暇人の感想日記

映画、アニメ、本などの感想をつらつらと書くブログです。更新は不定期です。

辛い現実と向き合い、生きていく若者【青の帰り道】感想

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90点

 

 

 最初は存在すら知らなかった本作。Twitterでフォローさせていただいている方が激推しされていたので存在を知り、時間もぴったり合ったので鑑賞してきた次第です。

 

 本作をポスターだけで判断すると、旬の若手俳優を集めたティーン向け映画のように思われるかもしれません。しかし、鑑賞してみると本作は「青春モノ」ではなく、寧ろその先の「青春の終わり」を描いた作品です。「青春モノ」がモラトリアムという安全な空間の中でイケメンと美少女がキャッキャウフフしているという見ていると「何が楽しいんだバカヤロー」とイライラしてくるものなのに対し、本作はその安全な空間から出た少年少女が社会の中で心を磨り潰されていく様を描きます。なので、観ていると体力を使います。

 

 本作は、まず主要人物7人の高校時代から始まります。そこで映るのはまだ楽園にいる彼らで、夢を語り合い、将来に希望を抱いています。そんな彼らがこの社会の「現実」と向き合い、その身を磨り潰していきます。カナは歌手になりたいと願うも事務所に使い倒され、キリは男に騙され良いように利用され、リョウはモラトリアム気分が抜けず社会に馴染めないまま犯罪に走り、進学したユウキは卒業後就職した会社でクズな先輩に顎で使われ、タツオは医学部を受験しようと思うも2度の失敗で心が折れて引きこもってしまいます。個人的に一番感情移入して観ていました。「俺なんかいらないんだろ!」への共感ぶりは異常。本作の登場人物たちはこの5人のようにロクな目に遭いません。ただ、唯一の例外がコウタとマリコ。彼らは結婚し、他の5人とは比べ物にならないレベルで幸せな家庭を築いています。これには賛否あるかもしれませんが、私は他の5人が辛い目に遭いまくっているので、この2人が幸せであることが唯一の希望でした。

 

 本作を観ていると、この社会というものは、いかようにして若者を磨り潰し、そして若者もそれに必死に順応してできているかが分かります。そして生きる意味を見失った人たちは、自殺を図るのです。本作では、中盤である悲劇が起こります。そしてその悲劇が主人公たち全員を苦しめるのです。

 

 ただ、本作はただ社会の暗部を描いた厭な映画ではありません。最終的に、この苦しみに向き合い、それでも生きようとする若者たちを肯定する作品になります。キリの母親は傷ついた彼女にこう言います。「自分の人生なんだから。自信持ちなよ」と。生きるのが辛くて失敗しても、自信を持って生きればいい。そう言われた気がしました。この母親も、最初とこのシーンでは印象ががらりと変わるのも良いですね。こう考えると、作中では、主人公たちの立ち位置がどんどん変わっていきます。これをちゃんと見せているのも普通に上手いなぁと。そしてそれを演じる7人の役者さんたちはもちろん素晴らしかったです。そうしてもう一度「あの場所」に帰った彼らがすれ違うのは、「あの頃」の彼ら。ここのカタルシスは最高でしたね。

 

 生きることは困難の連続で、意味を見失うこともあれば、折れることもあります。それでも、自信を持って生きろというメッセージは、今の私には非常に胸に響くものでした。劇場で観られてよかったです。