暇人の感想日記

映画、アニメ、本などの感想をつらつらと書くブログです。更新は不定期です。

TVドラマ「相棒」の歴代相棒と作風の変遷

はじめに

 今年も10月から新シリーズが始まりました、TVドラマ「相棒」。TVドラマは今年で20周年を迎え、それでも視聴率は好調を維持。未だ衰えることを知らない驚異的なドラマシリーズです。私はSeason7から視聴を始めた人間なので、もう12年の付き合いになります。このブログではそこまで話題にはしていないのですけど、以前書いた脚本家の変遷をまとめた記事を書いたことがあります。こちらはどうも好評をいただいており、未だに読まれているようです。感謝。ちなみにこの記事なのですが、今シーズンで、また新しい脚本体制がハッキリすると思うので更新しようと思っています。
 
 さて、今回は久しぶりの「相棒」関連の記事になります。まだ書いていない新作映画とかアニメの感想記事が溜まっているのですけど、現在新シリーズが放送中ということで、この機を逃すと執筆が1年後に伸びそうなので、「思い立ったが吉日」ということで書くことにしました。
 
 その内容は、「歴代相棒の変遷」です。TVドラマは今年で20年なので、テコ入れも必要ということで、相棒はこれまでに3回変わり、現在の冠城亘で、4人を数えます。俳優との不仲だなんだと週刊誌では騒がれていますが、(寺脇康文はマジかもしれませんが)、実際のところは長期シリーズにするためのテコ入れが主な理由です。そしてそれは結構上手くいっており、各相棒のキャラ立ちの良さや、それによって右京さんとの関係性が変化し、シリーズに新鮮さを加えてきました。今回の記事では、この相棒の変遷を各相棒ごとに書いていき、相棒の特徴や、それに伴って変化した、作風について書いてみたいと思います。そしてその際、各相棒ごとにある、「右京の正義の暴走」エピソードに注目したいと思います。亀山で言うところの「裏切者」であり、このエピソードにおける相棒の立ち位置が、各相棒のスタンスを表していると思うので。
 

初代:亀山薫

https://images-na.ssl-images-amazon.com/images/I/51RB3SMX5ZL._AC_.jpg

 

 言わずと知れた杉下右京にとって、最高の「相棒」。初登場はPre Seasonの第1話。性格は肉体派でお人好し、ちょっとバカな熱血漢でした。右京さんは現在以上に冷静な、半分機械みたいな人間だったので、完全に正反対の人間です。完全に水と油の2人ですが、亀山は右京から警察官としての自覚と正義を学び、右京は融通の利かない自身の思考を補ってくれる存在として、互いに認め合い、抜群のコンビネーションを発揮するようになります。その様はまさしく「相棒」であり、退場から12年経った今でも、ファンからは「杉下右京最高の相棒」と認知されています。
 
 基本的に亀山が相棒だった頃は話はバリエーションも豊富で、オーソドックスな殺人事件だけではなく、亀山のトラブル体質と友人運のなさが原因で持ってきた事件を右京さんが解決する、という流れも多かったです。それが「相棒」という作品の幅の広さに繋がっていきました。つまりは話の窓口が多かったんですね。また、亀山が馬鹿であるということと、寺脇康文さんの演技によって、コミカルな側面も強調され、それもドラマの厚みに貢献していたと思います。
 
 注目するエピソードは「裏切者」です。脚本は櫻井武晴。S5を代表する傑作エピソードです。こちらではあくまでも真実を追求し、法の下に犯人を裁こうとする右京と、恩師が事件の隠蔽に関わっていたことで苦悩する亀山の姿が描かれます。この話では亀山が「警察官である」ことから恩師を説得し、隠蔽を明るみにします。ここでは、「法の下に裁こうとする右京」と、亀山の「警察官として、人として」という人情的な面がしっかりと出て、それが上手く融和した、2人にとってピッタリのエピソードでした。そしてこれはS7の「最後の砦」に繋がり、亀山は「右京さんに付いていく」とまで言うようになります。2人が信頼し合った関係であると言えるエピソードです。
 
