暇人の感想日記

映画、アニメ、本などの感想をつらつらと書くブログです。更新は不定期です。

2018年秋アニメ感想⑤【色づく世界の明日から】

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 『天狼 Sirius the jaeger』の次にP.A.WORKS制作が放ったオリジナル作品。視聴を決めた理由はこれだけで十分。中には微妙な作品もありますが、基本的にP.A.WORKSの作品は安定して面白いので。監督は『凪のあすから』や『さよ朝』でP.A.WORKSとコンビを組んでいる篠原俊哉さん。本作では現実とはちょっとだけ違う架空の日本の高校を舞台に、思春期の少年少女たちが恋愛や将来に不安を抱きながらも少しずつ成長していく青春群像劇を描きました。

 

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  ただ、本作を視聴し始めて違和感を覚えるのが、舞台設定。初めこそ『凪のあすから』みたいなファンタジーでいくのかなと思っていたのですが、いきなり祖母の魔法によって主人公はタイムスリップさせられ、現在(2018年)の日本に飛ばされてしまいます。その理由は、どうやら「世界から色を失くしてしまった」瞳美を成長させるためらしい。「何というスパルタ」と思いながらも、いきなりタイムスリップさせられた瞳美の心情はいきなりの展開に驚いた視聴者の戸惑いと被るため、瞳美のあたふたは見ていて楽しかったです。

 さて、本作の軸は上述の通り、「色」を失くした=世界から希望を見失った瞳美が世界を肯定的に見えるまでを描いた成長物語です。この世界の色は、毎回美麗な背景を見せてくれるP.A.WORKSと相性抜群の要素だと思います。そして本作は、この「色」の設定を上手く活かした物語でもありました。この点では、P.A.WORKS的な作品だと言えなくもないと思います。

 「十人十色」という言葉があります。要は「みんな違ってみんないい」的なことです。作中のメインの登場人物たち7人は、瞳美以外にも進学だったり恋愛だったりと悩みを抱えており、そこにフィーチャーした回もあります。例えば胡桃はデキる姉にコンプレックスを抱き、あさぎは自分に自信が持てません。そして唯翔は絵が好きなのにもかかわらず、進学をしようとしません。本作ではそんな彼らが悩みと向き合い、自分の道を進んでいく姿を描きます。この様々な悩みは、そのまま多種多様な「色」と置き換えて見ることができます。それぞれに個性的な「色」があり、それらによって世界は彩られているのです。これを瞳美が世界を肯定する瞬間と同時に提示してきたときには、変わり種と思っていた要素を上手くまとめたなと思い、ちょっと感動さえしました。

 この点は上手いなと思ったのですが、少し惜しいなと感じたことも真実。尺が足らないのです。そしてそれによって、登場人物全員の掘り下げがそこまでできず、一部の登場人物のことがよく分からないまま終わってしまいました。しかも、唯翔と瞳美の距離が近づいていくのも、もう少し丁寧に描けたら説得力が増したとも思います。さらに、尺以外にも、これは個人的な希望ですが、彼らがその後どうなったのかも劇中で描いてほしかったなぁと思いました。60年後の琥珀が語るだけでも良かったからさ。

 このように、惜しい点もありましたが、作中のファンタジー要素を上手く青春群像劇に活かした作品で、楽しんで見ることができました。

 

 

P.A.WORKS制作の劇場アニメーションで、感動作。

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香川照之のサイコパス演技が笑えるけど怖すぎ【クリーピー 偽りの隣人】感想

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85点

 

 

 2016年に公開され、黒沢清映画の中ではちょっとだけヒットした映画。黒沢監督作は大分前に『CURE』を観ただけ。そんな私が本作を観た理由は、「世界最恐の映画監督 黒沢清の全貌」を読んだから。この本で黒沢清さんがどんな意図でシーンを演出し、映画を作っているのかが分かり、俄然興味が出てきたので、「ベスト・オブ・黒沢清」の呼び声高い本作を鑑賞した次第です。ちなみに、本作は2018年最後に観た映画になります。

 

世界最恐の映画監督 黒沢清の全貌

世界最恐の映画監督 黒沢清の全貌

 

 

