暇人の感想日記

映画、アニメ、本などの感想をつらつらと書くブログです。更新は不定期です。

2021年新作映画感想集②

 新作映画の感想を短く書いてまとめた感想集②です。では、行ってみよう。

 

『聖なる犯罪者』

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77点

 とにかく映画に出てくる登場人物全てが矛盾している。主人公は第2級殺人を犯した犯罪者だけど、何も知らない村で神父をしている。村人は過去の事故でエヴァという女性を村八分にしており、悪人ではないけど、決して善人ではない。主人公がエヴァへ送られた手紙を出したシーンは、聖書にある、イエスが「あなた方の中で、罪のない者が石を投げなさい」といった話を連想しました。そう、皆が潔白というわけではなく、何かしらの罪を抱えているのです。人間は清濁併せ持ち、生きているだけで罪を重ね、「神からどれだけ離れたか」を実感していく。神はそれをただ見ているだけであり、決して逃れることはできないという、強烈な映画でした。

 

 

『ザ・ホワイトタイガー』

ザ・ホワイトタイガー

75点

 インド版『パラサイト 半地下の家族』と言われていますが、観てみれば、「格差社会を舞台にした、主人公がクズじゃない『ナイトクローラー』」ではないかと思いました。

 インドのカースト制が厳しいことは有名ですが、主人公はそこを何とか這い上がろうと必死に富裕層に取り入り、成り上がっていきます。そしてそれをスコセッシ作品みたいにモノローグ中心で進めていきます。ただし、格差という壁は絶対に近く、毒親の影響もあり、簡単には乗り越えられない。だからこそ、ラストの行動に出るしかなかった。この絶対的な分断の存在は確かに『パラサイト 半地下の家族』ですけど、その悪事を成り上がるキッカケにしていく面は『ナイトクローラー』みたいだなと思いました。まぁ要は、元から貧しい人間はこうでもしないと成り上がれないよ、という絶望があるわけですが。

 

比較された作品。

inosuken.hatenablog.com

 

 

『ジャスト6.5 闘いの証』

ジャスト 6.5 闘いの証

80点

 本作のショットの中にある、「熱」のようなものには圧倒されました。冒頭、いきなり麻薬捜査官の捜査が入り、犯人との逃走劇が始まるのですが、まずそこから凄い。疾走感あふれるシーンが非常に長く、しかしスリリングに続き、最後には静かに、しかし誰もが「マジか・・・」と呆気にとられる終わりを迎えます。ここで一気に気持ちを掴まれるのですが、その後も主人公刑事が『フレンチ・コネクション』のジーン・ハックマン級の強引な手で捜査を進める姿が描かれます。終始画面がギラギラしており、その熱と密度に圧倒されるのです。

 これだけならば要は『フレンチ・コネクション』イラン版と言えるかと思いますが、それは前半だけ。本作は非常に変な映画で、後半は逮捕した大手麻薬ディーラーに視点が移動します。彼が何を思い、背負って生きているのか、そして、何としてでも牢獄から抜け出そうとする姿を描き出します。彼の家族周りが描かれ、そこには、世界的な問題となっている貧困が見えてきます。この辺は内容が割と別の映画になっているのですが、彼の問題を理解した上でラストに提示されるタイトル『ジャスト6.5』の意味を理解すると、貧困という問題を放置している限り、彼らの「闘い」が如何に虚しいものだったのか、が分かります。脚本こそは歪でしたが、終始画面に出ているギラギラした熱は大変素晴らしく、134分、全く退屈しませんでした。

 

 

『あの頃。』

あの頃。

72点

 人生がどん底でなくても、仕事が辛かったりしたときとかに、何かに救われたことがある人間には、本作はよく分かると思う。本作の主人公は、大学受験に失敗し、金無し、職無し、夢も無しのどん底生活。そんな中、偶然出会った松浦亜弥の「♡桃色片想い♡」のMVを見てハロヲタ街道を驀進する、という映画。まず、冒頭でMVを見た時の松坂桃李が凄く良い。「推し」に出会って、何かが変わった瞬間を完璧に表現しています。予告でも使われていたシーンですが、本作はここだけで観る価値があると思います。私も就活に失敗して、人生に何の楽しみも無かった時期に映画に出会って、今まで生きてこれたので、この気持ちは分かります。

 アイドルでなくとも、好きなものに出会い、同じものが好きな同志と出会うことで人生が色づいてゆく、というのはどの年代でもあるわけで、本作はそんな彼らの青春を切り取った作品としては素晴らしかったです。まぁ、ホモソ的な展開は苦手でしたが・・・。

 また、本作は今泉力哉監督作として観ても、他の作品と共通している点があります。それは、何かを「好き」になることを肯定する姿勢です。常に「片想い」を描いてきた今泉監督ですが、本作では対象がアイドルという、究極の片想いを描きます。その姿を滑稽に描くわけでもなく、松坂桃李らがアイドルを応援する姿勢を、ただ肯定して映して見せます。面白いなと思ったのは、大学の学園祭か何かで、ハロプロのイベントを主催したとき。ライブの時の応援する姿を映したとき、周囲がドン引きしている中、全くお構いなしにパフォーマンスをしているヲタ達を見た時、本作の姿勢が見えた気がしました。「周りがどう思おうとも、自分たちが好きならそれでいいんだよ」みたいな。

 

今泉監督作品たち。

inosuken.hatenablog.com

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