 結論としては、亀山は杉下右京にとって足りないものを補うまさしく「相棒」であり、2人が上手く融和していた時期と言えます。また、亀山という入り口がいることで事件と人間関係にもバリエーションが生まれ、ドラマに厚みが出ていたと思います。
 

2代目:神戸尊

https://images-na.ssl-images-amazon.com/images/I/71dw0OuogtL._AC_SL1500_.jpg

 

 不動と思われた亀山から交代した2代目相棒。初登場はS7の第19話。性格は亀山と正反対のクールで冷静な人物。登場時は完全にただの及川光博でしたが、太田愛さんと櫻井武晴さんの尽力でアツい側面も持ち合わせたキャラになり、人気を獲得しました。彼が失敗していたら相棒というシリーズは終わっていたことを考えると、彼が果たした役割は大きいと言えます。ちなみに、右京の「相棒」だった時期は3年でしたが、度々ゲスト出演もしており、「出演期間」で言えば歴代No.1です。
 
 神戸尊というキャラクターは魅力的でしたが、話のバリエーションは少なくなってしまった印象です。というのも、神戸は私生活が謎であるため、人間関係もそこまで分からず(元カノは出てきたけど)、事件の入り口は「事件現場に特命係が押し掛ける」ばかりになります。また、亀山期にはあった「ジャーナリズム視点」も無くなってしまったことも問題でした。
 
 ただ、最初のうちは、既に完成された「相棒」ワールドの中に神戸が入ることで起こる反応は面白かったです。右京さんはめちゃくちゃ邪険に扱うしイヤミも言うし、捜一トリオは「ソン」とかいう間抜けな渾名をつけるし、大河内さんの視線が気になったと、亀山期では見られなかったキャラの面を見られました。
 
 そんな神戸ですが、注目するエピソードは「暴発」。脚本は櫻井武晴。亀山の「裏切者」は2人がしっかりと信頼し合っていたことを象徴するエピソードでしたが、こちらは亀山と神戸の違いが決定的になるエピソードでした。右京の正義の暴走を、神戸が被害者の遺志を汲んで止めるという内容です。最後まで平行線をたどった2人の姿は衝撃でした。こちらではっきりしたことは、「神戸は時には自身の正義のために右京と対立する」ということでした。「ストッパー」という意味では亀山も担なっていましたが、亀山が人情的な側面でストッパーというよりも調整役だったのに対し、神戸は決定的に対立する路線をとります。そしてこれはS10最終話「罪と罰」につながります。
 
 結論としては、神戸は亀山とは決定的に「違う」相棒として上手くいったキャラであり、亀山とは違った意味で、「相棒」だったと思います。ただし、ドラマの窓口は少なくなり、やや単調さが出てしまったかなと思います。
 

3代目:甲斐亨

 

 歴代最年少相棒。愛称はカイト。初登場はS11の第1話。性格は亀山と神戸の中間とも言うべきもので、熱血漢的な側面もあれば、神戸的な知的な側面も見せます。登場してすぐは年齢的な関係から成長物語的な側面が強く、調子に乗るも失敗を繰り返したりしていました。右京さんはカイトを父親的な目で見ることが多くなり、亀山とも、神戸とも違う態度を見せました。設定的には亀山と同じように恋人がいたり、父親との確執もあるなど、ここから新しく「相棒」を始めようという意志を感じました。
 
 しかしこのカイト、歴代相棒の中でも最も不遇な相棒と言えます。それにはいくつか理由があるのですが、1つ目は、「キャラの薄さ」です。先ほど「亀山と神戸の中間」と書きましたが、それ故にどっちつかずのキャラになってしまいました。そして、「成長物語」的な側面はS11で終わってしまい、後はもう何か、「右京さんの傍にいるだけ」な存在になってしまいました。S13で米沢さんが彼のことを「杉下警部の右腕」と言いましたが、そうなんです。「相棒」ではなくて「右腕」なんですよね。
 
 2つ目は「贔屓にしてくれる脚本家の不在」です。神戸には太田愛櫻井武晴がいましたが、カイトには2人にあたる脚本家が真野勝成さん1人しかいませんでした。しかも初参加はS12で、本格的にメインになったのが卒業シーズンのS13からだったので、遅すぎました。これによって、神戸とは真逆の「成宮寛貴さんの演技で何とか持ってる」存在となってしまいます。
 