 ネット上では賛否が割れている本作ですが、個人的には素晴らしい作品だと感じました。確かに、ミステリーとしてはグズグズだし、登場人物の行動は意味不明だし、ストーリーも突っ込みどころしかありません。ただ、それでも私が本作を素晴らしいと思う理由は、本作の1シーン1シーンから滲み出ている不穏な雰囲気が素晴らしすぎたから。ずっと緊張して見入ってしまいました。映されているのは私たちの日常にも当たり前にある風景なのですが、風や、会話の間、背景にいる何てことのない人間、そして移動している間に変わる画面の明暗といった要素とテクニックを駆使して我々の不安と緊張を煽り続けます。故に観ている間はストーリー的に杜撰でも、全く気にならず観ていられました。

 

 話の内容も何となくでしか分からないのですが、「世界最恐の映画監督 黒沢清の全貌」で誰かが書いていた「黒沢監督は夫婦の話を描いてきた」という記述を基にして考えてみると、本作も「夫婦の話」であることが分かっててきました。確信したのが終盤で竹内結子が眠っている西島秀俊の世話をするシーン。あそこの竹内さんの満ち足りた表情を観て確信しました。「あ、この人今幸せだと思ってる」と。そう考えれば、西島秀俊の空っぽ演技も納得です。彼は自分では常識人ぶってますが、観ればわかるように、かなりヤバい奴です。そいつが事件にのめり込んでいくに従って竹内結子の気持ちは不安定になっていきます。要はもっと一緒にいたいんですね。だからこそ、彼女はラスト付近で出来上がった「偽りの家族」の中にもどこか幸せそうな感じを出しているのだと思います。しかし、それ故にラストのあの展開は、もう夫婦の仲に取り返しがつかない断絶が出来てしまった気がしました。でもああしないと最悪な展開ですけどね。

 

 西島秀俊が「一見普通のサイコ」だとしたら対する香川照之は「目に見えてサイコ」な存在です。最初こそ要領を得ず、噛み合わない会話で笑かしてくれましたが、後半になってそのサイコパス感が心の底から恐ろしく観えてきます。本当に自分のしたことに責任を感じてない演技は圧巻でした。

 

 このように、私にはバッチリハマりました。これから監督作を追っていこうと思います。時間あればね。

「遅れてきた世代」が紡ぐ「新たな伝説」【クリード チャンプを継ぐ男】感想

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100点

 

 

 「クリード」その意味は”信念”

 

 『ロッキー・ザ・ファイナル』から9年。まさかのシリーズ復活作。前作で「ロッキーの物語」は完結しているため、主人公はロッキー最大のライバルにして最高の親友、アポロの息子アドニスになっています。しかし、鑑賞した方なら分かると思いますが、本作は『ロッキー』1作目の精神をそのまま受け継ぎ、尚且つ現代の若者へ向けて作られた作品だということが分かります。

 

 私が精神を受け継いでいると特に思う点は2つ。1つは、アドニスがロッキーと同じく「自分の価値を証明する」話だからです。確かにアドニスとロッキーは生い立ちがまるで違います。方や取り立て屋で日銭を稼ぎつつ場末のボクサーをやっているゴロツキ、方や1流企業に勤めているエリート社員ですから。しかし、両者に共通しているのは、自分を信じ、その価値を証明しようとした点。ロッキーはアポロと戦い、「ゴロツキ」ではないことを証明しようとしましたし、アドニスは自分を「過ち」ではないと証明しようとし、その結果として「クリード」の名前を受け入れるのです。本作は「アドニスクリードのオリジン」でもあるのです。「何者でもなかった男が何者かになる」ことは『ロッキー』1作目と同じ内容です。だからこそ、終盤でロッキーのテーマが流れ、アドニスが「新世代のロッキー」になったことを示すのです。「クリード」の名前を受け入れる時も、『ロッキー』のラストの台詞「愛してる」を上手く使って表現していて、本当に脚本が上手いなと唸らせられました。

 

ロッキー (字幕版)

ロッキー (字幕版)

 

 

