた方が良いかなと思って鑑賞しました。
 
 ちょっと評価が難しい作品かなと思いました。本作が目指そうとしたのは、おそらくは原恵一だとか、片渕須直的と言いますか、「日常芝居で見せる」という、ある意味でアニメーションの本命であるところの「動き」を重視した作りの作品だったのだと思います。その証拠と言いますか、本作は全体的にかなり抑制のきいた演出がなされ、淡々と進みます。ここは作り手の覚悟と言いますか、気合が伝わってくる点です。そもそも、川面監督の代表作である「のんのんびより」もれんちょん達の周囲のみで話が進む「何気ない日常」を淡々と描いてみせていた作品で、本作と性質が似ています。映画館はTVと違って、スクリーンに集中できる環境が整っているので、「動き」を堪能させるというには絶好の空間です。上手くいっていれば、「動き」そのものを観ているだけで楽しめるような、非常に映画的な?作品になっていたと思います。
 
 本作のこの狙いは、一部は成功してはいます。例えば、冒頭でマヨイガにやってきたひよりのリアクションとか(そもそも、ひよりは声が出せないから、動きで表現するしかない)、中盤に出てくる河童達がご飯食べてるシーンのワチャワチャ感とか。そして、最も素晴らしかったのが何度か挿入される昔話のアニメーション。現代アートチックな超絶作画が楽しめます。湯浅作品でお馴染みの大平晋也さん率いるサークルが参加したからだそうで、ここだけ別次元のクオリティで、観ていて楽しめました。
 
 ただし、上映時間中、ずっと映画館に堪えうるような画面作り、アニメーションだったかと言えば微妙で、抽象的な言い方で申し訳ないのですけど、画面がTVアニメの領域を出ていないなと思いました。なので、観ている間、ずっと「これ、TVアニメでいいのになぁ」と思いながら観てしまっていました。
 脚本的にもちょっとなぁと思う点があって、前半と後半で結構違う内容になっているし、チグハグな点もあるんですよね。前半は上述のような淡々とした日常を描いていて、ユイとひより、そしてキワさんという、それぞれ1人きりな存在がマヨイガに集まり共同生活を営む姿を描いています。しかし、後半は河童を始めとした妖怪たちが全国から集まってきて、『妖怪大戦争』的な話になっていきます。ここで本当に『妖怪大戦争』になったら面白かったのですけど、妖怪たちはあくまで一要素でしかなくて、結局はメインの3人が力を合わせて敵を対峙してしまいます。この過程で3人は「家族」となるので必要な展開だったのだとは思いますけど、妖怪たちは消火活動とかしかやってないので、せっかく出したのにもったいないなと思いました。
 
 メイン3人についても、少し掘り下げた方が良いのでは、と思う点はあって、居場所がない存在だった3人が家族として根をはって岩手に住む、という展開は、震災という、何もかもを壊してしまったものから生まれた新しいものとして見れました。ただ、あの3人が「家族なんだから!」と言い出す下りが若干唐突に感じましたし、キワさんの正体が判明していく下りはもう少し何というか、淡々と日常を描いてしまったツケが来てしまった気がします。
 本作は、東日本大震災という、10年経った今でも非常にセンシティブな要素を扱っているのですけど、その題材との距離の取り方が非常に誠実だなと思いました。本作では震災直後の風景が映し出され、それは今観てもショッキングというか、胸にくるものがあります。この日常の暮らしも含め、それらを悲壮的にでも、まして楽観的に描くのでもなく、あくまで淡々と描くことで、誠実な距離を保てているなぁと思いました。どこぞの『Fukushima50』とは全然違う。
 
 そして本作の「敵」は、人々の不安を吸い取り、巨大になっていく存在で、震災直後で先も見えないながらも頑張っている方々が感じていることを具現化したような存在です。しかも敵の狙いが、人々を土地から追い出す、というのも、震災後にそこに住んでいた方々が離れたというエピソードを彷彿とさせます。その不安の塊を打ち払うのが、新しく集まった「家族」であるというのも、震災直後で、乗り越えるために盛んに叫ばれた「絆」を彷彿とさせます。つまり本作は、震災という、何もかもバラバラになった中で、それでも新しくつながった人たちが、先の見えない不安を生きていこうとする姿を描いた作品で、その距離の取り方は素晴らしいと思いました。それでも、日常芝居で勝負、というコンセプトは微妙だったなぁと思います。