 そしてこれに加えてついてなかったのが、制作陣が最も調子に乗ってる時期に相棒になってしまったこと。この時期は制作陣の「水谷豊さえいれば相棒は続けられる」という驕り(これに該当する発言は劇場版Ⅱのムックで輿水さんと松本元Pが言及)が見えて、それがカイトの掘り下げのなさに繋がってしまった印象です。そしてそれは、「ダークナイト」の大失敗に繋がります。「成長物語」の帰結としてはありだとは思いますが、もっと他の脚本家と連携とれよっていう。しかも悦子さんも現在に至るまで放置だし・・・。でもこれは成宮さんの事情もあるかなぁ。
 
 注目するエピソードは「最後の告白」。脚本家は金井寛。私の中では「劣化櫻井武晴」という印象の彼ですが、内容もものすごくゆるい「裏切者」です。亀山のように2人が対等になって融和するのでも、神戸のように対立するのでもなく、カイトが右京さんの「正義」に何とな~く取り込まれてしまいます。でも、これは右京さんの忠犬になってしまったカイトには合っている結末だったとは思います。
 
 結論として、カイトは恵まれない相棒だったかなと思いました。成宮さんの演技は素晴らしかっただけに、大変惜しい。ドラマの窓口も広がらず、単調さにも拍車がかかってしまいました。
 

4代目:冠城亘

 

 4代目はまさかの反町隆史。初登場はS14の第1話。法務省から出向してきたキャリアという、これまでにない相棒。スペックは歴代相棒の中でも最強クラスで、右京と対等にディスカッションは出来るわ、咄嗟の判断で捜査対象を味方につけるわ、最後の防衛線として右京さんの逃げ道を用意するわと大活躍。S14の頃はトリックスター的な立ち位置で、右京さんすら利用して真相を解明しようとしたり、右京さんの動きを見るために法を犯したりしました。S14はこのトリックスターぶりが素晴らしく、これまでにない新鮮さがありました。警官になってからも機転の冴えは健在で、右京さんといるだけではない、先代3人のいずれとも違う魅力を出しています。ちなみに、相棒の期間は今年で7年目に入り、歴代最長まで王手をかけています。
 
 この頃は旧体制とキャラクターに加え、青木や益子、花の里の刷新、衣笠副総監、そしてジャーナリズム枠である風間楓子といった新キャラや、新脚本家を投入。新体制を着々と作っていきました。特に風間楓子の存在は素晴らしく、彼女の存在のおかげでドラマの面白さや窓口がぐっと広がりました。それだけに、彼女の不在は本当に惜しい。
 
 注目するエピソードに関しては、様々あるのですが、一番それっぽいのは「或る相棒の死」。脚本家は真野勝成。冠城の危険性と実力がハッキリした作品で、初期冠城を代表する作品になりました。警官になってからは「悪魔の証明」ですかね。歴代相棒ができなかった、右京さんへのハッキリとした敵意を見せ、2人の緊張関係は続いていると言える話でした。「100%の女」はノーカン。ただ、それ以降はそれなりに息の合ったコンビネーションを見せています。
 
 冠城に関してはまだ相棒として在任しているため結論は出せませんが、冠城は未だにトリックスター的な面を持っており、これまでとはまた違った相棒と言えます。ドラマの幅も、登場人物を増やし、そこの窓口を増やすことで幅を持たせています。また、冠城は「真相解明のためには手段を選ばない」という右京さんと同じタイプの人間であるため、櫻井武晴さんに冠城版の「裏切者」を書いてほしいです。多分凄いものができると思うんだよなぁ。個人的な好みで言えば亀山の次に好きな相棒だったりするので、ずっと続いてほしいなと思っています。
 

最後に

 以上が、私の歴代相棒に対する考えです。4人それぞれにいい面があり、ドラマの内容自体も変化していきました。それが「相棒」が長く続いている要因だと思います。脚本家の記事でも書きましたけど、もう相棒はずっと冠城で良いので、可能な限り続けてください。