 また、このアドニスは我々、「若い世代」、つまり、伝説をリアルタイムで観られなかった人々を代表する存在です。我々のような後から生まれてきた人間は、過去の伝説を映像などでしか観ることができません。故に、アドニスがアポロ・クリードの影を追い、過去に投稿された動画を見てシャドーボクシングをするシーンは泣けてきます。彼も「伝説」の影を追う存在だからです。本作が素晴らしいのは、この「遅れてきた世代」が「新たな伝説を作る」話でもあるからです。

 

 少し脱線しましたが、本作が『ロッキー』の精神を継いでいると思う点その2は、本作が「立ち上がる」話だからです。この「立ち上がる」はアドニスにも言えます。自らの価値を証明するためにリングに上がるのですから。しかし、本作でより「立ち上がる」のはロッキーです。彼はエイドリアンとポーリーという最愛の妻と親友に去られ、孤独に暮らしています。そこへやってきたアドニスにコーチをしますが、途中で病に倒れ、「早くエイドリアンに会いたい」とまで言います。そんな弱り切っている彼ですが、アドニスに鼓舞され(この時のランニングとウィリーが最高)、病と闘うため、そしてアドニスとリングで共に闘うため、再び「立ち上がる」のです。

 

 以上のような2点から、私は本作が『ロッキー』の精神を継いでいると思うのです。

 

 その他にも素晴らしい点は多くて、例えばアドニスのデビュー戦で、ワンカットで撮ったあの撮影方法とか、タイトルの出方とか、後は何よりスタローンの演技ですね。全編素晴らしいのですが、中でも白眉なのが終盤でアドニスが「証明する」と言った後の表情です。あの一瞬でロッキーはアドニスが自分と同じだと悟ったのだと分かる名演でした。

現代に上手くアップデートされたリメイク作【アリー/スター誕生】感想

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80点

 

 

 1937年に公開された『スタァ誕生』の3度目のリメイク。本作は前作にあたる1976年の『スター誕生』のように音楽業界を舞台にしています。私は過去3作は未見です。鑑賞理由は単純で、話題だったからです。後、ブラッドリー・クーパーの監督としての腕がどれほどのものか気になったのも理由です。ちなみに、2018年最後に映画館で観た映画でした。

 

スター誕生 [Blu-ray]

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 鑑賞して誰もが感じるであろうことは、ブラッドリー・クーパーの監督としての腕です。ライブシーンの臨場感とか、何てことない2人の演出とか、ストーリーの組み立てと感情のコントロールの仕方とかがメチャクチャ上手いのです。本当にこれが初監督なのかと疑うレベルです。これはマジで上手くいけばクリント・イーストウッドを継げるかもしれません。

 

 中でも最も適切な演出だなぁと感じたのがカメラワーク。観て誰もが感じたと思うのですが、とにかくカメラが2人に近いのです。これによってこの映画の世界そのものがこの2人に集中され、「この2人だけの世界」が作られます。本作はこの2人の話であるため、その他の要素を排するこの演出は実に的確だなぁと思いました。要は形を変えた『ラ・ラ・ランド』ですね。

 

ラ・ラ・ランド-オリジナル・サウンドトラック

ラ・ラ・ランド-オリジナル・サウンドトラック

 

 

 ストーリーも、少しテンポが良すぎだと思いましたが、良いと思いましたよ。ちゃんと2人の気持ちが通じ合って、交わって、お互いにとって幸せの絶頂にいる瞬間を「Shallow」を使って非常にエモくしています。また、逆に気持ちが通じなくなって、どんどん墜ちていく過程を丁寧に描き、そのどん底グラミー賞というアリーにとって最大の晴れの舞台で出すなども上手いなぁと。しかもこのどん底はジャックにとってのどん底でもあるため、このシンクロのさせ方には舌を巻きました。また、劇中で歌われる歌も、歌詞が内容とリンクしたものなので、作品を盛り上げてくれます。

 

 役者陣も素晴らしかったです。ブラッドリー・クーパーはいつも通り芸達者ぶりでしたが、本作ではそれが際立って出ていたと思います。しかし、レディー・ガガに関しては、まさかあそこまで上手いとは思っていませんでした。おそらくブラッドリー・クーパーの手助けもあったと思いますが、にしてもあの上手さは異常。ただ、レディー・ガガに関しては、作中のアリーに起こったこととほぼ同じことが彼女に起こっていたらしいので、半分は素のままなのかもしれませんが。だから実話と勘違いする人がいるのも分かる気がします。

 

 ラストも良くて、アリーがジャックへの歌を歌っていて、突如ジャックのシーンが挟まれることで、歌の真の意味が浮かび上がり、同時に感動できる。あれは反則級だと思いますよ。そして映画はアリーの顔のアップで終わります。私はここで、ジャックとの死別を乗り越え、「アリー」という1人のスターが誕生したと感じました。総じて良作だと思います。

 

 

 

驚異的なテクニックで描かれる群像劇【ブギーナイツ】感想

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88点

 

 

 今なお第1線を走り続けている天才監督ポール・トーマス・アンダーソン。彼の覇道が始まった記念すべきデビュー作。遂に鑑賞しました。

 

 「天才監督」と言われるポール・トーマス・アンダーソンですが、デビュー作からその才能を爆発させています。ストーリー、演出、カメラワーク等、どれをとっても「ベテラン監督が撮ったのか?」と思えるくらい、本作はデビュー作とは思えないほどのクオリティを持つ作品なのです。

 

 まずストーリー。本作はよくこう例えられます。「ポルノ映画界の『アラビアのロレンス』」と。大筋は人並み外れたイチモツを持つ主人公が、それを以てポルノ映画界で成功してくというよくあるもの。しかし、本作は『アラビアのロレンス』がオスマン帝国からのアラブ独立闘争の歴史をロレンスという1人の人間の視点から描いたように、本作はポルノ映画界の栄枯盛衰の歴史を主人公・エディを始めとしたキャラたちを通して描いているのです。規模が違うからこそ、同じことをしていることに感心します。すげえ。

 

 また、このキャラクター達もみんな魅力的で、かつ今の大物スターばかり。マーク・ウォールバーグドン・チードルフィリップ・シーモア・ホフマンジュリアン・ムーアウィリアム・H・メイシー等が平然と出ています。彼らの野望や恋愛などの気持ちがぶつかり合りあい、和解していくさまは、さながら青春映画です。

 

 本作は、このような魅力的なキャラ、ストーリーを、驚異的なカメラワークと演出で見せていきます。特に冒頭からブッ飛ばされます。『黒い罠』の冒頭の驚異的な長回しと『ゴッドファーザー』の登場人物紹介を同時にやるという離れ業を見せてくれます。他にも、水中に飛び込んでそのまま撮影したり、かと思ったらデ・パルマ映画のような場面分割を駆使した編集テクニックを見せてくれたりと、それまでの映画作品のテクニックが監督なりのアレンジで入っているのです。これは舌を巻きっぱなしでした。

 

 このように、本作はやっていることはB級ポルノ映画界の話ですが、中身は驚異的なテクニックと魅力的なキャラクターが織りなす群像劇としての面白さが詰まった素晴らしい作品でした。

 

 

ポール・トーマス・アンダーソンの最新作。こちらもとんでもない作品でした。

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映画界を舞台にした同じような作品。

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インドに実在した「スーパーヒーロー」の映画【パッドマン 5億人の女性を救った男】感想

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80点

 

 

 この世界には、「スーパーヒーロー」がいる。アメリカにはスーパーマンが、ゴッサムシティにはバットマンが、日本にはウルトラマンが、そしてインドには、パッドマンがいる。本作は、インドで生理用ナプキンを発明し、インド中の女性を救った男、「パッドマン」ことラクシュミの活躍を描きます。

 

 本作は基本的には偉人伝です。女性の生理が「穢れ」として扱われ、尚且つ貧しいがために生理用品も買えない妻を救うためにラクシュミが奔走するというもの。ストーリーそのものはベタベタです。ただ、そこはさすがインド映画で、その本筋を非常にテンポよく見せ、さらにメロドラマの要素も盛り込んで大幅に脚色し、そこにさらに現代的なメッセージも盛り込むというエンタメ要素全部盛りの作品として我々に出してきました。

 

 本作が観やすいのはテンポもさることながら、基本的に主人公が前向きだから。序盤で試行錯誤を繰り返すのですが、何度失敗しても諦めずに前に進んでいく姿には見ていて応援したくなるし、何よりそれらをコメディ調で描いている点も良いです。しかもナプキンの発明もラクシュミが論理的に考え、行動した結果が成功に繋がっているため、説得力が凄いです。しかもこれをどん底に落としている状態で行っているため、成功し、世界に認められた時のカタルシスは異常です。

 

 ただ、本作のラクシュミが真に素晴らしく、「スーパーヒーロー」である点は、その発明を徹底して「他者」のために使っている点。特許も取らず、インドで苦しんでいる女性のために使っているのです。だから最後の演説も感動的です。それまで苦しんでいた女性を正当に評価した内容だったと思うからです。

 

 「大いなる力には大いなる責任が伴う」これは『スパイダーマン』の言葉です。力を自分のためではなく、他者のために使う。これこそが、スーパーヒーローの条件であり、それ故にラクシュミは「パッドマン」という「ヒーロー」なのだと思います。

 

 

 王を称えよ!バーフバリ!同じくインド映画という事で。

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 世界には、アベンジャーズがいる。という事で感想です。

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辛い現実と向き合い、生きていく若者【青の帰り道】感想

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90点

 

 

 最初は存在すら知らなかった本作。Twitterでフォローさせていただいている方が激推しされていたので存在を知り、時間もぴったり合ったので鑑賞してきた次第です。

 

 本作をポスターだけで判断すると、旬の若手俳優を集めたティーン向け映画のように思われるかもしれません。しかし、鑑賞してみると本作は「青春モノ」ではなく、寧ろその先の「青春の終わり」を描いた作品です。「青春モノ」がモラトリアムという安全な空間の中でイケメンと美少女がキャッキャウフフしているという見ていると「何が楽しいんだバカヤロー」とイライラしてくるものなのに対し、本作はその安全な空間から出た少年少女が社会の中で心を磨り潰されていく様を描きます。なので、観ていると体力を使います。

 

 本作は、まず主要人物7人の高校時代から始まります。そこで映るのはまだ楽園にいる彼らで、夢を語り合い、将来に希望を抱いています。そんな彼らがこの社会の「現実」と向き合い、その身を磨り潰していきます。カナは歌手になりたいと願うも事務所に使い倒され、キリは男に騙され良いように利用され、リョウはモラトリアム気分が抜けず社会に馴染めないまま犯罪に走り、進学したユウキは卒業後就職した会社でクズな先輩に顎で使われ、タツオは医学部を受験しようと思うも2度の失敗で心が折れて引きこもってしまいます。個人的に一番感情移入して観ていました。「俺なんかいらないんだろ!」への共感ぶりは異常。本作の登場人物たちはこの5人のようにロクな目に遭いません。ただ、唯一の例外がコウタとマリコ。彼らは結婚し、他の5人とは比べ物にならないレベルで幸せな家庭を築いています。これには賛否あるかもしれませんが、私は他の5人が辛い目に遭いまくっているので、この2人が幸せであることが唯一の希望でした。

 

 本作を観ていると、この社会というものは、いかようにして若者を磨り潰し、そして若者もそれに必死に順応してできているかが分かります。そして生きる意味を見失った人たちは、自殺を図るのです。本作では、中盤である悲劇が起こります。そしてその悲劇が主人公たち全員を苦しめるのです。

 

 ただ、本作はただ社会の暗部を描いた厭な映画ではありません。最終的に、この苦しみに向き合い、それでも生きようとする若者たちを肯定する作品になります。キリの母親は傷ついた彼女にこう言います。「自分の人生なんだから。自信持ちなよ」と。生きるのが辛くて失敗しても、自信を持って生きればいい。そう言われた気がしました。この母親も、最初とこのシーンでは印象ががらりと変わるのも良いですね。こう考えると、作中では、主人公たちの立ち位置がどんどん変わっていきます。これをちゃんと見せているのも普通に上手いなぁと。そしてそれを演じる7人の役者さんたちはもちろん素晴らしかったです。そうしてもう一度「あの場所」に帰った彼らがすれ違うのは、「あの頃」の彼ら。ここのカタルシスは最高でしたね。

 

 生きることは困難の連続で、意味を見失うこともあれば、折れることもあります。それでも、自信を持って生きろというメッセージは、今の私には非常に胸に響くものでした。劇場で観られてよかったです。